12 遊びが現実に。
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現在俺たちは車で海沿いを走り北上している所である。
ちなみにバックパックはアイテムボックスに収納してあります。
岩手県の半分くらいまで来たかな?
「そう言えば、あの新しい島に行こうと思ってたけど忘れてたな」
異世界ダンジョンのせいで。
「あぁ、自衛隊が行ってるだろ」
「あの時聞けばよかった」
もしかして、海の王的な種類の生物じゃないだろうな?
上陸したら大きな生物の背中でしたって、あんなデカい生物がもし陸に上がったら簡単に街が滅ぶぞ。
北海道まで行って東京へ戻る時に寄ってみるか。
ここに来るまでに通った大きな街に人は居ない様子でそのまま素通りした。
北上して八炉市へ避難したか、南下して仙台に避難したんだろうな。
しかし、偶に海沿いで人の影を見かけることもある。
それは大概、小さな街に残ってそこら辺の家や店を漁っている火事場泥棒や、俺は自由に生きるぜ! 的な者ばかりだが、俺は特に気にしないのでそれも無視だ。
民間人も職業を得てレべルも上がったことで、復興が通常より進んでいる現在。
余裕が出てくると馬鹿をする奴も増えてくる。
特に日本人は地震等の災害に遭った時は一体感が強く、環境を皆で安定した状態に戻そうとする傾向が強い……と思う。
普段悪さをしているやっちゃんたちでさえもそうなのだ。
そうやって復興が進む訳だが、余裕が出てくるとはみ出し者という者は必ず出てくる。
こんな風に……。
車を走らせていると突然男達が道路を塞いだので車を停める。
「何だ?」
「全員木刀やらバット、バールまで持ってるぞ」
と、助手席のユウが言う。
「ラノベ知識で言えば盗賊的な?」
「いつの時代だよ」
「じゃあ追い剥ぎ?」
「それも時代的だな、ってどうするんだ?」
ふむ……ラノベならこいつらをちゃちゃっと捕縛して連行、って流れなんだけど。
現在連行する場所がこの辺りに無いしなぁ。
商人としてここで始末するってのも……何か良い手は無いものか。
すると、1人の男が俺が座っている運転席の窓までやって来てコンコンと叩いた。
スーッと半分程窓を開ける。
「どうしました?」
「どうしたじゃなくて降りろ、持ってる食料や金を出せついでに車も貰う、じゃないと痛い思いをする事になるぞ?」
そう言って手に持っている木製バットを肩でポンポンとする。
いやぁ、以前の俺ならビビッて足ガクガクになってただろうな。
しかも声が震えるという芸当までするだろう。
だがしかーし、お前らよりゴブリンの方がよっぽど怖いぞ。
魔物と言うのは脅しなどをしてこない、勿論だが。
遭遇した魔物は全て『本物の殺気』を向けてくるのだ。
最適化していない俺ならそれだけで小便を漏らす自信がある。
今はレベルが上がって精神力も上がってるので大丈夫だけどね。
なので魔物と戦う時はこちらも本気の殺気を向ける。
こんな風に……。
「っ!?」
男の身体がビクッとなり固まる。
「なぁ、ええんか? ……降りて」
次第に男の手は震え、足が震えだすと身体が震えるようになる。
この男はもう俺に向かってこれないだろうな。
それだけ本物の殺気というのは強烈だ。
昔の海外で処刑される囚人が、たくさんの銃口を向けられ白髪になる程、殺気というのは生半可な物じゃない。
だが、自然界では当然のようにある。
こうなる前の世界でもな。
しかし、人間社会で本物の殺気を向けられるなんて機会はほとんど無いだろう。
特に日本はね。
なので本物の殺気を向けられる事に慣れていない人間は、こうなるのだ。
これは以前、異世界ダンジョンでユウと練習した。
魔物と遭遇した時に感じるピリピリ感をこちらも出せないかと。
なので世界の図書館で調べてみたのだ。
えっ、そんな事を? って思うだろうけどね。
気になったら調べるのが癖になってるんですよ。
で、調べた結果。
殺気は意志、相手を殺すと念じることが殺気になる。
でもそれだけじゃ今までと同じだよねって事で、魔物から感じる殺気が何か調べると、その原因は魔力であることが分かった。
魔物は魔力で同族と意思の疎通を取っているらしく、敵を見つけると普段通りに殺す意思を魔力で伝えてきているだけだったのだ。
流石魔力から生まれた生物。
念話スキルと同じ要領だね。
つまり、魔力に意思を乗せて魔力を放てばラノベで言う『威圧』が出来るのです!!
これでよくユウと覇気ごっこしてたな……。
まさかごっこ遊びが本当になるとは思わなかったが。
するとユウが、他の男達に殺気を向けて全員同じように動けなくした。
「君達もさっさとセーフティエリアに行って普通に働いた方がいいよ? 復興が進んでこんな事してたら、即逮捕! ってなるからね……今の自衛隊は前より強いよ~、警察もね」
「既に人が住む街は壁で囲っていってる最中だ、こんな事してたら中に入れなくなるぞー」
男達は俺とユウの言葉にコクコクと頷き、全員ビシッと直立になっていた。
道を空けてもらい俺達は車を走らせる。
「まさか遊びが本当になるとはな」
と、ユウが助手席で呟く。
「俺も思った……これって人間相手だと便利だな」
「確かに」
この威圧は魔物相手ではほとんど効果が無い。
一瞬動きを止める事は出来るが、魔物は魔力による威圧には慣れているのだ。
そりゃ普段から魔力で意思疎通していれば慣れるよね!
しかし、人間には物凄い効果的だ。
今後も絡まれたら威圧するのが良いかもな。
でも魔物としょっちゅう戦ってる人には効かなそうだけど。
ああいう馬鹿には良いかもしれない。
その後、そんな場面もあったが岩手県を抜けもうすぐ日が沈む頃、青森県の八炉市に到着した。
「おお、しっかり壁で囲まれてる」
「これは自衛隊がやったのか?」
「凄い立派な壁だね」
「ドラゴン用じゃない?」
なるほど、ドラゴンがここまで来る可能性があるもんな。
海沿いを走っていた俺達は、前方に何十メートルもある白くて高い壁を見てそんな話をしていた。
近未来のアニメに出てきそうな壁だな。
なんの素材で作られてるんだろうか?
20分程走らせると漸く壁に到着。
見えてるのに中々着かないあの感覚は苦手だ。
大きなゲート前に自衛隊がプレハブ小屋のような物を建て、検問所のようになっていた。
ライフルを持った自衛官が1人近づいて来たので窓を開ける。
「すみません、一般の方ですか?」
俺達の服装を見て戸惑ったようだ。
俺はヘルメットを上げてこう答える。
「はい、どうも私たちは商人です」
自衛官は口を開けて固まった。
前にもあったな。
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