18 次男カイザ
「ここが……王宮……!!」
高い天井、金であしらわれた柱や壁。
目がチカチカしてしまうほどの眩しい廊下をエリックと歩く。
こちらでお待ちください、と案内された部屋はとても広く、友達の結婚式の2次会で行ったホテルのようだった。
私とエリックの2人だけなのに、こんな広い部屋に案内するなんて。
王宮の部屋ってみんなこんなに広いのかしら?
はしたないと分かっていても、ついキョロキョロしてしまう。
置いてある家具は全てが高級そうだし、この部屋だけでも一体いくらかかってるのかしら?
そんな事を考えてしまうのは、元一般人だからか。
この部屋へは招待した貴族しか入れないらしく、イクスやメイは使用人用の部屋で待機している。
私といえば、実は今日転生して初めての本格的なドレスを着ているのです!!
髪もいつも以上に念入りに結い上げられ、宝石のたくさん付いた髪飾りやネックレスをつけている。
もうキラッキラよ!!
今日の私はマジ天使すぎるほどの天使だから。
柔らかく座り心地の良いソファでのんびりしていると、バタバタ……という大きな足音が聞こえたと同時にドアが開けられた。
バタン!!
「リディア様でいらっしゃいますか!?」
バタバタ!!と騎士達が数人部屋に飛び込んできた。
大きな声で呼ばれ、思わず「はいぃ!」と変な返事をしてしまった。
遠くの方から、「突然開けるとはなんと無礼な!」と叫んでいる声が聞こえてくる。
部屋にはどんどんと騎士が入ってくる。
これは……50人以上はいるんじゃないか?
がやがやうるさくて声が聞こえにくいが「美しい」「女神だ……」という言葉がたまに届いた。
まぁ、当たり前でしょう。
リディアの美しさは完璧ですからね!!
それにしても、この騎士達はまさか……。
「ウグナ山での敵の策謀を見抜いた女神、リディア様!!
おかげで我々は無事に帰ってくる事ができました!
もし気づいていなかったら、被害は多大だった事でしょう。
本当にありがとうございました!!」
ありがとうございました!!と全員が深くお辞儀をした。
うわぁ……爽快……。
こんなにたくさんの男に感謝されるなんて、なかなか経験できる事ではないわね。
もちろん、悪い気はしない。
少し照れくさくもあるけど、ここは優しく女神らしい笑顔でも振りまいておこうかしら?
ニコッと微笑んだ途端、騎士達の顔が輝き私を見つめる瞳が熱を帯びた気がした。
うん。視線が痛いくらいね。
しかしその時、後ろの方で1人の男だけがお辞儀をしていない事に気がついた。
赤褐色の長い髪を1つに縛っている。
濃いグリーンの目はキツくこちらを睨んでいるようだ。
かなり整った顔をしているが、王子様顔のエリックと比べると野生的な男らしさのある顔で全然違う。
間違いない……あれがカイザね。
私はふんっ!とカイザから目を離し、騎士達へレディのお辞儀を返した。
「みなさんがご無事で良かったですわ」
その一言喋っただけで、騎士達からは「おぉ〜!!」と感動したかのような叫び声が上がった。
なんだかアイドルみたいだな。
騎士の1人が私の手を取り甲にキスをしようとしたが、エリックが引き剥がした。
「お礼は十分です。
みなさんもう下がってください」
エリックが絶対零度の真顔で言うと、騎士達は怯えながら仕方なさそうに部屋から出て行った。
カイザだけは部屋に残っている。
まだ私を睨みつけたままだ。
なんなのよ……。ずっと睨んできて……。
頭にくるが、迫力がすごくてちょっと怖い。
私はエリックの背中にささっと隠れて、服の裾をつかんだ。
それを見たカイザから、さらに怒りのオーラが漂ってきた気がする……。
「ずいぶん仲がいいんだな。
会話すらしていなかったはずなのに。
俺が戦争に行ってる間に何があったんだ?
……リディアもなんか変わってやがるし……」
カイザが嫌味ったらしい声で言った。
腕を組んで、エリックと私を交互に睨み続けている。
「そう睨むな。カイザ。
……リディアが怯えている」
「はっ!随分と優しい兄貴になったようで!」
カイザは小説でもかなりの捻くれ者だったけど、実物も相当ね!!
もう19歳のはずなのに、まだ反抗期の子どもみたいだわ。
「おい!リディア!こっちへ来い!!」
カイザが手を出して私を呼ぶ。
その声は大きく威圧感がある。顔も怒ってるし。
誰が行くか!!
私はエリックに後ろからぎゅーっと抱きついた。
エリックにくっついていれば、行かなくていいだろう。
エリックは一瞬ビクッと驚いていたけど、すぐに私を庇ってくれた。
「行きたくないそうだぞ?」
半笑いで言うエリック。
カイザはさらに怒っていたようだが、知るもんか!!
ウグナ山のお礼を言われるならともかく、いきなり喧嘩売られるなんておかしいでしょ!!




