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悪役令嬢に転生したはずが、主人公よりも溺愛されてるみたいです[web版]  作者: 菜々@12/15『不可ヒロ』1巻発売
本編

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35 イクス目線〜変な女達〜


リディアお嬢様の様子がおかしい。



せっかくあの忌々しい王宮から帰ってきたというのに…。



王宮での生活は本当に最悪だった。

まだ婚約者の立場(それすらも微妙だが)だというのに、あろう事かリディア様の部屋はルイード皇子の繋ぎ部屋だった。



王宮の連中は一体何を考えてやがる!?



滞在中、皇子の世話はリディア様がしていた。

そんなのはメイドの仕事だろうが!

恐らく俺の不満な態度は皇子に伝わっていただろう。


皇子はよく俺を睨みつけては飯をたくさん食っていた。

なにを対抗しているのか知らないが、こっちはたとえ仮でも婚約者の立場になれるお前の方が羨ましいんだ。


そんなイライラしていた王宮滞在もやっと終わり、平和になったかと思っていたのだが……。



俺はなぜか今リディア様と庭に隠れている。


ここは庭師が毎日丁寧に世話している花がたくさんある、とてもキレイな場所だ。

たまに散歩で通るくらいで、長時間いた事はない。


つい先程メイと話していたリディア様が突然部屋を飛び出して行ったので、慌てて追ってきたらここに隠れだした。



一体どうしたんだ?



「リディア様。どうされたのですか?突然……」



リディア様はうつむいてゼーゼーしていた。

全力ダッシュしたので、疲れたのだろう。

息が整ってきたと思ったら、突然顔を上げて俺の腕をガシッと掴んだ。



「イクス!!家出するわよ!!」


「は い?」



家出?突然なにを言い出したんだ?



俺を見上げているリディア様は、まだ走った余韻が残っているのか顔が火照って赤くなっている。

軽く汗をかいていて、何事かわからないが真剣な表情だ。



こんな姿も可愛いな……。



思わずふっと小さく笑うと、リディア様にジロっと睨まれてしまった。



「笑ってる場合じゃないのよ!早く!

とにかく今すぐ家から出るわよ!」


「家を出るにはエリック様の許可が必要です」


「もぉーーー!今はそんな時間ないんだってばー!」



リディア様は何をそんなに急いでいるんだ?



不可解な行動をただ見ているしかできない。

彼女は周りをキョロキョロして、なにかを警戒しているようだ。



一体どうしたのだろう……。

なにがそんなにリディア様を怯えさせているのか。



その時、背後に人の気配がしたと思ったら誰かに声をかけられた。



「あのー……そこで何をしているんですか?」



振り返ると、先程窓から見た栗毛色の髪の女性が立っていた。

エリック様の婚約者、サラ様だ。



なぜここに?

屋敷の入り口とは離れているのに。



「すみません。貴方が走っているのが見えて……。

つい追いかけて来てしまったんです。

貴方……もしかして、騎士のイクス卿では?」


「はい。そうですが……」



なぜサラ様が俺の名前を知っている?

会った事などないはずだし、俺はまだ若手の騎士なので有名でもない。

それに、見かけたからといって何故追いかけてくる?



サラ様はふわふわした髪の毛と同じ栗色のパッチリした瞳で見つめてきた。

リディア様と比べると素朴だが、とても綺麗な方だ。


一見おっとりした優しさを感じるような見た目だが、雰囲気がどこかおかしい。

今も俺の事を上から下までジロジロ見ては、にや〜と薄気味悪い笑みを浮かべている。



エリック様には申し訳ないが、とても気持ち悪い。

なんだこの女。

まるで少し前のリディア様のようで、鳥肌が立ったじゃねーか。



自分の後ろにいるリディア様の様子をうかがうと、顔が真っ青になって震えている。

リディア様はいつの間にか俺の背中にピタッとくっつき、サラ様から見えないように隠れていた。



なんだ?

もしかして、リディア様が逃げていた相手は……サラ様なのか?

リディア様がこれほど怯えるなんて、この女はリディア様に何をしたんだ!?



俺の中でサラ様に対する嫌悪感がどんどん増していく。



「ふふ。やっぱり本物は素敵ですねぇ。

ところで……後ろに隠れているのはどなた?

イクス卿にそんなにベッタリくっついて……」



サラ様の声が後半になるにつれて低くなり、思わずゾッとしてしまう。

後ろでリディア様がビクッと怯えたのがわかった。



どうしたらいいのか。

リディア様は、きっとサラ様には会いたくないのだ。

出来ることならこのまま去って欲しい。


だが……ただの騎士の俺が、侯爵家当主の婚約者に意見を言えるはずもない。

リディア様……。



リディア様の様子をうかがうと、彼女は俺の背中から出てきてサラ様と顔を合わせた。

不思議と今はきちんと笑顔を浮かべて堂々としている。



「はじめまして。

コーディアス家長女、リディア・コーディアスでございます」



リディア様の挨拶を聞いて、サラ様は大きく口を開けたまま放心していた。

何をそんなに驚いているのだろう。


その間抜けな顔を見て、噴き出しそうになったのはバレていないはず。


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