28 王宮に滞在する事になったけど、この部屋はどういう事だ
「エリックお兄様!」
「リディア。ルイード皇子の様子はどうだ?」
「ちゃんとお食事も召し上がってくださいました。
今は解毒薬を飲んで、ゆっくり休まれています」
王宮の応接間でエリックに会い、思わず嬉しくて抱きついてしまった。
エリックは嫌がる事もなく、私の頭を撫でながらルイード皇子の事を聞いてきた。
きっと、私がちゃんと対応できたのか気になっていたんだろうな…。
エリックは昨夜からずっと王宮にいて、陛下やその側近の方々とルイード皇子の毒について話し合っていたらしい。
なんと、すでに疑惑としてレクイム公爵の名前が上がっていたそうだ。
さすが陛下ね…。
レクイム公爵の裏の顔になんとなく気づいていたんだわ。
いくら陛下と言えども、古くから格式のある貴族を理由もなしに失脚させる事はできない。
今回の件は陛下にとってもレクイム公爵家を失脚させるチャンスなのね…。
ずっと怪しく思っていた貴族の悪事が少しずつ手に入ってきたのだ。
このチャンスを逃すような事はしないだろう。
「リディアが今朝カイザに伝えた、レクイム公爵家の裏家業の証拠がどんどん集まってきているんだ。
本当にすごい。
これだけの証拠があれば、公爵家失脚もすぐそこだ。
陛下もとても感心していたよ」
「お役に立てて嬉しいです」
あまり私に期待されすぎても困るんだけどね。
もうこれ以上、王家に得になるような情報を夢に見る事もないだろうし…。
「神様の声がー…」って言うのだって、中身アラサーには精神的にキツいし。
「それから今日から数日間は、俺やカイザと一緒に…リディアも王宮で暮らす事になった」
「え!?」
しばらく王宮で暮らす!?
「またレクイム公爵がお前を狙ってくる可能性があるからな。
全部終わるまでは、ここにいた方が安全だろう」
「わかりました…」
そっか…。確かに、レクイム公爵がそんなにすぐ諦めるとは思えない。
昨夜よりも多く強い暗殺者を送ってこられたら、うちでは荷が重いわね。
王宮で守ってもらえる方が安全だわ。
エリックは薄いグリーンの瞳を細めて笑いかけてくれた。
まだまだ無表情に近いけど、口角が少しだけ上がっているし目も優しい。
「俺はまた戻らないと。もっと決定的な証拠を集めないといけないからな。
お前は王宮にいる間、イクスから離れるなよ」
突然名前を呼ばれて、部屋の壁際に立っていたイクスがピシッと姿勢を正していた。
エリックはイクスに何か目配せをすると、そのまま部屋から出て行った。
エリックは後姿からもイケメンオーラが出ている。
スタイルがいいからかしら?
エリックのような見た目の青年が王宮を歩いていたら、それこそ王子様みたいだわ…なんて呑気な事を考えてしまった。
その後私は王宮のメイドに案内されて、しばらく私が過ごす事になる客室に連れて行かれた。
ピンク色のとても華やかで可愛い部屋。
ベッドカバーやソファまでも、レースやフリルたっぷりで…まるでお姫様のために用意されたような部屋だ。
可愛い…!でも……。
私は部屋の隅にある扉に目を向けた。
あれは隣の部屋と行き来できるためのドアだ。
隣の部屋って、ルイード皇子の部屋ですよね?
これは…客室というよりも、ルイード皇子の婚約者…いや。奥さんのための部屋なのでは!?
「あの…この部屋は…まだ私が使ってはいけないお部屋なのでは?」
「大丈夫です!陛下からの指示ですので!
ぜひリディア様にはこちらのお部屋を使っていただきたいのです」
メイド達は目に見えてわかるほどにウキウキしている。
ルイード皇子の体調が回復するかもしれない期待と合わせて、私との仲もどうにか進展させたいという思いがひしひしと伝わってくる。
あ。やべ。白目剥きそうになったわ。
おい陛下ぁぁーー!!
まだ未婚の男女を繋がった部屋に泊まらせてなにを期待してるんだよ!!
私と同じくらい微妙な…いや。しかめっ面と言った方が合ってるかな。
とても不満そうな顔のイクスを見て、素直にそんな顔ができるイクスを羨ましく思った。




