33 ちょっと待って。その名前聞いた事ありますが
「はぁー!!疲れた!!」
ふかふかのベッドに思いっきりダイブする。
部屋には私1人だけなので、人の目を気にする必要もない。
外はもう真っ暗。
帰宅してからすでに5時間は経っているが、今やっと1人になれたところなのだ。
お風呂も済んで、あとは寝るだけの状態。
現世だったら漫画でも読みながらお酒とおつまみを楽しんでるところね!
ここには漫画もないし、まだ15歳の私はお酒も飲ませてもらえない。
テレビもゲームもないし…。
つまらないから寝てしまいたい所だけど、なぜかそんな時に限って目がパッチリ覚めちゃってて眠れないのよね。
ベッドに仰向けになって、今日の出来事を思い返してみる。
王宮からの帰り道、同じ馬車に乗っていたエリックから「なんで婚約解消したいんだ?」と詰め寄られてしまった。
「処刑エンドになりたくないから、出来るだけ目立たず生きていきたいの!」なんて言えるはずもなく…。
どう答えていいのか困っていたら、まさかのカイザが助け舟を出してくれた。
「理由なんてどうでもいいだろ!
とにかくリディアはルイード皇子とは結婚したくないんだろ?
だったらしなきゃいいだけじゃねーか」
と、あっけらかんと言ってくれた。
その言葉に、エリックも
「リディアの考えが聞きたかっただけだ。
婚約解消については、俺も反対はしない」
と言い返していた。
正直ビックリよ!!
だって、王宮に妹が入ればコーディアス侯爵家にとっても悪い話じゃないじゃない?
「婚約解消なんてするなー!」って言われるかと思ったのに…。
2人とも、「まだ結婚なんて考えなくていいだろ」とか「婚約者とかいらねぇだろ」とかブツブツ言ってたくらいよ。
政略結婚が当たり前な世界なのに、それをしようとしない兄達…ちょっと素敵じゃない!
思わずニヤニヤしてしまった私を見て、エリックは優しく微笑んでくれて…カイザは「なにニヤついてんだよ」って言いながらおでこをコツンとデコピンしてきた。
デコピンは痛かったけど。
でも、それでも温かい空気だった。
家族…って感じがして、すごく幸せだったな。
「ふふふ…。
主人公が来るまであと2年…。
良い調子なんじゃないの〜これ!」
このままもっともっと家族の絆を深めていけば、処刑エンドは絶対にありえなくなるはず!
私は満たされた気持ちのまま眠りについた。
この時の私は、小説の『見えていない部分』の事にまで考えが及んでなかったのだ。
今がまさに嵐の前の静けさであった事に、気づいていなかったのだ。
翌朝。エリックとカイザと朝食をとっていると、執事のアースが入ってきた。
アースはエリックの所に行き、なにやらボソボソと耳打ちしている。
アースからの言葉を聞き、エリックの顔が少し歪んだ。
なにかあったのかしら?
「今日は忙しい。ずっと王宮にいて、仕事が滞っているからな。
明日も無理だろう。
3日後。そして少しの時間であれば大丈夫だと先方に伝えてくれ」
「かしこまりました」
アースはすぐに部屋から出て行った。
エリックは少し気怠そうにして、フォークをテーブルに置いた。
もう食事はおしまいらしい。
ほとんど食べてないじゃない。食欲がなくなっちゃったの?
そんなにも会いたくない人から、会おうと言われているのかしら?
気になるけどなんとなく聞けない雰囲気…。
自分の部屋に戻ってから、私はメイに聞いてみる事にした。
「ねぇ、メイ。さっきアースがエリックお兄様に言ってた相手って誰なのかしら?
エリックお兄様に苦手な方でもいるの?」
私に質問されて、メイは周りをキョロキョロする。
今は私とメイとイクスの3人しかいないのに。
そんなに聞かれたらやばい事??
「サラ・ヴィクトル様です」
メイは改めて他に誰もいない事を確認し、少し小さめの声で言った。
サラ・ヴィクトル?女?
意外な答えに驚く。
え?面倒くさいご貴族様のジジイとかじゃなくて、女を呼ぶのをあんなに嫌がっていたの?
なにか特別な女なのかな……
…………。
…………ん?
サラ・ヴィクトル……?
それって、主人公の名前じゃない!?!?




