◆028祓魔師とやらがやってきた
「配信したいんだけど……」
「ウチも配信したかー」
「なんでこんなに配信できないの……?」
「作者曰く、『プロット書いてるときにパッションが舞い降りたから』だそうですよ」
「またパッションっすか。そのうち『んーっ!』とか言いながら胸叩きそうっすね」
「その芸人、最近の若者はきっと知らないぞ?」
「エッ」
ルルちゃんのデビューも兼ねているので、折角なら皆でワイワイやりたい。うーん、どうしたものか、動画を観ながら雑談に近い話し合いを重ねていく。
「キャンプ配信ばしてみたかー」
キャンプもけっこう人気なコンテンツなので有りだろう。ただ、個人的にはもう少し暑くなってからの方が良い。まだGW前なのもあって朝晩は肌寒いこともあるしね。
それから、キャンプ動画を撮るならアクションカメラとかも用意したいし、アウトドアグッズは結構値が張るのでちょっと気後れする。
沢遊びみたいな感じでデイキャンプならありかも知れないけどね。
その前にみんなで水着を選んでファッションショーとかも面白いかも知れない。まぁ柚希ちゃんだけグラビアモデルみたいになるだろうけど。
「ゲーム……上手くなりたい」
大人気狩猟ゲーム『モンスターバスター』にて怪鳥にさっくり殺されたクリスは、
「この程度のモンスター、倒せないわけがない! 私は元勇者だぞ!?」
と謎の負けず嫌いを発揮して、現在G級制覇を目標に猛特訓を繰り返している。元の世界に微妙に掠っていないのが琴線に触れたらしく、すっごいムキになっていた。
ちなみに講師は大悟。おれもできなくはないけど、大悟ほどやりこんでないし、何より大悟は教えるのがうまい。
「はい、そこで避けてから、斬るっす」
「斬ったらすぐ転がるっす」
「モーションよく見るっす、振り回しなんで近づいちゃダメっすよ」
今は武器に文句をつけながらも元気にプレイ中だ。
「こんなにすぐ切れ味が悪くなるのは粗悪品の証拠だ! 武器の目利きもできないのか!」
「戦いの最中で研ぐ余裕があるか! 本物のモンスター狩りを知らないな!?」
「傭兵なら飯炊き女くらい雇え! 飯が不味い傭兵団に強いところはない!」
大悟がいないタイミングで修行しているクリスを見てるだけでほっこりするので、こっそり撮っている。クリスの発言が結構な割合で異世界ネタなので、後でテロップでも付けてアップしてみようかと思う。
これがウケるかスベるかは分からないので大悟や環ちゃんに見てもらってからだけど。
ちなみに昼休みに大悟と環ちゃんから送られてきたメッセージでは、
『ファッションショーです! みんなで可愛い服探して見せあいっこしましょう』
『やっぱり異世界配信っすよ。無理なら妖怪退治配信とかどうっすか?』
もう何か収拾つかない感じになっていた。
しょうがないので夕方もう一度会議を開く旨を皆に伝えてルルちゃんをつまみ食いすることにする。柚希ちゃんでも良いんだけど、スプラッシュ系なので《清潔》《暖乾》が使えないと後始末が大変である。
「元気になったんですね! 良かっ――あっ、ちょっ、コラ、元気すぎです!」
尻尾に翻弄されるうさ耳幼女かわいい。
「あまね様! 助けてください!」
「うん、助ける助ける。とりあえず尻尾が絡まっちゃいそうだから服脱ごうか」
「はいです! ……あれ?」
うーん。おれはルルちゃんが誰か悪い大人に騙されないか心配だよ。
今のうちに色々経験を積んでもらうことにしよう。
そんなこんなで夕方を待っていたのだけれど、気絶したルルちゃんを拭きながら服を着せていると、インターホンが鳴った。
「……誰?」
「さぁ」
急いでカウンターキッチン横のモニターに向かうと、そこに映っていたのは厳めしい感じの中年男性。高級そうな仕立てのスーツに身を包み、襟には金のバッジ。まさかヤクザじゃないよね?
一緒にモニターを覗く柚希ちゃんもはてなマークが出ていたので、心当たりはないらしい。
「はい」
『こちらに有栖川柚希という女がいると聞いた』
うわ、感じ悪い。
「はぁ、それで?」
『出せ。いるんだろう?』
イライラした口調のおっさんにおれのイライラも高まる。
「そもそも誰だアンタ」
『子供じゃ話にならん。良いからさっさと有栖川柚希を出せと――』
「ウチが何ね?」
『いるじゃないか。さっさと出てきなさい』
一瞬だけ、おれが声色的に小学生なのが問題かとも思ったけど、柚希ちゃんにも同様の態度だったためくそ野郎認定した。
こういう、偉そうな上から目線の野郎は気に入らない。社会的なポストがあるんだか年功序列を意識してるんだか知らないけど、最低限の礼儀すら払えない人間は嫌いだ。
「だから何ね? ウチ、あんたんこと知らんばってん」
おっさんは大きな舌打ちを一つ。
『関東祓魔師協会の土御門だ。早く開けろ!』
「知らんもんは知らんけん。警察呼ぶと?」
『クソッ! 貴様らも私に敵対するのか! 後悔しても知らんからな!』
玄関から硬い金属音。どうやらおっさんがドアをぶん殴ったみたいだった。モニターから姿が消えたところを見ると、苛立ち紛れに殴ってそのまま帰ったんだろう。
「……何ね、あれ」
「分かんないけど。とりあえずお母さんに聞いてみてくれる?」
不穏な空気を感じたのか、ヘッドホンを外したクリスがおれたちに視線を向けていたけど、とりあえず出来ることはほとんどないので柚希ママに何か知らないか聞くことにした。
祓魔師協会って前に柚希ママがちょろっと話をしてた気がするし。
柚希ちゃんが電話で詳しい話を聞いている間に、おれは大悟と環ちゃんに連絡を入れる。大悟には不審者が出たから気を付けることと、ご飯を買ってくるようにお願いする。外出したくないしね。
環ちゃんには事情を話し、今日はこっちに寄らないで真っ直ぐ実家に帰るように伝える。玄関ぶん殴りマンが環ちゃんに手をあげない保証はない。というかあの沸点の低さなら暴力に訴えてもおかしくはない。
鉢合わせたらきっと環ちゃんが嫌な思いするからね。
そうしてどうしたものかと首を捻っていると、柚希ちゃんの電話が終わって一応、土御門さんが誰なのかは分かった。
土御門さんは柚希ママの関東にいた頃に知り合いといえば知り合いだったらしい。とはいえ、有栖川家を追い落としたグループとも距離を置かれており、声を掛けられるような間柄でもない。
どうして柚希ちゃんを訊ねてきたかについては首をかしげていた。
古くから伝わる名家で祓魔師協会理事の一人ではあるものの、パワーバランス的にはかなり追いやられているらしい。
あと、態度すごいけどツンデレって思うといいよ、みたいなこと言われたらしい。
いかつい顔のおっさんのツンデレなんて誰得だよ!
夕方になり、食材やら飲み物やらを買いこんできた大悟も合流したところでルルちゃんを起こして会議でもするか、と思っていると、再びの来客。
嫌な予感に顔をしかめるが、とりあえずインターホンで対応する。
おれだと無礼られそうだから大悟が。
『こんばんわ。関東祓魔師協会から参りました、三条と申します』
さっきのおっさんとは違って、随分とまともなお爺ちゃんが来た。
見た感じは老紳士といった風情だ。ロマンスグレーの髪はしっかりと撫でつけてあり、スリーピースのスーツをびしっと着こなした老人だ。老執事といっても通じるかもしれない。片眼鏡でも掛けてたら完璧だったね。
「はい。どういったご用件でしょうか?」
『昼間、こちらの者が勝手に訪問し、ご無礼を働いたと聞き、謝罪に参りました』
土御門さんの関係者、という点が引っかかったけれど、今は大悟もいるし三条さんの態度はまともなので対応することにした。
ほかの部屋をしっかり閉めて、ルルちゃんとクリス、大悟は退避。
クリスは若干渋っていたけれど、存在を説明できない人間は少ない方がいい。おれも本当はいたくないんだけど、一応は柚希ちゃんを預かる身なので同席だ。部屋の契約者は大悟だけど、柚希ママから柚希ちゃんのこと頼まれてるのおれだしね。
「改めまして、関東祓魔師協会の三条です」
そう言って菓子折りをこちらに差し出す三条さんは、決して悪い人には見えなかった。最初は固辞したけれど、しっかり頭を下げてくれたしあまり断るのも失礼にあたるので大人しく菓子折りは受けとる。
それからお茶を用意し、配って着席。
「それで、あの土御門という人は?」
おれの問いかけに、三条さんは若干顔色を落とす。
「宗谷さんは見かけ通り、というわけではないのですね。物の怪の類でしょうか。それとも混血ですか?」
「おれのことを話しにきたんですか?」
「……これは失礼しました。それでは、少しだけお話をさせていただきたく存じます」
三条さんの話によると、土御門家は三条家の本家に当たる家らしい。
柚希ママの言った通り、古くは日本の祓魔界隈で覇権を握っていた時期もある名家だが、現在は血筋は立派、といった感じで名ばかりの理事となり、主流派には取り付く島もないんだとか。
家の復権を目指す土御門さんは主流派とやりあうだけの力をつけようとあの手この手で派閥の人員を増やそうとしていた。
目をつけられたのは、20年近く前、独身時代の柚希ママだ。今でさえあの美貌なんだから、当時もすっごい美人だったことだろう。
主流派に目を付けられ、追い落とされようとしている柚希ママと婚姻を結び、取り込もうとしたまでは良いが、当の本人があっさりと関東を出て普通の男と結婚。土御門さんの野望は潰えることとなった。
そこで話が終わるはずだったが、つい先日、柚希ママから娘が関東にいくから、という連絡を受け、急いで派閥に引き込むためにここを訪れたんだとか。いや柚希ママが連絡したのは協会に、であって土御門さん個人じゃないんだけど。
理事だからそういう情報にはアクセスできるんだろうけど、職権乱用じゃないですかね。
「……御当主は本人が直接訪ねることで礼を尽くしたつもりになっているようです」
三条さんの発言は、頭が痛くなるようなものであった。
「評価ボタンを?」
「くりっく、です!」
「ブックマークを?」
「くりっく、です!」
「よくできましたー!」
「これであまね様、ほめてくれるです?」
「褒めてもらえるよ。さ、ベッドいこうベッド」
「たまき様? まだあまね様はベッドには――」
「まぁ良いから良いから」
「……自分の妹ながら、酷い場面見たっす」




