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書籍化記念 暑い夏の夜に④

「エッ!? ホラー映画も観るの!?」

「観る。絶対」

「じゃ、じゃあせめて短めに……!」

「あ、あまね様? 映画の時間って、最初から決まってる、です?」

「いや、普段3000文字よりちょっと多いくらいがベースなんだけど、ちょっとでも短めに……」

「文字数、です……?」

「と、とにかく短く! 短くお願いします!」

 数日後。今度は消化しなかったほうの企画に手を付けることになった。


「さて、涼をとる、ということで今日はホラー映画鑑賞会です」

「待って! ほら、ここ最近急に涼しくなってきたし無理に涼をとらなくても——」

「観る」

「……アッ、ハイ」


 風呂上り。パジャマ姿のおれはクリスに抱きかかえられてホラー映画を強制視聴することになっていた。


 ……本当は観たくない。

 すっごく観たくない。


 でも男としてのプライドがあるので、ホラー映画にビビってるとは思われたくない。

 あとクリスが楽しみにしてるっぽいからね。

 ここは男として踏ん張りどころだろう。


「そ、それじゃあ同時視聴! 陰キャバス(リスナーさん)たちと同時視聴にしようよ!」


 コメントに集中してればきっと怖くない。それどころか緊張をほぐしてくれたり、怖いポイント直前に警告してくれる可能性すらある。

 ——さらに言えば、環ちゃんの邪悪な(たくら)みを潰すことも可能である。


「えー!? それじゃあせっかく借りて来た『ジョウト地方のある場所について』とか観れないじゃないですか! ほら、他にも『(ほの)温かい風呂の底から』とか『13日のサタデーナイトフィーバー』とか『死霊のふくらはぎ』とか色々借りてきたんですよ!?」


 ほらね。


「まぁそこら辺は環ちゃんの趣味だし。おれは陰キャバス(リスナーさん)たちと観るって決めたから!」


 我ながら完璧な計画である。

 いつまでもやられっぱなしではいないのだ。


「仕方ないですね……じゃあ同時視聴できそうなのを探しますか。金ローで良い感じのやるまで待つのも微妙ですけど、どうしましょう」

「ん。コレ」


 クリスがスマホで教えてくれたのは、YouTubeで期間限定の無料公開になっているホラー映画だった。

 するっとスワイプして確認するが、普通に怖そうな気配のものである。


「えーっと……『怖すぎて上映中止が相次いだのでYouTubeで公開します』……ってダメじゃん! CMやめたとかならともかく、上映中止ってヤバいでしょ!?」

「他にないから」

「で、でも……」

「観るの」


 はい、クリスに押し切られました。

 いや、だってコーラとポテチまで用意して観る気満々なんだもん。そこまでされたら期待を裏切れないというかなんというか。


 「恋人は一緒に映画をみる」というこっちのテンプレを知ったクリスの行動が可愛いからしょうがないね。

 でもデートのチョイスがホラーってなかなかない気がするんだけどなぁ。


 溜息をつきながらも配信準備。

 ちなみに同時視聴する映画のタイトルは『That/ザット ”それ”が見えたら、始まり』というものだ。


『よく観る気になったな』『俺は怖すぎて断念した』『これアメリカで心臓麻痺が出た奴じゃね?』『これを見てから、家の中に妙な気配が……』『死ぬなよ』『観に行くって言ってた友達が失踪した』『これを見たせいで俺の母ちゃんが(´;ω;`)』


「こ、コメント欄はもっと明るく賑やかな方向で! ほら早く! 弾幕薄いよ!」

「はーい、それじゃ早速再生しますよー」


 何はともあれ視聴開始。

 映画を映した画面の端っこにおれたち用の別窓(ワイプ)が用意され、陰キャバス(リスナーさん)たちはリアクションを楽しめる構造になっている。

 ちなみに怖いのが駄目な人用に、別窓(ワイプ)だけの配信もしてるらしい。


 ……おれもそっちが良かったよ……。

 

 さて、肝心のストーリーだけど、謎のオカマに弟を攫われて妹にされそうになっているのを目撃した主人公が、学校のクラスメイトたちと力を合わせて弟を救出するというものだ。


 これだけだとまったく怖さが伝わらないのだが、実際は死ぬほど怖い。

 ねっとりした笑顔のオカマが闇から浮かび上がり、男児の服を女児用に、女児の服を男児用に取り換える……縛って動けなくした男児に「お前は女の子の服が好きだ……そうだろう?」と囁き洗脳していく。


 どこからともなく現れるオカマ。

 常識を壊されていく子供たち。

 ブラジャーを取り上げられた子供は包丁を手に取り——……


「血が! 血がぁぁぁぁ!」

「待って待って待ってひとりで行動しちゃだめだよ絶対!」

「痛い痛い痛い痛い! 観てるだけで痛い!!」


 分類としてはビックリ系(ジャンプスケア)とスプラッタだ。

 血がいっぱい出るのは怖いんだけど、隣でポテチ食べてる環ちゃんがケラケラ笑ってるのでまだ我慢できる。

 でもビックリ系は無理だ。


 暗闇の中からオカマ。

 本棚の隙間にオカマ。

 道路の排水溝の隙間にオカマ。

 プールの底にもオカマ。

 屋根裏部屋にもオカマ。


 マジでどうやって撮ったかわからないような方法でオカマが突然現れるのだ。

 その上、ポルターガイスト的な現象まで起きるのだから一秒たりとも気を抜くことができない。


 意外なことにクリスもビックリ系は苦手らしく、涙目になっていた。

 ……このまま涙目のクリスだけを眺めてたい……。

 なんか、こう、魔力がじわっと……!


 現実逃避をしながら映画視聴を続けていたおれだけど、大問題が発生した。


 トイレに行きたいんだけど、行きたくない……!


 なぜかコメント欄には「これを見てから怪現象に襲われた」という報告が溢れていることもあって、もうひとりでトイレはいけそうにない。

 ……いや、行くけど。いざとなったら尊厳が失われる前に行くけども!


 上映中止っていわくつき過ぎるだろ……四谷怪談かよ。


 部屋中の明かりをつけて陽気な音楽でも流しつつドア全開放でトイレにいきたい……。


 そんなことを考えつつ、尿意を我慢していると映画も中盤にさしかかった。

 画面の中もどんどん盛り上がっていき怖さマシマシなんだけど、ついに画面の外でも怖いことが起き始めた。


「何で続くんだよおおおおおお! 短くって言っただろ!?」

「ほら、『TSロリサキュバスの健全配信活動!』ってあまねさんの泣き顔が魅せ場みたいなトコありますし」

「ないよ!?」

「ある」

「クリス!?」

「書籍版」

「そうですね。明日! 明日発売の書籍版でも下半身の血流改善に良いシーンがありますね!」

「ち、違う! 書籍版のおれはかっこいいんだぞ!」

「それはそう」

「」

「何ニヤけてるんですか」

「書籍版もよろしくな!」

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