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◆048「おれの大好きな人達を守る!」

「先パァァァァァイ! 早く何とかしてほしいッスぅぅぅ! 梓ちゃんとデートの予定だったッスぅぅぅぅ!」


 大悟の惚気っぽい悲鳴を最後に、映像が途切れる。

 分からないことだらけだけど、害霊は日本でも暴れてるらしい。祓魔師教会が総出で対抗しているが、相手が本当に”神”ならばじり貧だろう。

 リスナーさん達に助けてもらうのは無理。


 というか。


「……おれはどこまで甘ったれなんだ」


 皆に助けてもらって。

 皆に支えてもらって。

 この期に及んでまだ他の人に頼ろうとしていた。


「おれがやるんだ」


 おれが皆を助ける。

 そう決めて、害霊に向き直る。

 クリスと問答を続けていた害霊だが、おれが無事であることに気づくと闇の刃を伸ばしてきた。


 変身。


 大人形態になって魔力全開でそれを避けて飛び始める。夏に東京ドームでみちみちの樹木から逃げ切った飛行テクだ。

 キモい影くらい避けられないはずがない。

 影刃を避けながら飛翔し、手に持ったカメラに語り掛ける。

 

「アルマ、聞こえてるか?」

『聞こえております』


 よかった。

 アルマが改造してたからいけるんじゃないかって思ってたけど、無理だったらさっそく詰むところだった。


「アルマ。超古代文明の人間を神様にする技術って、使える?」

『可能です』

()()()()()()使()()()

『……推奨しません。形を保つことができず、超古代の民と同じく消えてしまう可能性が非常に高いです』

「でも、すぐ消えるわけじゃない」


 すくなくとも害霊は消えるまで結構な時間を使っていた。

 だったら、


「その間に害霊をブチのめす……神様になれば、きっとおれの攻撃も通じるはずだから」

『攻撃が通じる可能性は非常に高いですが……』

「はやく!」

『かしこまりました。アルマはあまねお嬢様のお世話をあきらめておりません。限界までサポートさせていただきますのでよろしくお願いします』


 磔のアルマがぶるりと震えた。

 同時に島の地下、亀裂の奥から青白い光が漏れ、おれに殺到する。

 触手のように伸びてきたそれがおれの体を包み、作り替えていく。


——知識が。

——魔力が。

——肉体が。


 すべてが変わっていくのを感じる。


「あまね!?」

「あまね様!」

「何ばしよっと!?」


 心配ないよ、って説明してあげたいけれど口は動かない。作り替えられている最中だからだろうか。

 代わりににこっと笑いかけたら、あろうことかアルマが説明を始めた。


「皆様をお救いすべく、あまねお嬢様は神化を開始しました」

「なっ!? 神になるだと!?」

「消えちゃうじゃないですか!」

「消えるまでの猶予を使って害霊を討伐し、皆様を救うと」


 皆が息を呑む音が聞こえた。

 悲鳴のようなうめき声が漏れる中で、クリスが真っ直ぐにおれを見つめていた。


「信じてる」


 うん。


「だから、勝って」


 分かってるよ。



***



 神化が終わる。

 いや、正確には終わってないんだけど、少なくとも青白い触手は消えて、おれ自身が光を放つようになっていた。


「神にナル? お前如キが? 身の程ヲ知レ」

「別におれは神になりたい訳じゃない」


 おれ自身がそんな大それたことをできる人間(サキュバス)じゃないのは一番分かってる。


「すぐ欲望に流されるし意思は弱いし察しも悪くて皆にからかわれるし!」

「……? ゴミだナ」

「でも、おれにだって守りたいものくらいはあるんだよ! そのためなら、なんだってできるんだ!」


 翼を広げる。

 7枚に増えた蝙蝠の羽根で空気を打って高く舞い上がる。


「お前が皆を不幸にするなら、おれはお前をぶっ飛ばす!」

「出来ヌコトをヌケヌケと……恥知らズが」


 やるんだよ。おれを支えてくれた人たちを助けるために。


 陰キャバスの皆を。

 祓魔師の皆を。


 マリを。

 アルマを。

 リアを。

 葵ちゃんを。

 柚希ちゃんを。

 環ちゃんを。

 ルルちゃんを。


——クリスを。


「おれの大好きな人達を守る!」

「恥知ラズがぁぁぁぁ! 出来ない言葉ヲ易々と吐くナァァァァ!!!」

「〈闇瘴祓〉!」

「グガッ!?」


 お前が人の怒りや憎しみからなる存在だってんなら、呪いと大差ないだろ。

 〈命枯らす樹〉を一撃で祓った魔法が害霊に染み込んでいき、闇を振り払っていく。

 さすがに腐っても神だけあって一撃で滅ぶまではいかないけれど、このまま限界まで連打すれば押し切れる。

 そう判断して魔力を練り上げた矢先、闇がそこかしこから噴き出した。


「殺ス……我が覇道ヲ阻む者、存在ゴト消滅さセテヤル……!」


 慌てて避けるが、四方八方から闇の刃が飛び出してきてとてもじゃないが攻撃どころじゃない。触手みたいにグニグニと動く癖に先っぽが槍や剣のように鋭くなっているのだ。

 しかも害霊は刃の部分に何か仕掛けをしているらしく、尋常じゃない魔力が集まっている。

 絶対に当たっちゃいけない奴だろう。


 ジェットコースターの如くぐりんぐりん動きながら回避していると、不意に声が上がった。


「あまねさんに触手プレイとかどこの変態ですかやめてください!!!」

「た、環ちゃん!? 何で!?」

「環様だけではございません」

「お姉さまに刃を向けるとは許せませんわ」

「うち、ばり怒っとーけん、覚悟しんさい!」


 いつの間にか皆、磔から脱出していた。 

 それどこか、体からおれと同じく青白い光を放っている。神化の光だ。


「皆、何で!?」

「あまね様が神になろうとした、です!」

「ボクたちも眷属として神の末端の力を得た訳です」


 魔力が洪水のように溢れていた。

 皆が眷属になるのと同時、おれの体に皆の力が流れ込んでいくのを感じた。一気に神化が加速するのを感じる。


 ……それはつまり、タイムリミットが近づいているってことでもあり、でも、おれの力が増していくってことでもある。


 作り替わる。

 力が増す。

 おれの輪郭が、ぼやけていく。


 おれを追いかける黒い触手をバシバシ攻撃して千切ってくれる皆を信頼して、止まって魔力を練り始める。


 指先がかすむ。


 いや、目がかすんでいるのか、それとも輪郭がぼやけているのかは分からない。

 でも、終わりが近いのは確かだ。


 ……つまり、おれの力は今が最高潮ってことでもある。

 ぐちゃぐちゃな思考の中、唐突な別れに言いたいことが溢れそうになる。もう伝えてる時間はないけれど、思うくらいは許されるはずだ。


 陰キャバスの皆。たくさん応援してくれてありがとう。

 あまね真教国の皆。信仰なんてしなくて良いから、元気でね。

 祓魔師の皆。常識も大切にね。でもこれからも日本を守ってくれ。信じてる。

 土御門さん、三条さん。後始末は頼みます。


 大悟。幸せにな。梓ちゃん泣かせたら何がなんでも神罰落とすからな。絶対に幸せになれよ。


 そして皆。

 おれの大好きな皆。


 巻き込んでごめん。最期まで一緒にいてくれてありがとう。 


 ……おれは、幸せ者だ。

 

「あまね、いけ」

「うんっ!」


 体中の魔力を。

 祈りを。

 願いを。

 想いを解き放つ。


「〈女神ノ祈リ〉!」


 瞬間。

 おれの魔力が次元を越えて二つの世界を満たした。

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