21 毒の事を暴露する
「いいか!?婚約者とはいえ、お前は女なんだし一応侯爵令嬢としての誇りを持ってだな……」
「婚約者だという事を忘れていたのにどうしてあんな……」
カイザとエリックが交互に責め立ててくる。
うん。2人がなにか勘違いしている事はよーーくわかった!
イクスに逆セクハラをしていたリディアだもの。
そこのとこ、信用が全くないのね!
「ごほん!」
わざとらしく、大きく咳払いをしてみせるとカイザもエリックもぴたりと話すのを止めた。
「お兄様達。なにを誤解なさっているのか存じませんが、先程の行動はルイード皇子様のご体調を見ていただけでございます!」
腕を組み、上目遣いで2人をジロっと睨む。
2人が少し気まずそうな顔をした。
エリックはまだ納得がいかないようで、不満そうな顔で言い返してきた。
「いくら体調を見るためとはいえ、あんなに顔を近づける必要はないだろう」
そこ、そんなに大事なの?
思わずはぁ……とため息が出てしまう。
ここは話を変えるしかなさそうね。
この話をしている限り、エリックお兄様の機嫌は治らなそうだわ。
「それよりも、エリックお兄様。
わかったのです。ルイード皇子様の病の正体が」
その言葉に、エリックとカイザは目を見開いて驚いていた。
驚くのも無理はない。
たくさんの医師が見てきたにも関わらず、誰もルイード皇子の病がわからなかったのだから。
でも1番驚いていたのはルイード皇子だろう。
勢いよく立ち上がり、テーブルに足をぶつけてしまっていた。
私達兄妹3人の視線がルイード皇子に注がれる。
ルイード皇子からの言葉を待っているのだ。
「や、病の正体がわかったって……。
そんな……ほ、本当に……?」
期待と不安が混ざった顔。それはそうだ。
医師でもなくただの15歳の令嬢が言う事など、すんなり信じられるはずもないだろう。
それでも私がウグナ山での功績を出しているから、少しの希望が見えているはず。
私はルイード皇子に向き直り、姿勢を正して堂々と話し始めた。
「ルイード皇子は病にかかっているのではありません。
毒に侵されているのです」
「毒!?」
ルイード皇子と2人の兄が同時に叫んだ。
「お静かに!」
ピシャリと言った私の言葉に、3人はすぐにハッとした顔になった。
誰に聞かれるかわからないのだから、大きな声で話す内容ではないのだ。
そう。本当に毒が原因なのだとしたら、それを盛った犯人は身近にいるという事なのだから……。
ルイード皇子が首を振りながら、弱々しく否定した。
「そんなはずはない……。
毒味係は必ずいるし、俺はもう何年も前からずっと体調が悪いのだ。
もし毒ならば……とうに死んでいるはずだろう……?」
「残念ながら。
皇子が飲まれた毒はとても弱い毒なのです。
1度や2度飲む程度では、さほど身体の変化も感じない事でしょう。
ですが、数年にわたり飲み続けていれば……弱い毒も猛毒になっていくのです」
少し強い口調になっちゃったかな……?
申し訳ない気持ちになり、ルイード皇子から目を逸らす。
ずっと病気だと思っていたのに、それが誰かの企みによるものだと知ったら……。
ルイード皇子は今どんな気持ちだろうか。
「そんな……そんなはず……」
ルイード皇子はソファに座り込み、頭を抱え込んでしまった。
下を向いているため、どんな顔をしているのかは見えない。
「ルイード皇子。突然こんな事を申し上げてしまい、本当に申し訳ありません。
ですが……1度、毒の検査をなさってください。
お願いします」
ペコッとお辞儀をするが、ルイード皇子は頭を抱えたまま動かなかった。
返事もない。
ポンとエリックに肩を叩かれた。
エリックは遠慮するような顔で私を見ると、そのまま抱き上げた。
「今は1人にしてさしあげよう。
陛下には俺から伝えておくから、リディアは先に家に帰りなさい。
ルイード皇子。失礼致します」
そう言いながら、部屋から出て行く。
カイザも無言のままついて来た。
私達が部屋から出る時にも、ルイード皇子が顔を上げる事はなかった。




