15 取引契約。
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魔物に近付くと、俺に気が付いたのかこちらに大きな口を向け口から液体を飛ばしてきた。
「うおっ」
咄嗟に身体を横へ逸らし液体を躱す。
あぶねぇ。
すると、ジュウ~と地面から煙が上がった。
酸攻撃か!
初めての酸攻撃がスライムじゃない件。
その後も魔物は酸攻撃か突っ込んできて大きな口で噛みつこうとするくらいで、他の攻撃は無いようなので終わりにする。
刀に魔力を流し、突っ込んできた所をスパッと3回斬る。
流れるような刀捌きで最後は鞘に納刀。
初めてゾンビを斬った時とは大違いだな。
魔物はその内粒子になり魔石を残す。
リストで確認すると『デックの魔石』と書いてあった。
名前はダンジョンが決めてるのかな?
その後、部屋にある魚介を全て収納して来た道を戻ると、最初の所にまだ漁師が居て魚を捌いているのが目に入った。
なので俺は、此処にある魚を全部持っていくので、地上に戻ったらいくつか譲ることを伝えると、一瞬驚いていたが了承してくれたのでここも全て収納する。
彼も一緒に戻ることにし、根源魔導で同じように空気の層を身体の周りに作ると。
「こりゃあすげぇなぁ、あんたは魔法使いけ?」
「まあそんなもんですよ」
彼の酸素ボンベも収納して地上へと戻った。
戻る途中、彼の話を聞くとゾンビを倒しレベルは上がって身体能力も上がったが、職業は持っていないと言う。
まあ、ゾンビは証を落とさないからな。
このダンジョンの彼が居た部屋にも魔物は出たことが無いらしいので、証は1つも持っていないらしい。
ならば、と俺は彼に話をする。
「私は商人でして……職業の証を1つ差し上げますので今後、このダンジョンで手に入れた魚を少し譲ってもらえませんか?」
「それは……」
「所謂私の仕入れ先になってほしいんです、勿論対価は支払いますよ? お金でも良いですし、他の食材でも……」
「おお! なら肉はあるか!?」
いきなりテンション上げるなよ!!
デカいんだからビックリするだろ!
話を聞くとどうやら八炉市では現在、肉に飢えているらしい。
毎日魚は飽きると言う。
そりゃ確かにって話だ。
復興は進んでるが、食肉市場や食肉加工はまだもう少し掛かるだろうしな。
なんせ肉の輸入が止まってるんだから!!
国産肉なんてそんなに無いだろうしね。
なので代わりに肉を提供するので、魚を頂くという事で話はついた。
いずれ復興が進み、肉や野菜が安定してきたら金で支払うという事にし、ちゃんと契約書を用意してお互いサインをしたことで、契約は結ばれた。
しかもこれは、根源魔導を使った魔導契約なのだ。
ちゃんと相手に説明をして了承している。
細かく言えば、契約を違えば根源魔導によって身体が変わるという内容だ。
えっ? どう変わるのかって?
彼は男なので、息子が立たなくなって子供が作れないようになるよって内容です!
別に命を獲るなんて契約はしませんよ?
それに、役立たずになる方が男にはつらいだろうからな!!
あっ、ちなみに商売契約の内容はちゃんとお互い品物を対価として渡すって感じの内容だ。
お互いが話して決めたら、対価をお金に変えるという事も含まれている。
そして、もしこの根源魔導によって弄られた身体はキュアポーションでも治らない。
なんせそれが当たり前の状態になるからである。
恐ろしい!!
なので治すには根源魔導でしか治せないのだ。
彼の名前は宮本奏太、32歳との事。
そして彼は職業を何にするのか聞くと……。
「魔法が使いてぇんだ」
というわけで、彼の職業は魔法使いに決まりました。
って、その見た目なら武闘家の方が合ってそうだけど?
そう言うと彼は頑なに魔法使いをご所望であった。
ギャップが凄いよ。
魔力制御と魔力感知の事を説明してから魔法を少し教えると、簡単な魔法は使えるようになったので、俺は魔物の皮で作った土色の小さな巾着袋を上げた。
「これは?」
「マジック袋ですよ」
これは10メートル四方の空間拡張が付いて時間停止も付けてある。
勿論重量軽減もな。
リュックのような物だと海に潜る時邪魔になるだろうなと思ったので、腰に付けるタイプにしたのだ。
なら自分もそうしないのって? 俺は見た目重視なのでこれで良いのです!!
説明すると彼は……。
「これは密輸入とかし放題?」
俺は首を横に振って教えてあげる。
「いいえ、それに違法な物を入れると警報が鳴りますから気を付けて下さいね」
「違法な物?」
「そう、例えば麻薬とかの違法薬物、刃物は大丈夫ですが、銃火器は不可なのであしからず」
人に渡す物には勿論そういうのは念のために付与するよ。
それでじゃんじゃん魚を持ち帰って下さいな。
仕入れさせてもらいますから!!
普段の食材も入れておけば腐らないですよと教えると喜んでいた。
巾着袋に肉を入れてあげる。
今回は先行投資という事でただです。
彼はその肉で街の人達相手に商売でもするのだろうか?
と気になったので聞けば彼は、魚を今までただ同然で配っていたらしい。
そこで俺は彼に説教だ!
「それは立派な事ですが、街の人達を堕落させるような事をしてはいけませんよ」
「はぁ……」
彼がやっている事はただの奉仕で見返りを殆ど貰っていない。
それは社会の営みとして最悪の結果になる。
最初はお礼や感謝をしていてもその内、それが当たり前になるのが人間だ。
そうなるとダメ人間の完成である。
よく男に尽くす女や逆もあるだろ?
あれはお互いにダメ人間を製造しているのだ。
極端な話だが、そうなると社会は回らなくなり経済が活性化しない。
それは秩序の崩壊に繋がる。
なので決してタダで配るなんて事はしないように言い含めた。
少し前の緊急時ならそれでもいいが、今は復興が進み人にも余裕が出てきているのだ。
しっかり動いてもらわないとマンパワーがどこも足らなくなるぞ。
ちなみにマンパワーとは簡単に言えば人手だ。
労働力とも言う。
それが無いと社会は回らないのである。
宮本さんは納得したようで、今後は対価を貰うようにするらしい。
うんうん、それが良いぞ。
数週間に一度、仕入れに来る事を約束して俺達は宿へと戻った。
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