25 イクス目線。クローゼットの中
リディアお嬢様が誰かに狙われているかもしれない。
まさか本当に、暗殺者が来るのだろうか…?
もし来たなら…。
とてもリディア様には言えないような、残酷な事を考えてしまっている。
どういたぶって拷問して苦しめてやろうか…。
そう。そんな事を考えていないとダメなのだ。
そうでないと、今現在…彼女が密着している部分に全神経を集中してしまいそうなのだ。
今俺は狭いクローゼットの中にリディア様と2人で閉じ込められている。
真っ暗な中、自分の左側に感じる温もりと柔らかさが俺の理性を壊しにかかってくる。
微かに聞こえる息遣いや甘い香りも、すごい攻撃力だ。
今はそんな事を考えている場合じゃないのに!くそ!
気づくと、彼女もどこかソワソワしているように感じる。
きっと暗殺者が来ると聞いて落ち着かないのだろう。
疲れているだろうし、休んでいいのに…。
俺は彼女の耳元で、休んでも大丈夫だと小声で伝えた。
暗闇だったので、思った以上に近づきすぎてしまったらしい。
彼女がビクッと微かに動いた。
なんだよこの反応…。可愛いすぎるだろ…。
彼女を抱きしめたい衝動が押し寄せてくる。
過去にも何度も抱きしめた事はあるが、あの時は全く望んでいなかったし苦痛ですらあった。
自分から抱きしめたいと思う日がくるなんて…。
でも命令された訳でもないのに、抱きしめる訳にはいかない。
俺はそっと彼女の手を握った。これくらいなら…。
もし何か言われても、怯えているようだったから…と言い訳をしたらいい。
だが彼女は手を離さなかったし何も言わなかった。
それだけでこんなに幸せな気持ちになれるのか。
クローゼットから出た後、彼女は俺の手を握ったまま眠りについた。
無防備に寝ている姿はまた俺の理性を揺るがせる。
それにしても、本当に暗殺者が来るとは…。
もしカイザ様が動いていなかったなら、今頃リディア様は無事ではなかったかもしれない。
激しい怒りが湧いてくる。
「…無事でよかった」
白い頬を優しく撫でる。
金色の長いまつ毛が月の光に当たりキラキラ光っている。
見ているだけで、胸の奥が温かくなる。
こんなにも守りたいと心から思う日がくるなんて…。
部屋の外に人の気配を感じて、手を離し立ち上がる。
警戒して剣に手を伸ばしていたが、ドアが開き入ってきた人物を見て姿勢を戻した。
「カイザ様…」
カイザ様は眠っているリディアお嬢様を横目に見て、安堵しているようだった。
暗殺者への拷問は終わったのだろうか?
そのまま近くにある椅子に腰掛けて、はぁーと大きなため息をついた。
だいぶお疲れの様子だ。
服が先程とは変わっている。きっと血のついた服を彼女に見せないために、着替えてきたのだろう。
「…レクイム公爵の仕業だった」
「レクイム公爵!?」
ぼそっと呟いたその名前に、大きく反応してしまった。
レクイム公爵家は王宮とは長い付き合いの、格式ある家柄だ。公爵家の中でも上の方に位置している。
現在、王家を継ぐのは第1皇子が最有力であるが、レクイム公爵が第3皇子に付いた事からどうなるかわからなくなっている。
それくらい力のある家なのだ。
そのレクイム公爵が、第2皇子を毒殺しようとしていた…?
「まさか…第3皇子を跡取り争いに出させるために、第2皇子の身体を早い段階から弱めさせていた…!?」
「そういう事だろうな。
第1皇子は正妃の子だから警備も厳しいし、第3皇子が産まれた時にはある程度の年齢になっていた。
毒にも慣れさせていただろうしな。
だから狙ったのは第2皇子だったんだ」
「そんな…」
「でも今回あいつはヘマをした。
リディアのような女なら簡単に暗殺できると思い込んで、暗殺者も1人だけだった。
失敗するなんて想像もしてなかったのだろうな」
カイザ様がニヤリと笑った。
楽しそうな顔ではあるが、どこか怒りの感情も滲ませていた。
「レクイム公爵家をぶっ潰すぞ」
カイザ様は特に第2皇子派ではなかったはずだ。
ここまで怒っているのは、第2皇子への毒殺疑惑が理由ではなく…リディアお嬢様を暗殺しようとした事への報復なのだろうか。
ギラッと怪しく光るグリーンの瞳にゾクっとした。




