9 強化合宿2
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強化合宿を始めて2日目には皆がなんとか動けるようになり、次の段階へ進む事になった。
朝飯を皆で食いながら予定を伝える。
「飯食って休憩したら、それぞれ摸擬戦を始めるからなー」
そう言うと皆の食事の手が止まった。
そんな中、最初に口を開いたのは美香である。
「あの、この状態で摸擬戦は……厳しいと思うんですけど?」
「ふっ、だからこそ訓練になるんだろ? 最初はゆっくりでいいんだ、次第に身体が慣れてくる」
人間の身体はそういうところは不思議だよね。
痛みに慣れるとそれが当たり前になって、知らない間に身体は自然と動くようになってくる。
順応性が高いのかな?
怪我をした格闘家がサンドバッグを叩いたり、普段どおりのトレーニングをすると怪我の治りが早くなったりするのだ。
本当に不思議である。
そして食後の一服をしてからそれぞれペアを組んで、普段使っている武器での摸擬戦を開始する。
ペアはこのようになった。
アニル、ガムロ。
堀さん、シュア。
そして俺と美香。
それぞれが距離を空けて摸擬戦を始める。
始まりは本当に、スロー再生をしているかのような動きだ。
「ほら、いつでもいいぞ」
今回は魔術や魔法は使わず、武器と素手のみにした。
美香はゆっくり短剣を構えながら腰を落とし、ゆっくり前へと進む。
現在美香というか、ここに居る全員は魔力で身体強化をした状態だ。
じゃないとまともに動けない。
ましてや武器を持つ事さえ困難だろう。
短剣を持つ負荷さえも、2倍になっているのだから。
そんな俺も刀が5倍の負荷になっているのだ。
普段どおりに構えるのさえ、キツイのです!
すでに全員汗だくだ。
ちなみに、この武器を振り上げるのも振り下ろすのも、同じ負荷が掛かっている。
なので、重力に任せての振り下ろしをして、楽をしようと思ってもできない。
振り下ろしも同じく、全身に負荷が掛かっているのだ。
今の俺たちを外から見たら、公園で太極拳をやってる人たちのように見えているかもな。
しかし、始まって数分で既にみんな疲労困憊だ。
かく言う俺もである。
たった3回の攻防でフルマラソンをやったような感覚になり、美香も俺も地面に座り込んで呼吸を整える。
「はあ、はあ……どうだ?」
座り込んで俯きながら息を整えている美香に問いかける。
すると、少し顔を上げて答えた。
「はあはあ……普段の動きは、なんとかできるようになりましたけど……戦闘だと……全然違いますね」
「そうだろ? それは負荷が無い時でも同じって事だ……これでまともに動けるようになれば……」
俺はそう言って最後はニッと笑う。
「はは……はい、確かに凄い事になりそうです」
「まだ続けるか?」
そう聞くと美香は、深呼吸して地面に手を突き立ち上がりながら答えた。
「はい! よろしくお願いします!」
根性あるねぇ。
その後も数回の攻防をしては休憩という事を繰り返し、昼飯になると皆で食べ、また摸擬戦を始める。
そんな時間を過ごして4日目になると、摸擬戦もなんとか3分間続けられるようになり、順調に強化合宿は進んでいた。
5日目からは魔術や魔法といった、魔力を使った摸擬戦に入る。
「よし、じゃあ魔術を使ってみろ」
「えっ、進藤さんに向かってですか?」
「なに当たり前の事を聞いてんの? 摸擬戦だぞ?」
「あっ、はい!」
そう言うと美香は魔法陣を展開……できなかった。
「……魔力が、中々……あれ? 強化はできてるのに……ちょっと待って下さいね、いま…………あれぇ? 魔術ができないんですけど?」
こいつは天然だったか?
「魔力で魔法陣を描く事も本来、負荷が掛かってるって事だ、待っててやるからゆっくりやってみろ」
「はい!」
そして魔法陣が展開したのはそれから、約10分後の事だった。
美香が撃った魔術は火球を飛ばす物だったが、これだけ時間が掛かったのだ。
ちなみに火球が俺に向かって飛んできたが、既に結界を張る魔術は組んでいたので、無事防げた。
「魔力で魔法陣を描く時に感じた、魔力の動きをしっかり覚えておけよ、それが普段からある負荷だからな」
「分かりました!」
魔力で強化する事には慣れたが、魔力で魔法陣を描く事はまた別なのだ。
魔力制御といってもその中では、無数に細分化されている。
こうやって負荷を上げて感じないと、分からない事もある。
魔力を練る、纏う、変換、放出する。
同じ魔力制御でもそれらの工程はまったく別物だ。
なのでこれを徹底的にやる。
「とりあえず、魔術を普段通りに使えるまで、ひたすらそこの壁に向かって撃つように、俺も自分の訓練に入るから、何かあればいつでも聞いてくれ」
「ふぅ~……あっ、分かりました」
既に集中してるようだな。
さてと、他の皆はどうなってるのか……。
ほう、同志も魔術をひたすら壁に向かって撃っていた。
やる事を分かってるみたいだな。
アニルたちは強化をしての摸擬戦をやっていた。
1人が外から見てアドバイスをするといった具合に、ローテーションで3人は摸擬戦をしている。
動きは何とか動けてるという感じだ。
これに慣れれば皆は今より確実に強くなれる。
ちなみにこの訓練でもレベルは上がる。
異世界ダンジョンでやった時も上がったのだ。
そこで俺は気になって調べた。
『レベルとは何か』
世界の図書館による情報だと『魂の強さ』らしい。
つまり、訓練でも魂を鍛えられるという事だな。
魔物を倒せば魔物の魂の欠片を吸収して、自分の魂の一部にしてレベルが上がる。
なんともゲーム的なシステムだね。
誰が作った理なのか……勿論閲覧禁止だった。
まあ、今はそんな事より自分の訓練だな。
なんせ俺は5倍の負荷が掛かってる。
普段の動きはできるようになってきたけど、戦闘や魔力制御と操作はまだまだだ。
今回の合宿最終目標は、天狗をソロで倒す事。
うん、いま決めた。
普段の自分なら余裕で倒せるが、皆はまだ微妙だからね。
ソロで倒せるようになれば、この先もいけるだろう。
もっと厳しくした方が良いのかな?
難しいところだ。
読んで頂きありがとうございました。




