10 学校?
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強化合宿を始めて約1ヶ月が経った頃。
俺は天狗が居るボス部屋で、美香が1人で戦っているのを見ていた。
美香が天狗の錫杖による攻撃を避け懐に入ると跳躍しながら短剣を振り抜き、天狗の首を斬り落とし、何とか無事に倒す事ができた。
着地して一息ついている美香に声を掛ける。
「お疲れー、問題なさそうだな、ちょっと危ないとこもあったけどね」
「はい、まさか竜巻を起こすとは思わなかったですよ……でも何とか倒せました」
「ああ……強化合宿はこれにて終了!」
俺は全員に向けてそう言い放った。
するとアニルが近づいてきて言う。
「俺たちも大分強くなれたのは洋介のお陰だ……ありがとう」
アニルがそう言って頭を下げると、離れた場所に居るガムロとシュアも頭を下げた。
「頑張ったのはアニルたち本人だから気にするなよ……それよりアニルたちが帰るのが遅れる事になった方がなんか悪いな」
「それこそ気にするな、俺たちは冒険者だ、数年帰らない事も普通にあるからさ」
「そうなのか? 妹さんが心配するんじゃないの?」
「最初は滅茶苦茶心配されたが、今は信頼してくれてる」
ふむ、良い兄妹だな。
今回美香が天狗を1人で倒した事により、全員が1人で天狗を倒した事になった。
天狗を1人で倒す目標は達成されたので、そろそろ異世界へ向けて出発することにする。
今日は合宿が無事終わった事を祝って、豪華な晩御飯を用意した。
最高級牛ステーキと、新鮮な魚介で作った寿司。
後はサラダにチーズたっぷり具たっぷりのピザである。
勿論飲み物は各々が好みの物を出した。
牛ステーキは柔らかくシンプルに塩コショウで味付けした。
噛めばさっぱりした油と肉汁が溢れ、口いっぱいに広がるさっぱりしてるが甘い油が何とも言えない最高の肉だ。
寿司はそれぞれのネタが大きく、サーモンなんかは一貫口に放り込むと、とろけるサーモンが口いっぱいになり、滅茶苦茶幸せな気分にさせてくれる。
サラダはノンオイルドレッシングだが、酸味が利いて味が濃い目になっているが、さっぱりしていていくらでも食える。
ピザはたっぷり乗ったチーズと、ウィンナーやサラミ、角切りベーコンがしっかり焼かれ、オニオンの甘さとトマトソースの酸味が肉たちの油と塩分、それとチーズの塩味にマッチして、1枚丸ごと食える程最高のピザだ。
まあ、食い過ぎには注意しないといけないけどね。
食後に一服しながら雑談をしている中、突然皆が驚きの表情をして一瞬固まると、自分の身体を確かめるように見始めた。
「はは、驚いただろ? 手の甲を見てみな」
「あっ、2の数字が消えてる」
とは美香の言葉だ。
「凄いっすね……自分の身体が空気になったように軽いですよ」
堀さんが自分の身体を触りながら言う。
「皆が負荷に慣れたから、解除されたんだ……楽しみだろ?」
そう言ってニヤッと笑う。
俺の言葉にアニルが頷くと答えた。
「これは凄いな、早く戦ってみたい」
「まあ、そう慌てなさんな、嫌でもこれから戦う事になるんだから」
ここからダンジョンの最下層まで、後どれだけのボスが居るのか。
異世界ダンジョンは50階層だったかな?
あれだけ長い間放置されていたダンジョンが、50階層までしかなかったのだ。
この街ダンジョンはまだ2年程しか経っていないので、そんなに成長はしていないとは思うが……果たして何階層が最下層なのか。
この日は遅くまで語った後、ゆっくり寝て朝8時頃に目が覚める。
朝食を軽く済ませ出発の準備を整えると、俺たちは天狗の居るボス部屋を通って下へと向かっていった。
ちなみに天狗はアニルが瞬殺していました。
階段を下りた所はどこかの建物の中のようで、辺りを見回して気が付いた。
「学校?」
美香がそう呟く。
そうだ、確かにこの空気感は学校である。
後方を確認すると俺たちが下りてきた所は丁度、校舎の屋上から下りてくる階段になっていた。
階段の踊り場にある窓の外を見ると運動場が見え、その向こうには街並みが見える。
その街並みを見て違和感を覚えた。
「ここって地上部分にある、松江市と同じじゃね?」
「……あぁ、確かに似てますね」
「そうっすか? ……あっ、あの角にあるたばこ屋は見覚えがあります。 確かに松江市っすね……あれ? 何かおかしいような……何だろう?」
同志も何か違和感を覚えているようだ。
ジッと外を見渡していると、俺はある事に気が付いた。
「なあ……」
「はい?」
美香が返事をする。
「松江市に、しかもこんな場所に、学校ってあったか?」
俺がそう言うと堀さんがハッ! とする。
「そうっす! 松江市にこんな学校は無いっすよ!? なのに……どうなってんすかね?」
俺たちが居る校舎はかなり大きい。
廊下の幅は10メートルと広く、廊下の真ん中には吹き抜けまである。
左右に伸びている廊下の突き当りは、だいたい100メートル程先だ。
つまり、全長200メートルはある事になる。
俺たちが下りてきた所は、校舎の中心辺りだからな。
「とりあえず外に出るか」
そう言って階段を下りていくと、この校舎は5階建てだという事が分かった。
かなりデカい学校だな。
校舎の中には特に魔物の魔力は無いので、スタスタ進み校舎の外に出るとそこは、体育館に続く通路になっていた。
やっぱりこんな学校知らないんだけど?
そこでふと視界に入った通路の途中にある掲示板。
目を向けながらその前を通り過ぎようとした所で、俺は足を止めた。
「これ何語?」
掲示板に貼られている紙には、見慣れない文字で色々書かれていた。
「あっ、俺たちが使っている文字だ」
後ろから覗き込んでいたアニルがそう言う。
「なるほど、これがアニルたちの世界の文字か」
アラブ文字と何かを混ぜたような文字だな。
ん? なぜこっち側のダンジョンにアニルたちの世界の文字があるんだ?
そこで俺は思い出す。
以前異世界ダンジョンに行く事になったダンジョンで、手に入れた本の事を。
あれも知らない文字だったが、あの異世界で使われていた文字だという事が後で分かった。
つまりダンジョンは、地球側と繋がっている異世界側の情報を基に構成されるのか?
まあ、そうとしか言いようがないよな。
階層が深くなればなるほど、繋がっている異世界の情報が混合するのかも。
あれ? それってダンジョンがどんな異世界に繋がってるのか、調べるには丁度良いんじゃね?
知らない文字がダンジョンで発見すれば、それは異世界に人が居るという証になる。
なので、その異世界には行っても即死は無いって事だ。
もしかしたらダンジョンの最下層付近には、異世界の情報がもっとあるのかもしれない。
ここならこの学校の図書室とか街中にある本屋に行けば、世界地図やいろんな資料があるだろう。
ふむ……この事は山波さんに知らせないと。
あと、ギルドでもギルド員に周知させないといけない。
どこかのダンジョンには、危険な異世界の情報があるかもしれないからな。
読んで頂きありがとうございました。




