6 婦人服売り場。
魔物? を倒してレベルが6も上がり、欲しかった戦闘スキル【刀術】をゲットした。
「魔力感知と魔力制御か……」
グフフフ、ファンタジー定番の魔法が使える!!
右手を前に付き出し掌を壁に向ける。
「ファイヤーボール!」
………………。
何で出ないんだよ!!
魔力制御と言えば魔法だろ!
魔力感知はスキルを使う時に感じてたのでそれはまあいい。
魔力制御はいつやったんだ?
スキル?
いや、あれは自動で動いているような感覚だったしな。
その時、魔物の死体が黒い粒子になって空中へと消えていった。
「今のは……ダンジョンだから?」
外のゾンビは消えなかったが、ダンジョンの中は死ねば消える。
ダンジョンが食ったのか!
それとも、ダンジョンの魔物だから?
人も死ねば粒子になって消えるのか?
ま、今考えても分からないしいいか。
「あっ!」
消えた魔物を見て思い出した。
あの魔物を斬る時にどういう状況だったのか。
俺は無意識に刀に魔力を流していたのだ。
「ん? もしかして」
壁に向かって刀を振り抜くと、ガッと浅い傷が付いて直ぐに元へと戻った。
次は意識して感じていた魔力を刀へ流すイメージをしながら斬ると、スパッと深い傷が出来た。
これはもしや、刀に付与した【斬撃強化】等が発動しているのでは?
つまり、今までゾンビの首を斬っていたのは普通の状態の刀で、魔力を流した時に付与効果が得られるのではないかという事だ。
「もっと試してみないと分からないな」
付与してない武器で魔力を流して強くなるのか、付与した武器の効果を発揮するために魔力が必要なのか……次は服にも魔力を流しながら戦ってみるか。
「お? これはもしや!」
魔物が消えた場所に小さな黒い石が落ちていた。
あの有名な『魔石』では!?
あっ、収納すればリストで分かるな。
……はい、魔石ゲットしました!
まあ、今は何に使えるのか分からないが、きっと役に立つはず。
しかし『ハイズールの魔石』とはねぇ、グールの親戚か? ……って『ハイ』って上位種って事じゃね!?
何で1階層のしかも入り口付近に上位種がいるんだよ!!
もしかして此処って『ハードモードダンジョン』では?
だから誰も居ないのかも……。
どうりでいっきに6レベルも上がるはずだ。
此処は一旦引き返すか…………いや、ハードモードの方が経験値もアイテムも良いのが定番だしなぁ。
きっとスキルオーブも手に入るはず。
今の装備ならハイズールは倒せるみたいだし、とりあえず1階層だけ探索してみるか。
……よし、続行だ!
コンビニで手に入れた文房具でノートにマップを描きながら通路を進む。
何度か分かれ道があったがとりあえず真っ直ぐ進んでいくと、通路の途中の壁が空いていて、天井から『婦人服』という看板がぶら下がっていた。
中を覗くとデパートの一店舗のような空間になっているが、中央は何も無く壁際にハンガーラックに掛かった服がズラッと並んでいる。
壁にも服屋のように大量に掛かっているようだけど、それよりも気になるのは、空間の真ん中に、ハイズールより一回り大きい魔物が1匹立っていることだ。
何故大きいと分かるのか?
そいつの周りにハイズールが2匹立っているからだ。
ん~……3匹か。
遠距離攻撃ができれば、ハイズールを1匹でも仕留めて、数を減らすんだけどなぁ。
ちなみに職業は未だに何もできない、レベルで解放されるのかと思ったけど、やっぱり神殿に行かないといけないようだ。
いや、教会かもしれないけどね。
どっちにしろ、今では使えない物を当てにするのは駄目だな。
1匹ずつ誘い出せないかな?
コンビニで手に入れた消しゴムを1つ取り出し、手前に居るハイズールに投げると上手い事当たった。
……無視ですか。
当たったのに反応を示さないとは……まさか、中に入らないとアクティブにならないってやつか!?
リアルなんだから、そこはいいだろ!
…………いや、それだとダンジョンからジャンジャン魔物が出てくるか。
何か良い方法は無いかな……使える物…………これなら使えるか?
アイテムバッグのリストを見ながら使える物は無いか見ていたら、洗剤が目に入った。
トイレ用洗剤だ。
これをぶっかければ、動きは止められるんじゃね?
いや、全く効かないかもしれないが。
レベルも上がって最初よりは速く動けるし、力も強くなっている。
あのデカい奴を倒せば、この部屋にある服を取れるかもしれない。
ここから見ている限りだが、壁沿いにある服は全部使えそうなんだよな。
まさか、ダンジョンから出したら消えるとかないよな?
それとも、着れば変な状態異常になるとか?
はぁ~、マジで鑑定が欲しい……。
いや、待てよ?
この洗剤をそのまま使うのではなく、クラフトで強い酸にすれば良いんじゃね?
さっそく洗剤を素材にクラフトしてみる。
イメージをしっかりしてから……発動!
洗剤容器が微かに光ってスキルが成功した事を教えてくれる。
イメージしたのは、生物を溶かす程の酸だ。
お試しに少し床に垂らすとジュゥ~と煙を出した。
勿論容器は溶けないようにクラフトしたから大丈夫。
これは投げて当たれば割れるようになっているのだ。
クラフトがあって良かった。
念の為、後2つ作ってアイテムバッグに収納。
落ち着いて……集中…………よし、行くか。
一歩中に入ると手前のハイズールがこちらを向いて走ってきた。
いや、気付くの早くね?
もしかして、消しゴム当てた事怒ってる?
俺はすぐさま酸を投げつけると割れた容器から酸が飛び出し、ハイズールに全部かかった。
「ギュゥガァアアアアアア!!!」
ジュゥ~と煙を上げながらハイズールは床に転がりバタバタと暴れている。
「よし!」
効いた!!
刀を抜き放ちもう1匹のハイズールが飛びかかってきた所を躱しながら、横に振り抜くと胸のあたりで両断した。
スキルを手に入れた事で、刀の扱いも上手くなったようだ。
素人感が無くなり、少し練習したくらい扱えるようになっている。
それに刀に付与した効果が抜群だ。
俺は倒れて暴れているハイズールを両断して、一回り大きい奴と対峙する。
こいつは2匹がやられても動かなかった。
上位種の上位種。
余裕があるのか。
服と刀に魔力を流し走り出す。
奴は体勢を低くしたと思ったら、その場から姿を消した。
「はっ?」
立ち止まり辺りをキョロキョロ見渡すが、何処にも居ない。
「消えた? ……っ!?」
と思っていたら、突然真横に姿を現し腹を蹴られ吹っ飛ぶと、壁際にあるハンガーラックをなぎ倒した。
「いっつぅ~」
壁際にある服がクッションになって大して痛みは無いがいかんせん速すぎる。
いや違うな……魔力を通していたこのTシャツの付与効果が発揮されたのか。
普通の服なら今ので死んでるな。
服の中から何とか出て立ち上がり刀を構える。
すると奴はまた腰を落とした体勢になる。
また奴が消えた。
俺はアイテムバッグから酸を取り出し、周囲に振りまいた。
すると奴に当たったのか。
ジュゥ~と音を立てると「グゥギャアアアアア!!!」と鳴き、腕を振り回し暴れている姿を現した。
流石上位種。
倒れないか。
って、こいつ速く動いてたんじゃなくて姿を消せるのか。
危なかった~。
もう一つ酸を投げつけると、奴の声は小さくなっていき黒の粒子になって消えた。
あいつは強敵だな。
「おっ?」
奴の消えた後には、今まで見た事無いピンポン玉サイズで菱形の物が落ちていた。
遂にスキルオーブ来たか!?
さっそく収納するとリストを確認……。
「マジで!?」
リストにはこう書かれていた。
『魔導士の証』




