7 天狗との戦い。
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部屋に入ると天狗は大きな唐傘を畳み、いきなりこちらへと投げてきた。
物凄い速さで飛んでくる唐傘を俺たちは四方に跳び散り、難なく躱すが傘は地面を抉って突き刺さると、砕けた細かい石を周囲に飛ばしてくる。
俺は飛んでくる石を全て素手で叩き落とし防ぐ。
まあ、そんなに飛んできてないから出来る芸当だ。
しかしいきなり傘を投げてくるとはね。
すると、今度は懐から短い木の棒のような物を取り出し、前に突き出すと握った木の棒が急に伸び、2メートルはある長い錫杖のような物に変わった。
あれがメイン武器か。
仲間たちも武器を構え警戒する。
「アニル、ガムロ、前衛いけるか?」
「ああ、任せろ」
「奴の膂力はかなりあるが、受け流せばいける」
「じゃあ任せる、危なくなったら直ぐ下がれよ」
2人は頷いてから、天狗へ接近する。
「シュアは遊撃で、2人のフォローを頼む」
「ええ、任せて」
そう言うと、シュアは素早く天狗の背後へと回った。
「美香と堀さんは魔術で……」
そこまで言った瞬間、地面に刺さっていた唐傘がバサッと開き、クルっと回って宙に浮くと、大きな目をこちらに向け俺と美香と堀さんをギョロギョロ見る。
すると傘は浮いたまま物凄い速さで回転を始めたと思うと、俺たちに向かって飛んでくる。
風切り音を鳴らしながら飛んでくる傘は、最初のターゲットを俺にしたようで、途中で方向を変えて俺に向かって飛んできた。
「進藤さん!?」
「危ないっ!!」
美香と堀さんが叫ぶが、俺は落ち着いて飛んでくる傘を見ていた。
ふむ……。
「邪魔だな」
そう言って俺は、腰にぶら下げている刀を抜きざまに斬り上げ一閃。
そしてクルっと回して納刀。
チンッと音が鳴ると、唐傘は縦に真っ二つとなり絶命する。
それを見ていた美香と堀さんは固まっていたが、少しして口を開いた。
「え……エエエエ!?」
「な、何っすかいまの!?」
あれ? 俺が刀を使うところって見せた事なかったっけか?
「進藤さんって賢者ですよね!? 何で刀を扱えるんですか!? 今のは完全に達人以上でしたよ!?」
「そうっす! 賢者が漫画みたいな事をできるってどうなってるんっすか!? 魔法と魔術だけじゃないんっすか!? なんかズルいっす!!」
「ふむ、訓練したから、としか言いようがないんだけど?」
それ以外に無いぞ?
異世界ダンジョンで大分鍛えられたからね。
「それより、さっさと2人も魔術で天狗を攻撃! アニルたちが倒してしまうぞ?」
そう言って視線を向けると、ガムロが大剣で天狗の錫杖攻撃を受け流し盾役をしている間、アニルとシュアによる攻撃で天狗の体中は傷が増えていってる。
それを見た2人は頷いて魔法陣を展開。
「皆下がって!!」
美香がアニルたちにそう言うと、アニルたちは隙を見て距離を空ける。
その瞬間、美香と堀さんが魔術を発動させた。
堀さんの魔法陣から、キラキラと細かい粒子のような物が飛び出すと、天狗の足元に当たり凍らせる。
続けて美香の魔法陣からは、バチバチと電気を纏った長い鞭のような物が伸び、天狗に巻き付く。
ほう、動きを阻害する魔術ね。
そう思っていると、凍った足元からは氷の棘がザンッと伸び、身体に巻き付いた居雷の鞭からは突き刺すように雷の長い針が伸びる。
おう、エグイな。
『GUOOOOOOO!!!』
天狗が叫ぶと、全身に力を入れ腕や首に血管のような物が浮かび上がる。
その瞬間、雷の鞭も足元の氷も弾けて消えた。
「えっ、うそ……」
「マジっすか、あれが効かないって……」
美香と堀さんが驚いている。
すると天狗は、美香と堀さんをギロッと睨みつけ、錫杖をブンブンと回し始め、最後は地面にドンッ! と叩きつけると錫杖がシャン……と鳴り響いた。
俺は何が起こるのか周囲を警戒していると、美香と堀さんが突然吹っ飛んで、壁に叩きつけられる。
「うっ!?」
「グホッ!?」
「は?」
いまこいつは何をした?
するとまた天狗は錫杖を回し始める。
また来る。
そう思った俺は、魔法で俺たちの前に土壁を作った。
その間に美香と堀さんの方を見ると、ダメージは負ってるが無事のようだ。
視線を天狗に戻そうとした時、美香たちの状態に引っ掛かりを覚え、二度見する。
美香たちは吹っ飛ばされたが、傷は殆ど無い。
あの音による衝撃波?
いや、それなら俺やアニルたちも吹っ飛ぶはず。
そう考えていると、天狗はまた錫杖を地面にドンッと突いた。
そしてまたシャンと音が鳴り響く。
すると今回は、俺たちの前に作った土壁を円形に、何かが突然そこに現れたように抉り、最後は弾け飛んだ。
それを見て俺は分かった。
あの攻撃は『空気』を圧縮させているんだと。
しかも場所を指定できるって事は、あの攻撃は魔法の類だ。
でも、魔力の流れは起こりが無かった。
攻撃の前も後も、一切魔力に動きは無い。
……まさか、妖力とかじゃないよね?
そこで俺の頭の中に、今までの奴の動きや仕草がフラッシュバックし、俺の天才的脳味噌が答えを導き出した。
あれは『意思の力』
剣豪スキルの【闘気】に近い物だと思う。
だから魔力の起こりも後の流れも無かったのだ。
言うなればあの攻撃は『念動力』その物だな。
天狗だから神通力的な物になるのかも?
どうして分かったのか?
奴は最初、アニルたちとは錫杖を振って攻撃しているだけだったが、美香と堀さんの魔術による攻撃で怒り、あの攻撃を発動した。
おそらく天狗は、武器で殴り合うならあの攻撃はしなかったんだろう。
そこに魔術で攻撃されたから、最初に美香と堀さんが吹っ飛ばされた。
ふむ……変わった魔物だな。
俺はもう一度土壁を皆の前に張る。
「美香! 堀さん! 大丈夫か!?」
膝を突いて腹を押さえている2人は大丈夫と答えた。
この魔物は2人には厳しいので、アニルたちにそのまま任せる事にする。
「アニル、ガムロ、シュア! 仕留められるか?」
そう聞くと、3人はニッと笑って頷いた。
「じゃあ、任せる!」
俺は美香と堀さんに歩み寄り、ポーションをアイテムボックスに入れてある予備から渡した。
「ほら、今回は相性が悪かったな」
ポーションを飲み干した美香が答える。
「ぷはぁ……ふぅ、ビックリしたぁ、いきなり何か物凄い衝撃があって、気付いたらこれですから」
「んぐっ……はぁ、何だったんっすか? まったく見えなかったっすよ?」
俺は先程の推察を伝える。
「なるほど、念動力ですか」
「魔物がそんな物を使うんすか? 厄介っすねぇ」
「まあ、滅多に居ない魔物ではあると思う」
そんな話をしていると天狗は、最後にガムロの大剣で首を斬り落とされ絶命した。
最下層までにどれだけ2人を鍛えられるか、もし足らなければ……よし、ちょっと予定変更するか。
「進むのを一旦保留にして鍛えるか」
「えっ?」
「はっ?」
俺はニヤッと笑い2人を見る。
「強化合宿を開催しまーす!」
俺の言葉に2人は完全に固まっていた。
アニルたちは何だ? と首を傾げている。
俺も異世界ダンジョンでやった、地獄の訓練を始めようではないか!!
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