18 街の中の街。
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飯の用意も済んだ頃、由奈ちゃんが風呂から上がったので次は俺が入る。
余裕のある風呂ってどうしてこんなに気持ち良いのか。
風呂から上がって飯を食い、テントの中に由奈ちゃん用のベッドを作ってやると、先に寝ちゃったので俺は外で焚火の前で酒を飲みながら星を見ていた。
別にロマンチストじゃないぞ?
他に見る物が無いので綺麗だなぁと思いながら見ているのだ。
って、星がいつもよりよく見えるな。
これもファンタジーが来た影響かねぇ。
綺麗だから良いけど。
『俺にもくれ』
そう言って突然横に姿を現すユウ。
ちなみにユキはテントの中で専用バッグの中で寝ています。
ったく、この死霊は……あれ? 酒飲んだら清められるんじゃね?
「酒飲んで大丈夫か? そのまま成仏するんじゃないだろうな?」
『それは無い、魔力で実体化するからな』
なるほど、魔力があれば清められる事も無いのか。
あっ、そう言えば食って実体化を解いてもユウからは何も出なかったので安心した。
「何飲む? ……色々あるけど」
『じゃあ、ウイスキーで、一番高い奴!』
お前死霊だよな?
そして一緒に飲みながら昔の話をしてるとふと思った。
「そういやなっちゃんは何処に行ったんだろうな? ちゃんと成仏してるならいいんだが」
『ああ~、たぶん奈美は実家に行ってるかもな』
「実家?」
娘より実家?
どういう事か聞くと、どうやら世界がこうなる前日の夜に父親からお母さんが倒れたと連絡があったらしい。
次の日に実家へ戻る予定だったのがこうなってしまったため、母親の事を物凄く心配していた。
翌日には電気も使えなくなり車も乗れない、連絡も取れないという事で歩いていくために、必要な物を集めていたらあのスタンピードに巻き込まれてしまったようだ。
なるほどねぇ、それは確かに実家へ行ってる可能性が高いな。
「なっちゃんの実家って確か、仙台だよな?」
『お前が何故知ってる!?』
「お前らが結婚する前に一回、一緒に遊びに行っただろうが」
俺が1人でボーっとしてるのを見かねて、誘われたのだ。
「なっちゃんって、お母さんの事大好きだったもんなぁ」
『ああ、結婚して家買った時一緒に住もうとか言い出したからな、まあお義母さんは優しい人で俺も好きだが、お義父さんが……』
「ハハハッ!!」
確かにあの親父はユウからしたら苦手だろうな。
遊びに行った時は、娘と付き合ってると知って滅茶苦茶目の敵にされてたからな。
俺はおっちゃんとは仲良くなったぞ。
一緒に酒飲んで色々ユウの事を聞かれたので、素直に全部答えてた。
それが良かったのか、後に結婚を許してもらえたのだ。
あれ? 2人が結婚出来たのって俺のおかげ?
「2人が結婚出来たのは俺のおかげだな!」
『は? 何だ突然』
親父との話を説明してやると。
『マジか……コホン、その節は誠にありがとうござました』
「何年越しのお礼だ? ……ハハ」
『……ハハハハッ! お前のおかげで由奈も生まれたようなもんだな、ありがとうな』
同時に静まり、心地よい空気が流れる。
そして俺は決めた事を口にした。
「よし、新潟を見たら仙台に行くか」
『……良いのか?』
「俺は商人、行商もしてるから別に問題無い、って言うかお前がサッと見に行けないのか?」
すると首を横に振る。
『俺自身が幽霊でも、他の幽霊は見えないんだよ』
なるほどねぇ、じゃあ行っても意味ないか。
その後、遅くまで昔の話をしながら酒を飲んでから俺は眠りについた。
翌日、日が昇り明るくなってから目が覚めると由奈ちゃんが既に起きていて、どうやら朝風呂に入ってる模様。
風呂から上がった由奈ちゃんと朝食を食べてから俺達は、新潟の街を目指して山を下っていった。
山道を歩いていると海が見えてきた。
「何か久しぶりの海だなぁ」
「私は毎年、年末年始には仙台に行ってるから、必ず一回は見るなぁ」
『海はいいねぇ~』
遠くに見える海を眺めながら歩いていると、建物が増えてきた。
「この辺りに人は居ないな」
「建物も綺麗に残ってるね」
なのに人は居ない。
何処に行ったんだろうか。
徐々に街の中に入っていくが誰も居ない。
そのまま人の居ない街中を歩いていくと、街を見下ろせる場所にまた出る。
景色を眺めていると、変な物を発見した。
「あれは……壁か?」
俺の言葉に由奈ちゃんも足を止めて目を凝らす。
「……壁だね、誰が作ったんだろ?」
高台から街を見下ろした遠くの街中に、おそらく木で建てられた大きな壁が、一部の街を覆っていた。
『俺が見てきてやる』
そう言って消えるユウ。
指示しなくても動くとは有能だな。
俺達は近づくために歩き出すと暫くしてユウが戻ってきた。
「どうだった?」
『あれは街だな』
「街? 街の中に街?」
ユウの話によるとどうやら、避難した人達が集まってコミュニティーが出来ている雰囲気らしい。
中では楽しそうに暮らしている人達の姿が見られたとの事。
物の売り買いも行われていたようなので、此処は商人である俺の出番だ!
と思い歩を進める。
周りには畑が広がっているが前方には大きな壁が見えている。
30分程で壁に到着した。
高さが20メートルはある壁、大きな木製の門が目の前にあるんだが、一向に開かない。
何か合言葉が必要なのか!?
そんな事を考えていると、壁の上から声を掛けられた。
「何の用ですかー!? 自衛隊の人ですかー!?」
見上げると若い女が顔を覗かせている。
「すみませーん! 私行商をしてる進藤と申しまーす! 何か欲しい物はありませんかー!?」
すると顔を引っ込め少しするとまた顔を出した。
「今開けますのでー! ちょっと待ってて下さーい!」
「分かりましたー!」
暫く待っていると、門がギギギギ……と音を立てて開き始める。
こんな物を誰が作ったのかと少しワクワクしながら待っていると、中が見え始める。
そこには数人の自衛隊の格好をした人達と、先ほどの女性が立っていた。
「ようこそ新潟へ!」
と、一番前に居る爽やかな若い男が手を広げて声を上げた。
まさか、こいつが主人公か!?
自分の小説を読んで頂きありがとうございました。




