22 カイザ目線
神の申し子!女神!聖女!
騎士達がリディアの事を褒め称えている。
リディアの助言のおかげで、ウグナ山での奇襲に備えられて……結果大勝利をおさめる事ができたと言われているからだ。
騎士団長からその話を聞いた時は、信じられなかった。
あのリディアが?
馬鹿でワガママで自分勝手なあの女が、そんな事できるとは到底思えなかった。
昔は見た目だけは可愛かったが、エリックにしか懐かないし俺とは喧嘩ばかりだった。
最近では見た目の可愛さもなくなり、見るたびに嫌悪してしまうほど近寄りたくもない存在だ。
なので、正直驚いた。
王宮で久々に見たリディアは、まるで別人だった。
昔の面影が残る姿……兄の目から見ても、かなり美しいと言えるだろう。
立ち振る舞いや態度も何もかも、自分が知っているリディアとは違っていた。
そしてなんと言ってもエリックとの仲の良さに驚いた。
あの2人も、最近では全く絡みがなかったはずだ。
いつの間に、あんな顔で見つめ合えるほど仲が良くなったんだ……?
おもしろくない。
なぜだかわからないが、仲の良い2人を見ているとイライラした。
*
ルイード皇子の病の原因は毒だと言った後、俺とリディアは2人で屋敷に戻っていた。
エリックは陛下に話があるからと王宮に残った。
狭い馬車の中でリディアと2人きり……。
なんだか気まずい。
「お前……なんで原因が毒だとわかった?」
つい、睨みながら強い口調で聞いてしまった。
俺の態度にリディアもイラッときたようだ。
同じように俺を睨みつけながら、返事をした。
「神の声が聞こえたからですわ」
堂々と答えてはいるが、どこか恥ずかしそうにも見える。
本当に神の声が聞こえるのか……?
それって……すごい事なんだよな?
これが国内外に知れ渡ったら、リディアの事を狙う連中が後を立たないだろう。
この見た目だ。
女神として奉られる可能性だって高い。
これから先、誘拐や暗殺などの対象にされる事が……
「もう!なんなのよ!
なんでそんなに睨んでくるわけ!?」
「は?」
色々と考え事をしていたのだが、どうやら気づかないうちにリディアを凝視していたらしい。
別に睨んでたつもりはなかったのだが……。
目つきが悪いのは生まれつきなのだから仕方ない。
「別に睨んでねーし、見てもいねーよ!」
「思いっきり見てたでしょ!!」
先程までのお淑やかさなんて、どこへやら。
俺の前では相変わらず生意気な態度だな。
でも不思議な事に、前のようにそれが嫌に感じなかった。
屋敷に着き、リディアはイクスを呼んだ。
イクスは使用人用の馬車で後ろから付いてきていたのだ。
足を捻挫して歩けないから呼んだのだろう。
俺がここにいるっていうのに……。
また謎の不快感を感じて、リディアを無理矢理抱き寄せて持ち上げた。
「きゃあっ!な、なに!?」
「俺が運んでやる」
そう言ってスタスタ歩き出すと、後ろからイクスが呼び止めてきた。
「カイザ様!わざわざカイザ様の手を煩わせる訳には……。私が……」
なにか言ってくるが、無視だ。無視。
あいつも少し前なら自分からリディアを抱いて運ぶなんて言わなかったはずなのに……。
「ちょっと!おろしてよ!
イクスに運んでもらうから!」
リディアが俺の胸元を叩きながら抵抗してくるが、痛くも痒くもない。
こっちも無視だ。無視。
俺の態度を見て諦めたのか、リディアもイクスも大人しくなった。
「もう……なんなのよ……」
少し顔を赤らめて俯いたリディアを見て、初めて妹に対して『可愛い』という感情を抱いた。
俺にだけ懐かない生意気な妹だが、もし今後なにか危険な目に遭いそうになっても……必ず俺が守ってやる。
そんな風に思ったのは初めてだった。




