15 カイザのフラグ折りました
エリックが帰ってきたのは、なんと1週間後の夜だった。
ずっと王宮にいたらしいが、詳しい事はわからない。
ただ、帰宅するなり私の部屋にやってきて大げさに頭を撫でてきた。
わしゃわしゃわしゃ
エリックはどこか嬉しそうな顔をしている。
今まではずっと無表情だったのに、少しだけ笑顔が作れるようになったのかしら?
だがせっかくの美しい顔にクマができていて、疲れ切っているのがわかりすぎるほどの状態でもあった。
この1週間がどれだけ忙しかったのかを物語っている。
「ちょ、ちょっと。エリックお兄様……。
ど、どうしたの……」
「リディア。お前のおかげだ。
お前の言う通りだった。
ウグナ山に敵国のやつらが隠れていたよ」
わしゃわしゃ。
エリックの頭を撫でる手は止まらない。
心なしか、イクスの視線が少し痛い気がする。
「お前の情報がなければ、こちら側は危なかっただろう。
カイザも無事でいられたかどうか……。
被害を最小限に抑えられたのは、お前のおかげだ」
私の話からどうやって敵国を迎え撃ったのかまでは教えてもらえなかったけど、どうやら相手の奇襲は失敗に終わったらしい。
良かった……。
カイザも大きな怪我はしなかったみたいね。
え?カイザの事を嫌っているのに、なぜ助けたのかって??
小説の中のカイザは、左腕が動かなくなった事で自暴自棄になって手に負えない乱暴者だった。
それを癒して救ってあげたのが、兄と結婚した主人公ってわけ。
そこからカイザは主人公への叶わぬ恋をして……どんどんと私と敵対していくのよねー。
だからそのフラグを折ってやったのよ。
敵は少しでも減らさないとね!
まぁ、腕の怪我関係なく主人公に恋しちゃったら意味ないんだけど……。
「もう!エリックお兄様。
お疲れなんだから、早く寝た方がいいわ」
いつまでも頭を撫でてくるエリックの腕をつかみ、自分の肩にまわす。
フラフラになっていたから、部屋まで支えてあげないと……。
以前の生活でも、よく酔ったお姉ちゃんをこうしてベッドまで運んだのを思い出した。
横を見ると、エリックの顔がとても近くにあった。
うわ!!こんな徹夜顔なのに、どうしてこんなにカッコいいのかしら!!
これだから男主人公は!!
少し照れながらも歩き出そうとすると、ふいに肩が軽くなった。
イクスがエリックの腕を私から引き剥がし、自分の肩に回していた。
「イクス……」
「俺が運びます。
リディアお嬢様は部屋で待っててください」
少し不機嫌そうな声だったが、顔は不自然なほどに笑みを浮かべている。
な、なに!?なんか変……。
「おい。イクス……。
なんでお前が……。俺はリディアに……」
エリックがイクスを睨みながら何かを言っていたが、イクスはそのままエリックにも不自然な笑顔を向けて答えた。
「いえ。こういう仕事は俺の出番なので。
さあ、行きましょう。エリック様」
まだ何か言いかけていたエリックだが、余程限界なのだろう。
フラフラしながら仕方なく出て行った。
エリックは名残惜しそうな顔でこっちを見た気がした。
基本無表情なので、あくまで気がしたって感じなんだけどね。
ふぅ……。
カイザの左腕の怪我というフラグも折ったし、エリックともイクスともだいぶ仲良くやれている気がする。
これは、順調に処刑エンドから遠ざかっているんじゃないかしら。
主人公が出てくるまであと2年!!
このままうまくいかせるわよー!!
この時の私は全て順調にいっていると思い込んでいた。




