10 可愛い子。
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半壊した街の中を進んでいくと、以前入った地下駐車場ダンジョンが見えてきた。
周囲に人の影は見当たらない。
ゾンビも殆ど殲滅されたようで姿は見えない。
そのまま通り過ぎようかと思ったが、ここの地下がダンジョンだという事を知らせる目印があった方が安全かも? と思い、クラフトでその辺りにある瓦礫で看板を作った。
業者に注文して作るような看板にしたので結構魔力を消費してしまった。
『ここの地下駐車場はダンジョンになってます。
気を付けて下さい!』
これで大丈夫だろ。
その場を後にし、そのまま荒川を渡り埼玉へと入った。
此処まで来ると偶に道で人の姿が目に入るようになる。
リュックを背負って俯きながら歩いている人達が多い。
何処を目指しているのか。
住宅街を歩いていると俺の耳に、何処からか小さな鳴き声が聞こえてきた。
「ミー、ミー……ミー、ミー」
はて? これはもしや子猫の鳴き声では?
立ち止まり耳に集中すると、すぐ右手にある一軒家の辺りから聞こえてくるようで、近づくと左側の家と家の間から聞こえている事が分かった。
住人は居ないようだが、門は開いている。
敷地に入り声のする方へ行くと、建物の横にある隙間でしゃがみ込み、おそらく真っ白な子猫だろうけど、少し汚れた子猫がずっと鳴いていた。
俺が現れたのをジッと見ながら鳴いてくる。
「どうした? お母さんは居ないのか?」
「ミー、ミー……」
ふむ……何を言ってるのか分かるはずも無く俺は腹が減ってるのかと思い、デパ地下ダンジョンで収納したチュルールを取り出し与えてみると、物凄い勢いで舐め始めた。
ほう、やはり腹が減っていたのか。
猫用の缶詰もあったな。
蓋を開けて子猫の前に置くと、匂いを嗅いでから貪り始める。
「はぁ~、かわいいなぁ~お前」
そこでふと思う。
【テイム】は地球の動物にも有効なのだろうか? と……実はテイムって殆ど放置してたんだよね。
だってさぁ、仲間にしたいと思える魔物が居ねぇんだもんよぉ。
ゾンビ、ハイズール、グランドズール、カルマ、ガーリア、ゴブリンとどれも気持ち悪い魔物しか会っていないので、あまり興味が無かったのだ。
ちなみにガーリアという魔物は地下ダンジョンの部屋階層で出てきた、肉塊の魔物の名前である。
テイムがもし、地球の動物に有効なら最高のモフモフ仲間が出来るんじゃね?
さっそくスキルの情報を探ると、成功するかは微妙なラインだった。
どうしてかと言うと、本来テイムは魔物が持つ魔石と魔力に自分の魔力を流し、繋がりを持つというスキルだった。
地球の動物は魔石を持っていないので、成功確率は魔物より大分減るだろうと、スキル情報で分かった。
うむ、しかしこれは試してみる価値はあるよね?
だって可愛い子猫と繋がれるんだ!
変な意味じゃないぞ?
では、餌を一生懸命食べている子猫にテイムをしてみましょうとその前に……紙皿に魔法で水を出して餌の横に置いてやる。
喉も乾いてるかもしれんからな。
子猫の前にしゃがみ込んでそっと右手を翳すとイメージをする。
楽しくいつも一緒に居る姿、ずっと一緒に生きていく思いを魔力に乗せながら、テイムを発動させた。
すると子猫の上に子猫程の大きさの魔法陣が出てきた。
なるほど、テイムは魔術の一種なのか。
魔法陣から光がキラキラ子猫に降り注ぎ、5秒程経つと子猫がピクッと動きを止めるが、耳がピクピクと忙しなく動いている。
何か音が聞こえてるのか?
もしや、あの頭に響く声が子猫にも聞こえてるのかもしれない。
世界の声だから猫にも伝わってるのかも?
すると俯いて止まっていた子猫が頭を上げて俺をジッと見てくる。
「ん? ……俺と一緒に行くか?」
「ミー!」
1つ鳴いた瞬間、魔法陣が光の粒子になり空中へと消えていった。
『テイムに成功しました。 名前を決めて下さい』
あの声が頭に響いた。
「えっ、マジ? マジで成功したの?」
子猫を見ると俺をジッと見ている目と合って、俺もジッと見つめる。
そこで子猫から何かが伝わってきた。
言葉ではないが感情というのか思いというのか、子猫が考えている事が感覚で伝わってきた。
『わーい! ありがとう、よろしくー!』
そんな思いが伝わってきて俺は泣きそうになってしまった。
子猫が喜んでいる感情が伝わってくるからだ。
お前を見つけられて良かったよ。
1匹で寂しく居たんだろうな。
親は魔物に殺されたか、スタンピードの餌食になったのかは分からないが、これからは俺がお前の家族だ。
「お前は女の子? 男の子?」
すると女という感覚が伝わってきた。
なるほど、俺と繋がっている事で言葉を理解できるのか。
可愛い奴だなぁ~。
女の子なら可愛い名前が良いよな。
真っ白だしユキで良いかな?
と、その前に綺麗にしてやろう。
クリーン魔術で綺麗にしてやると、真っ白な身体に目がクリッとした可愛い子猫がキョロキョロと自分の身体を確かめるようにしている。
「お前の名前、ユキでどうだ?」
「ミー!」
気に入ってくれたようだ。
「よし、今からお前はユキだ! よろしくな!」
そう言ってひょいッと抱きかかえる。
「ミャー」
はは、よろしくねだってよ。
そう言って近付けた指をペロペロ小さな舌で舐めてくれた。
可愛い奴だなぁ~。
いかん、あまりデレデレしていると進まなくなる。
「さて、移動はどうするか……ん? 歩いて付いていく? いやまだ小さいから遅れるし、俺が心配するからそれは無しだ」
そうだ、ショルダーバッグを自作して、そこにユキを入れて行こう。
「ちょっと待ってろ、今お前専用の寝床兼移動用バッグを作ってやるからな」
「ミー!」
俺は余っていた魔物の皮を取り出し、婦人服を2着程適当に取り出して、クラフトで作った。
長さの調節が出来るベルトにクーラーボックスのような四角い形で、深さを25センチ程にして蓋は皮で普段はユキが自分で開けられるように、留めずにして走ったり激しい動きの時はカチッと留められるように留め金を付けた。
そして【快適温度】【快適湿度】【疲労回復】【耐久強化】【衝撃吸収】を付与してみました。
出来上がったショルダーバッグをたすき掛けして、底にフワフワタオルを敷いてユキを入れてみる。
「どうだ? 快適か? 要望があれば聞くぞ?」
ユキが確かめるように踏み踏みしたり、前足で底をペシペシと叩いて確かめると、顔を上げて1つ鳴いた。
とても喜んでもらえたようで良かったぁ。
ちなみにトイレは大丈夫かと聞くと、全然問題ないとの事。
したくなれば知らせるように、中でやらないようにと言ったので大丈夫だろう。
ユキをバッグに入れてその家を出ると、道路の先に見える長い坂道を見てふと思い出した。
そう言えばこの辺りだったな。
何かと言うと、友達の家が坂道を登った辺りにあるはずなのだ。
こんな世界になって、魔物が出たと俺の心配をしてメールを寄越したあいつだ。
あいつが結婚してから最初の頃は嫁さんと3人で遊んでたが、子供が出来る少し前からは徐々に遊ばなくなって、子供が生まれた後は一切遊ばなくなったなぁ。
忙しいだろうと気を使って誘う事をしなくなったのを覚えている。
子供が生まれる少し前に家を買ったと画像が送られてきたが、結局一度も家には行っていない。
気を使うし俺も仕事で悩んでいた時期だったからな。
子供も小さい頃に画像が送られてきたのを見ただけで、実際には会った事も無い。
丁度良いし、あいつが無事か見に行ってみるか。
冬が過ぎれば大丈夫なんですけどね。
寒いのは苦手です。




