14 神託じゃないの。ただ小説の内容を知ってるだけなの
今日もエリックからの誘いで、一緒に昼食をとっている。
ほぼ毎日の日課になりそうだ。
……会話は相変わらずほぼないけど。
と思ったら、エリックが口を開いた。
「そろそろカイザが戻ってくるだろう」
げっ!!
持っていたスプーンを落としそうになり、慌てて持ち直す。
カイザとは、エリックの弟でありリディアの兄だ。
短絡的な頭の持ち主で、身体を動かす事にしか興味がないような脳筋男。
口も悪く、小説の中でもリディアとは1番仲が悪かった。
できるだけ顔を合わせたくない男である。
そういえば、いないと思っていたけど……どこかへ行っていたの?あいつ。
「あの……。カイザ兄様はどちらへ?」
「あぁ。リディアは知らなかったのか。
隣国アスメディアとの戦いに参加していたんだ。
昨日勝利したとの報告が王宮から届いた。
そのうちカイザも戻ってくるだろう」
パンを食べながらエリックが答えた。
あの脳筋男、戦争に行ってたわけ?
隣国アスメディアねぇ……ん?アスメディア?
頭の中に小説の内容が蘇ってくる。
『次男カイザは隣国アスメディアとの戦いにおいて、罠にかかり左腕が使い物にならなくなった』
そうよ!!カイザは、左腕が不自由だった。
確か過去の戦いでの怪我が原因で。
もしかしてそれが今なの!?
『罠にかかり……』たしか、この罠って……。
私はテーブルをバン!!と強く叩きながら立ち上がった。
エリックも、側にいたイクスもメイド達もみんながビックリしているのがわかる。
でもそんなの気にしている場合じゃない!!
「大変です!!その勝利はウソなんです!!
敵の罠なんです!!」
エリックにそう訴えるが、なにも響いていないようだ。
ただポカンとしながら私を見ている。
「……突然どうした?リディア」
なんとか私をなだめようとしているのがわかった。
頭がおかしくなったんじゃないわ!!
本当のことなのに!
どうしたら信じてもらえるの!?
「本当なんです!!」
「わかった。
わかったから落ち着け」
もーーー!!全然信じてない!!
「アスメディアは、負けたフリをして国境付近のウグナ山で待機しているんです!!
その道を通る人達を狙っているんです!!
こちら側の3倍の戦力を持って。
よく調べてください!!
実際に戦った相手はそれほど多くないはずです!
だって勝利に油断しているこちら側を狙うために、最初からウグナ山に潜んでいるんですから!」
ここまで言うと、さすがにエリックの顔つきが変わった。
「リディア……。なぜウグナ山の道を通る事を知っている?」
信じられないような、疑いの目を向けてくる。
それはそうだ。
こんな侯爵家のただのお嬢様が知っているはずのない情報だ。
けどなんて言えばいい?
小説で読みましたーなんて、言える訳ない!
「えーと、えーと、その……
ゆ、夢で!夢で神様に言われたんです!!」
しーーーーーん。
あぁ。やってしまった……。
厨二病かよ。神様のお告げって。
こんなの誰も信じてくれな……
「お嬢様が!!神託をお受けに……!!」
わぁ!!とメイド達からの歓声が上がった。
……え?……神託?
「アース!!すぐに王宮へ行くぞ!使いを送れ!」
エリックが立ち上がり、執事のアースに命令を出しながら忙しなく動き出した。
え?え?
ちょっとついていけてない私……。
エリックは慌てて部屋から飛び出して行き、執事達もなにやらバタバタ動き回っている。
メイド達は私へ眩しいくらいの視線を送ってくるし、イクスまでも目を輝かせながらこちらを見ている。
え?え?
私……なにかやらかした?




