30 旅立ち?
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学園長室の隣にある応接室へ向かうと、ソファに座りながらお茶をのんびり飲んでる同志が居た。
「どうもお待たせしました。……で? どのようなご用件で?」
お茶をもう一口飲み喉を潤した堀さんは、カップをテーブルに置いてから口を開いた。
「進藤さん……異世界に行く予定ありますか?」
ん? なぜそのような事を聞くのか……。
「えーっと『行きたい』なぁとは思ってますが? どうしてそんな話が?」
すると同志の目が鋭くなった。
「学園の生徒が、学園長が異世界に行くみたいな事を話していると、部下から聞きましてね」
あー……確か生徒の身内に自衛隊が居るって資料にあったな。
誰か覚えてないけど。
個人的な事で学園の機密事項ではないから話せるのね。
ユウたちと話している内容をどこかで聞かれてたのかな?
ふむ、ならば仕方ない……。
「ええ、実は企業秘密でして……近々私と秘書を連れて異世界に行く予定です。 勿論商売のためですよ?」
俺がそう言うと同志の目力が物凄いものになり、キラキラしだした。
「え、えーっと……その、あれです、自分も行きたいじゃなくて、任務で行ってこいと言われまして、付いて行ってもいいですか?……是非付いて行かせて下さいお願いしまぁすっ!!」
「うお、ビックリした」
同志はそう言って最後は、ソファの横へジャンピング土下座をかました。
現実でジャンピング土下座を見たのは生まれて初めてである。
そんなに行きたいのか。
まあ、アニルたちの世界なら行っていきなり死ぬなんて事は無いだろうし、同志くらいならいいかな?
「堀さんだけならいいですよ?」
そう言うと顔をバッと上げて俺を見る。
「えっ、今いいと言いました?言いましたよね!?」
「ええ、ただし条件があります」
手を上げて喜びそうな所にそう言うと、同志は止まってキョトンとする。
「異世界は地球とは違い、魔物のレベルも高い可能性があります」
「それはそうですね、それが?」
「もし危険な状況になった場合、自己責任でお願いしますね? 足手まといなら置いていきます。それが条件です」
地球の人間からしたらちょっと厳しい言い方かもしれないが、異世界ダンジョンでは何度も死にそうになったからな。
勿論由奈もだ。
他はアンデッドなので問題無し。
ちなみにユキが危ない時は俺が守って、俺が危ない時はユキが守ってくれてたからね。
最高の家族である。
ラノベでもよくあるように、パーティーの実力が離れすぎていると逆に危ないというのは本当だろう。
俺たちは異世界でバランスを取るために、皆を順番に鍛えていった。
今回は美香を鍛えるためでもあるんだけど、そこに同志が入るとまた危険が増す。
なので必死に付いてきてもらわないとこちらも危険なのだ。
暫く考え込んでいた同志が顔を上げて答える。
「分かりました、何がなんでも付いていきますから! 今でもダンジョンに潜っては鍛えてます」
「言っとくけど、異世界は地球とは全然レベルが違うからね? 今回行く世界のレベルは分からないけど、それでも地球よりは高いと思う」
地球よりもっと昔からダンジョンが存在していたと、アニルとの話で分かってるからね。
ダンジョンが存在してる期間が長ければ長い程、難易度は上がる。
まあ、アニルたちのレベルが60くらいが平均だったから、大丈夫だとは思うけど。
「ちなみに堀さんのレベルは今いくつです? 低すぎると流石に同行許可は出せませんから、大体でいいですよ」
「えーっと、40くらいです……どうですか?」
ふむ、結構上げてるんだな。
40くらいだと、異世界ダンジョンに行った時のおっちゃんたちよりは高いな。
それなら問題無いか。
「分かりました、それならたぶん問題無いと思いますが……自己責任でお願いしますね?」
「はい!そこは重々承知してます! ……で、いつ頃出発するんですか? 準備する時間があればいいんですが」
「それがですね、出発する時期が今日やっと目処がたちまして……1週間後、出発します」
すると同志はブツブツ何か言って考え込み、纏まったのか俺を見て言った。
「分かりました、自分は直ぐ準備に取り掛かりますので、今日はこれで失礼させて頂きます」
「ええ、集合は朝9時で大丈夫ですから、当日は遅れないように!」
「ハッ! では失礼します!」
そう言って立ち上がり敬礼すると部屋を出ていった。
ふむ、一週間後か……自分も何となくで言ってしまったが、ギルドと学園はコウが居るので問題は無いだろうし……他に何かあったかな?
後はアニルたちに言うだけか。
ちなみにアニルたちは、俺が学園とギルドに掛かりっきりの間、毎日街ダンジョンに行って魔物と戦っている。
それは俺が職業の証を使わせたからだ。
アニルが剣士。
大男のガムロが騎士。
シュアが暗殺者。
に就いた。
どうやらスキル情報を基に鍛えてるそうだ。
…………うん、別に明日出発でもいけそうだな。
まあ、同志に1週間後って言ってしまったし、俺も出発まで新しいスキルの訓練をしますかね。
この日から俺は出発までの間、総理から依頼された物を作りながらスキルと向き合いひたすら訓練もしていた。
出発の3日前には無事議員バッジ、警察バッジ、自衛隊用のドッグタグを納品できた。
【収納空間】【所有者登録】【通信機能】【身分証明】
の機能を付けてある。
収納空間はギルド員より小さめに3メートル四方の空間にした。
それと、内緒でGPS機能も付与した。
一応、総理と防衛大臣には伝えてあるけどね。
そして1週間後、出発の日がやってきた。
拠点の前で皆が見送りをしてくれているところだ。
俺はいつものサバゲ―服に外套を纏っている。
バックパックも一緒に覆っているので、背中がもっこりしてるように見えるだろう。
「ヨウなら心配しなくても大丈夫だろうが、気を付けろよ?」
とはユウの言葉。
「ああ、異世界ダンジョンで嫌と言う程身に染みてるからな、何かあれば直ぐ戻ってくるよ、ギルドの方は頼んだぞ」
あの異世界ダンジョンみたいな所なら直ぐ引き返すと決めている。
「ああ、なんせ『昨日』ギルドマスターになったからな!」
ユウにずっと伝えるのを忘れていたのだ。
「ヨウ君、暴走したら駄目だからね? ユキちゃんが居るから大丈夫だと思うけど」
なっちゃんが心配そうにそう言う。
「あの1回の暴走をまだ言うか? あれからは暴走してないだろ? 大丈夫だよ」
「あの暴走が強烈だったからねぇ、ずっと言い続けるよ」
「勘弁してくれ……まあ、あんな事は2度とないから安心しろ」
「絶対だからね?」
俺は頷く。
「お兄ちゃんが帰ってくるまでに生徒たちを立派な教師にするからね!」
「おう、帰ってきたら真っ先に確認してやるからな? って、そんなに長く空ける予定はないんだけど?」
「えっ? 数年帰ってこないんじゃないの?」
「いやいやいや、ただ商売しに行くだけだから! 取引が終わったら直ぐ帰ってくるから!」
「そうなんだ、てっきりまた数年異世界に行くのかと思ってた」
あの異世界だと数年になりそうだけど。
「ヨウ君、気を付けてね?」
美晴さんは包容力があるなぁ。
「洋介なら大丈夫だろ」
「美晴さん、副学園長として学園の事お願いしますね? おっちゃんも学園の皆を守って下さいよ?」
そんな話をしていると、同志が車で到着した。
「あれ? 遅れました?」
「いえ、時間通りですよ」
「良かった……今日からよろしくお願いします!」
「まあ、気楽に行きましょう」
するとコウが前に出て話し掛けてきた。
「兄貴、異世界でも念話って通じるのかな?」
「ふむ、それは確かめてみないと分からんが、おそらく届かないと思うぞ?」
次元が違うからね。
「そっかぁ、色々調べてもらおうと思ったのになぁ」
「この1週間、色々調べただろ? まあ、繋がればまた答えてやるよ」
「流石兄貴!」
出発までの間、コウは毎日俺に調べてくれと念話を送ってきたのだ。
まあ、全部調べて答えてやったが、まだ調べ足りないのかよ。
既に性格がちょっと俺とは違う気がするんだが?
皆とのお別れも済んだのでそろそろ出発する。
バッグにはユキ、そして弟子の美香と同志である堀さん。
3人と1匹の異世界旅が今始まるのだ!
その前に、街ダンジョンの最下層まで行かないといけないんだけどね。
読んで頂きありがとうございました。
これで4章は終わりです。
明日から5章がはじまります。




