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◆044 パーティー

 俄かに昏くなってきた空の下、乾杯の声が唱和される。

 おれの回復魔法がどう作用したのかは不明だけれど、土御門さんが復活した。夫人は目を潤ませながら土御門さんに抱き着き、三条さんも滂沱の涙を流していた。

 夫人はきっと、心の底から愛してるんだろうなぁ。

 そんなわけで快気祝いと祝勝会を兼ねて外でバーベキュー……の予定だったんだけども。


「あぁっ、ぐっ……いいのか、本当に良いのか……?」

「あまね。冷めるぞ」

「いや、だって!」


 A5ランクの黒毛和牛のドデカいブロックを切りながらバーベキューって何だかもったいなくないですか!?

 もっと繊細な調理が必要な気が……!

 ほら、何か美味しそうなお肉ってローストビーフみたいに中がピンクの状態で出てくるじゃん!

 それを豪快に焼いちゃうと、美味しいは美味しいんだろうけど何か違うっていうか、一番美味しい状態からちょっと外れちゃいそうっていうか……。

 おれがお肉を前に懊悩しているすぐそばで、みんなは普通にパクパク食べている。おれが気にしすぎなだけなんだろうか。ちなみに変わったところではものすごく新鮮なレバーが切り分けられていて、焼いて食べるほかにごま油と塩でレバ刺もあったりしている。

 レバ刺って禁止されてなかったっけ、と思ったけれど、あれはお店で出すのが禁止なだけで個人でやる分には自己責任なんだとか。


「術式で消毒しているので食中毒のリスクはゼロですな」


 三条さんがそんなこと言っていた。

 ちなみにそのレバ刺なんだけれども、葵くんが首を傾げながら食べている。


「俺、元々レバーって苦手だったはずなんですけど……懐かしいような……美味しいような……?」


 ノーコメント。

 ノーコメントを貫きます!

 十中八九、異世界で経験した理性ゼロ(ケダモノ)生活の影響だと思うけど、せっかく本人が忘れてるんだから余計なことは言わないに限る!

 そんなこんなで、おれが高級なお肉を前にもだもだしている間にもガンガン焼けていくし、ガンガン食べられている。


「ほひひい、れふ!」

「ルルちゃん、飲み込んでからにしましょうね。あ、コレも美味しい」

「梓ちゃん、次は何を取るっすか?」

「ありがとうございます。それじゃあカボチャをお願いしても良いですか?」

「おねえさま、こちらも焼けましてよ? 召し上がってくださいまし」

「バリうまかっ! あまねちゃん、はよ食べんね?」

「た、環さん、何か取りましょうか?」

「んー、自分で取れるし大丈夫かな。ありがと」

「ウインナーさんが焼けた、です!」

「ルルお嬢様は料理が上手ですねぇ。さ、口元を拭いてさしあげます」


 みんなして美味しそうにパクついてるけど貧乏性なおれからするとどうしてももったいなく感じてしまう。

 ちなみにお財布(ざいげん)は三条さん。自らが仕える主人が復活したのが嬉しかったのか、おれに《転移》をお願いして超が三つくらいつく高級なお店でどデカい牛肉を買ってました。

 肉屋さんなのに一見さんお断りってどういうことなの……?

 ショーケースに並んだお肉はどれもこれも業務用。三条さんが選んだ分だけで6桁だったのを見て心臓止まるかと思った。

 びっくりしたおれに、三条さんはむしろ頭をさげて、感謝を伝えてくれた。


「御当主を快復(かいふく)させて下さり、皆様には感謝してもしきれません……!」


 その頬には光るものが伝っていた。

 とまぁ、ここまでだったら美談で終わっていたんだろうけれど、続きがある。

 三条さんと土御門さんは現在、席を外している。

 快気祝いを兼ねてるなら主役なんじゃなかろうか、とも思ったけれど、バーベキューの仕込み中に三条さんが土御門さんを引きずってっちゃったのだ。


「御当主! 溜まっている仕事が先ですぞ!? これまで私がどれだけ苦労をしたか――」

「わ、分かった! 分かったから離せ! 自分で歩ける!」

「奥様にお食事の世話までされていた人間が何を言っているのですか! 部屋まで案内しますから仕事に全エネルギーを集中して頂きたい!」

「す、すまなかった! 分かったから! 申し訳ないと思っている!」

「披露会の一件が片付いたら私は休暇を頂きますからな! 最低でもひと月は頂きます!」

「わ、分かった! 絶対に休暇を取れるようにする! とれるようにするから――」


 ……仕事地獄から解放されるのが嬉しくて泣いてたわけじゃないよね?

 そんな土御門さんだけど、さっき飲み物を取るために一度こちらに来ていた。

 仲良くお喋りする梓ちゃんと大悟を見てぽろりと涙を零したものの、梓ちゃんがいるときだけ発動する『ほがらかパパさんモード』になっていた。

 普段とは別人レベルのにこやかな笑みを浮かべて大悟に頭をさげる。

 ……普段のツンデレ親父っぽい土御門さんはどこに行っちゃったの?


「大悟君か。きちんと話をするのは初めてだね。梓の父です」

「じっじじじじじぶんはっ、望田っ、大悟と言います! む、むむむむすめさんとおちゅきガ――っ!?」

「はっはっはっ。反対しに来たわけじゃないから、落ち着いてくれ」


 どもりまくった上に思いっきり舌を噛んで悶絶した大悟を見て、穏やかに笑っていた。普段の土御門さんならデフォルトで不機嫌、基本は嫌味な返答のみって感じでツンデレからデレを抜いた親父なはずである。

 ……もしかしておれの回復魔法がツンデレまで直しちゃった?


「といっても私は顔が怖いから話すだけでも緊張してしまうかな。少しずつ慣れてくれればいい」


 ポンと肩に手を置くと、にこやかな笑みを向け、


「娘をよろしく頼むよ、大悟くん」

「ひぁ、はいっ!!!」

「それでは、申し訳ないが私は仕事が溜まっているのでこれで。ゆっくりしていってくれ」


 颯爽と去っていった。

 その姿は、まるで『娘の彼氏と良い関係を築こうとする父親のよう』であった。まるでも何もそのものなんだけれど、そんなの土御門さんじゃないよね。圧力と嫌味全開で応対してヘコませておいて、裏で手を回して大悟を抹殺するくらいのことは平然とやってのけるのが土御門さんだ。基本は横柄なおっさんだし、精神壊すほど梓ちゃんラブだし。

 回復魔法の効果、もっとしっかり把握しとかないと、と決意していると母屋の方から野太い慟哭が聞こえてきたので、多分やせ我慢してたんだな……というか声上げて泣くほどなのか。

 土御門さんが土御門さんだったのでちょっと安心するけど、大悟は夜道とか人気の少ないところは気をつけて歩きなよ。土御門家の財力だと、死体ごと事件がもみ消されちゃうからね!

 っていうかそういうことをするから梓ちゃんにツンケンされているのでは……?

 素直になれば良いのに。

 うん、なにはともあれ、一件落着である。

 ……良いんだよ! 例え土御門さんがちょっと気持ち悪かったとしても!

 三条さんと土御門家が平穏ならそれで良いんだよっ!

 正直ちょっと不気味だし鳥肌立つけど!


 ……ちなみに、A5ランク和牛のバーベキューはとてつもなく美味しかったけれど、めちゃくちゃ胃もたれしました。

 うん、量を食べるもんじゃないね。


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