17 第2皇子を救ってやるとしますか
ひやり……。
あ……気持ちいい。
おでこに冷たい何かが当てられた気がする。
誰かが優しく頭を撫でてくれている。
違う誰かは両手で私の左手を握りしめてくれている。
なんだろう……すごく安心する……。
目を開けると、金色の髪の毛の隙間から覗く薄いグリーンの瞳と目が合った。
元々白い肌をしているその人は、さらに白く……いや真っ青な顔をしていた。
エリック……お兄様……?
「リディア!目が覚めたか?」
エリックの問いかけに、こく……と力なく頷いた。
その時左手をさらにギュッと握られた。
そちらを見ると、イクスが泣きそうな顔で私を見ている。
手を握ってくれてたのはイクスだったのね。
イクスのこんな顔……初めて見た。
いつも落ち着いてクールな姿しか見てなかったから忘れていたけど、まだ17歳の少年だったわね……。
私はイクスに笑いかけて、手を握り返した。
まだあまり力は入らなかったけど。
イクスは安心したのか、「はぁーー……」と大きなため息をついて、握っている手に自分のおでこをコツンと当てていた。
イクスの後ろでは、メイが泣いている。
私…なんでベッドに寝ているんだっけ?
「第2皇子の話をしていたら、急に苦しみだして倒れたんだ。
顔も真っ青で、少し痙攣もしていて……。
みんなすごく心配したんだぞ。
リディアがそんなにも第2皇子に会いたくないと思っていたとは……」
そ、そんな状態だったの?
そういえばすごい頭痛に襲われたような……。
エリックは相変わらず無表情だが、どこか苦しそうに見える。
手は私の頭から頬に移動していた。
頭を撫でてくれていたのは、エリックだったのね。
「心配かけてごめんなさい。
もう、大丈夫だから……。
ちょっと頭が痛くなっちゃっただけなの。
それに……第2皇子に会いたくないなんて思ってないですから」
半分本当で半分ウソだ。
できる事なら、会いたくない。
王宮なんて関わりたくもないわ。
私は平穏で落ち着いた暮らしをしたいんだから。
でも、毒殺される事がわかっているのに放っておくなんてできない。
「でも、こんな体調で……。
明日動くのはキツいだろう。
会うのはまた後日にしてもらった方が……」
エリックの心配は素直に嬉しかった。
後ろでイクスやメイもうんうん頷いている。
みんなから大事にされているようで、つい顔が綻んでしまう。
「大丈夫です。ゆっくり寝て休みますから」
そう言ってエリック、イクス、メイに笑いかけた。
3人はまだ心配そうな顔だ。
無理して欲しくないって目で訴えてきているけど、気づかないフリさせていただきます。
「じゃあおやすみなさい!」と言って目をつぶった。
第2皇子の件をどうするか、考えておかないと!
本当は今すぐ起き上がって、紙に書いてまとめたいところだけど……そんな事、この3人が許してくれる訳ないわよね。
寝たフリをした状態で、考えるしかなさそうだ。
私は先程思い出した小説の内容を浮かべた。
えーーーと……第3皇子派閥のレクイム公爵に、少しずつ毒を盛られていた第2皇子……。
身体が弱いとされているのは、その毒のせいじゃないのかしら?
だとしたら、幼い子どもの頃から毒を飲まされていたのかも。
とんでもない男ね!そのレクイム公爵ってヤツは!!
どうして今まで気づかれなかったのかしら!
そもそも、皇子の食事は常に毒味をされているはず。
すぐに死んでしまうような強い毒なら、皇子が口にする事はないだろう。
だから……確実に皇子が食べるように、弱く即効性のない毒を使ったのね。
たとえ弱い毒でも、何度も何度も摂っていたら猛毒になる。
いつ死んでしまうのかわからないのだから、1日でも早く第2皇子に会わなくては!!
頭痛だったからって、先延ばしになんてしてられないわ!
先程頭の中に入ってきた情報の中に、この毒の解毒に効く薬草の名前もあった。
それを飲み続ければ、良くなるはずだわ。
問題は、どうやって毒の事を伝えたらいいのか……。
いきなり言って、信じてもらえるかしら?
無理よね。
どうする?また神のお告げとか言っちゃう?
厨二病みたいで恥ずかしいのよね……あれ。
まぁ、なんとかなる……かな。
しばらくして、3人が部屋から出て行った気配がしたが、本当に睡魔に襲われていた私はそのまま眠ってしまった。
この時は第2皇子の事ばかり考えていて、私の犬猿の仲である兄……カイザの存在をすっかり忘れていた。




