◆048 準決勝②
会場、というか観客席の整備をした後でもう一組の準決勝。
本命の臼杵氏と、依光陣営の謎のフード男である。
臼杵氏は何やらゴテゴテした板付きのジャージを着た男性であった。オールバックに整えられた髪型が良く似合う、ちょっと冷たそうな感じのイケメンだ。クール系って奴だろうか。
「あれ、何?」
「カーボン製のプロテクターですな。臼杵は甲冑組手も使いますので、必要な要素だけを抜きだしたのでしょう」
何でも、元々は刀在りきだった武将たちが、無手になったときにも戦えるように開発した格闘術であるらしい。
言われてみれば、肩とか腰とかについてる板は戦国武将がつけてるような甲冑に見えなくもない。あとは脛当てと腕から手の甲辺りがゴテゴテっと盛られていたから、籠手とかの代わりなんだろうな。
対するのはフード付きの男。
何かの術が使われているらしく、不自然なほどに顔が見えない。
『さぁ! 今大会の優勝候補筆頭にして臼杵家が生み出してしまった真性の変態、臼杵実生氏の登場だァ! 当主の癖して結婚しないのはどういうことだ!? お家断絶待ったなしだぞ!』
「運命の相手が現れないだけで、結婚の意思はあるっ!」
『寝言をほざいているが果たして好みの女性は現れるのかー!? ちなみに彼は結婚相談所に”15歳以下”と書いて出禁を食らっているぞー!?』
「戦国時代に生まれていれば……!」
ブーイングとか野次がすごいけど、まぁこれもある種のショー的な部分なんだろうな。
というかロリコンなのかこの人。
祓魔師ってどこか残念な人間じゃないとなれない職業だったりするのかなぁ。
『対するはァ、謎のフード野郎だ! エントリー用紙に書かれた本名は”フード・ザ・カブキ”とか舐めてンのかァ!? でも大会運営の占星術でも正体を探れなかったほどの腕前ではあるぞぉ!? ちなみに推薦者の依光理事も”酒場で偶然出会った”とか欠片も情報寄越す気なしだぁ! 準決勝まで残れる凄腕と知り合えるとか酒場経営者はルイーダさんですか!?』
こちらもブーイングと野次が飛び交うけれど、中の人は何を思ってか両手をあげてノリノリでポージングしている。ガタイも良さそうだしけっこう筋肉質な感じである。プロレスとかで悪役をやると盛り上がるタイプの人間なのかも知れない。
試合開始のゴングが鳴り響くと同時、先に動いたのはフード・ザ・カブキ……長いからフードで良いや。
巨体に見合わぬ速度で吶喊していく。身を低く構えながらも両腕を広げたその姿はさながらブルドーザーのようだ。そのまま組みつかれてしまえば、臼杵氏でなくとも粉砕されてしまう未来がありありと想像できる。
が、臼杵氏は特段逃げるわけでもなく、堂々とした態度で右手を正面に構えた。
親指は上、人差し指と中指をフードに向けて伸ばせば、シルエットはそのまま拳銃である。
「咆哮せよ! 獰猛なる狼よ!」
言葉と同時に指先から迸るのは弾丸のような魔力の塊であった。試合用だからなのかそれとも元々の仕様なのか、拳骨みたいな弾丸が発射されるのを何とか視認することができた。とはいえ、おれが食らったら当たり前のように吹き飛んで再起不能になるであろう威力なのは想像に難くない。
それが、かなりの速度で連射されていく。
「吼えろ、吼えろ、吼えろ!」
フードは顔の前で交差した両腕を盾に無理やり突き進む。が、流石にこのレベルの攻撃を食らい続けるのは厳しかったらしく、途中で大きく飛び退くと距離を取って左右に蛇行して避け始めた。それでも偏差射撃を食らうことにはなるんだけれども、距離が空いているからか、それとも当てられる間隔が伸びたからか、ダメージが入っているようには見えない。
どちらにしても、とんでもない打たれ強さだ。
魔力による肉体強化はしてるんだろうけれど、フィジカルの強さが半端じゃない。
距離をとったフードは魔力弾を殴って散らしながら、おもむろに指先を石畳へと差し込んだ。
『おおーっと! 今度こそフード・ザ・カブキの術式が――否、違う! あのフード野郎、腕力だけで石畳を剥がしています! 運営の苦労も知らずに会場を破壊しておりますっ! それを振りかぶってェ、投げた――!!!』
石畳がレーザービームのように臼杵氏のところへと飛んでいく。臼杵氏は走りながら魔術弾を連射し、自分の動線を確保する。次々と迫りくる石畳を砕きながら空白地帯へと身を滑らせれば、
『誘い込まれたァ――! 近接です! ショートレンジでの攻防が始まりましたァ――! あのフード野郎、頭悪そうなファッションの癖に頭脳派ですッ!』
ディスらないと生きていけないルールでもあるの?
まぁ確かに顔を隠すフードはダサいけどさ。
ベタ足の距離となったフードは剛腕を振う。風を切るような勢いの拳はおれどころか、クリスだってモロに食らえばただじゃ済まない威力だろう。
『避ける、避ける、避けるッ! 臼杵選手、当たりませんッ!』
身を捩る。籠手で弾いて軌道を変える。魔力弾をぶつけ、勢いを殺す。
絡みつくような動きでフードの拳を躱し、さらには反撃までする。
ドゴンッ! バギンッ! バヅンッ! ギャリィッ!
人間の身体からは聞こえちゃいけない音が会場に木霊するけれど、フードはまったくひるまない。
……本当に人間ですか?
どういう耐久力してるんだよフードは!?
臼杵氏も臼杵氏で、紙一重の回避を繰り返しながらも術式や体術での反撃に余念がない。
このどっちかが葵くんと戦うのか……!
ごくりと唾をのみ、両者の攻防を見守る。
魔力と肉体がぶつかり合い、弾ける。
どれほどそうしていただろうか。
ある種の拮抗を保っていたそれが崩れたのは、臼杵氏の魔力弾がフードの頭部を直撃したのが原因だった。
大したダメージを受けたようにも見えなかったけれど、フードは自らの顔が露出しないように押さえながら大きく飛び退いた。
そのまま追撃の魔力弾を弾きながらもひらひらと手を振る。
『おおーっと! どうしたことだ!? フード・ザ・カブキ選手、どうやらここで降参のようです!』
基本的にわかりやすく決着がつくので端っこで空気になっていた審判役が慌てて駆け寄り、腕で大きくバツを作る。
『リタイア! リタイアです! 顔を見られるのがそんなに嫌なのか――!? 超絶ブサイクなのか、それとも自意識過剰なのか――!? 何はともあれ、決着です!』
なんとも中途半端な幕切れに会場からはブーイングやどよめきが出るが、フードはそんなことは意に介さず、さっさと退場してしまった。
『どう考えてもイジられるための服装だったのにお約束を守ることすらせずに退場! これは許されない! 仕方ない、勝者の臼杵選手、何か主張しながら暴れてください!』
「えええ」
そこまで大事なんですか試合後のお約束。
若干ジト目になってしまうけれど、ざわめきから生まれた臼杵コールがどんどん大きくなっていくので多分そういう楽しみ方をするもんなんだろうな。
コールが大音声となったところで臼杵氏が拳を振り上げた。
大喝采が起こる。
「私はロリコンじゃない! 偶然好きになる女の子が毎回13歳前後なだけだァッ!」
『おおっと! 未来形で偶然だと言い切りました! 真性の変態だ――! 小さい女の子を連れた親御さんは娘さんをしっかり隠しておきましょう! 浚われますよ!』
「純愛系だから無体な真似はしないっ! 親御さんの許可をとって口説くっ!」
言いながら魔力弾が無差別に客席へと打ち込まれる。
試合のときに放っていたものに比べると、かなり大型だけれどゆっくりである。うん、手加減してるんだねきっと。
観客たちが一頻り逃げたり弾いたりしたところでお昼の休憩へと移ることになった。
午後は葵くんと臼杵氏の一騎打ちである。
……うん?
これ葵くんの性別間違われてガチ恋とかされないよね?
言い知れぬ不安を感じながらも、おれたちは昼ご飯を調達するために席を立つのであった。




