◆045 安倍晴明のお話
「クリスさんをはじめとした祓魔師の方々が殺され、あまねさんは暴走の末、害霊に取り込まれたり。第三次世界大戦が勃発して核汚染が進んだ地球を捨て、この異世界に渡って害霊の侵攻を食い止めるための死闘に身を投じたり。中には最初からあきらめて寝返ったこともありましたね」
「ちょちょちょっと待って!? ナニソレ!?」
「私が今までに経験した未来の出来事です」
安倍晴明がこれだけ大掛かりなことをやってのけたのは、そうした最悪の未来を回避するためなのだと言う。
「全人類が死滅したり、そこまでいかずとも10%以下に落ち込む未来に比べれば、多くの犠牲を払ったとておつりがくるでしょう」
言っていることはわかるものの、納得できない言葉。
返答につまるおれをよそに安倍晴明は呪符を使って空中に図を書き始めた。
「その度に私は過去に戻ってやり直してきたのです」
やり直しの総数は不明。少なくとも四桁には届いているとのことだった。
ちなみに今回の害霊討伐計画は三周のループで成り立つ計画なんだとかで、相当期待を寄せているらしい。
「私の……というよりも、マリに憑依して得た霊視では、かなりいいところまで見えましたからね」
言いながら用意された図に、おれの脳みそが沸騰を始めた。
一週目
・安倍晴明が【一週目】マリに憑依、異世界”彷徨う庭園”の装置を使って時空間に干渉、過去に戻る。
二週目
・【二週目】マリはエリを名乗って【一週目】マリの護衛。時系列事の害霊の動きや被害を把握する。
・魂を二つに分け、片方は【一週目】マリに憑依してエリとして送り出す。
・【二週目】マリはもう一度ループする。
三周目
・【三周目】マリは秋津守として活動。【二週目】マリと協力してここまで誘導し、害霊を虚無空間に放逐する。
「えっと、つまり?」
「エリは成長したマリだし、秋津守はさらに成長したマリってことですか……?」
「おお、その通りです」
いやわかんないよ。
環ちゃんですら自信なさそうにしているのにおれが分かるわけないじゃん。
いやまぁでもエリとして過ごしたり秋津守として過ごしたりしたから現代のこととかカタカナ語にも詳しいってことなんだろうな。
このまま環ちゃんが良い感じにまとめてくれないかと期待していたんだけれども、そのまま黙り込んでしまった。
やっぱり難しすぎた? それとも何か気になることある。
「さて、そんなわけで、これからアレを完全消滅させる必要があります」
「エッ!? あれで終わりじゃないの!?」
いまだにもぞもぞしている呪符の山だけど、あそこから抜け出してくる……ってコト!?
「当たり前です。あの程度で倒せるのならば私一人でやってます」
「じゃあ、どうやって倒すの?」
「さて、ね。とりあえずこの建物に保管されている超古代文明の武具を用意しましょうか。アルマさん、お願いできますか?」
「……なぜ私が知っていると?」
「過去の周回で貴女自身がそう言っていたので」
だぁぁぁぁぁぁ!!!
ワケわかんない!!!
分からないけれどもアルマが実際に武具を取りに行ったということは言ってることは正しいんだろうな。
おれの理解を超えすぎてる。
完全に置いてけぼりになってポカンとしてるおれに、環ちゃんがこっそり解説してくれた。
・安倍晴明はマリにとりついてループ。
・エリも秋津守も、ループした後のマリ&安倍晴明。
・ループの目的は世界を荒らす”害霊”の討伐。
・失敗すると第三次世界大戦が起きる
あー……えっと、つまり、
「大変じゃないか!?」
「だからこんな大掛かりな計画を立てたみたいですねぇ」
「ですねって」
「ほら、私にできるのは頭脳戦までですから」
戦いはお任せします、と笑っていたけれど、その表情は硬い。
「環ちゃんとルルちゃんだけ転移で避難——」
「しませんよ、私もルルちゃんも。あまねさんたちが命がけで戦ってるのに安全なところにいるなんてできません」
「それはそうだけど……」
「それに、安否も分からないまま待たされるのってすっごく辛いんです。だったら、私なりにできることをするまでですよ」
第三次世界大戦。
何度頭の中で繰り返しても現実感のない言葉だ。
いや、ゲームやラノベの中でだって、そんな言葉が出てきたらあまりにも突飛すぎて冷めちゃうかもしれない。
でも。
それが、現実に起きようとしていた。
ましてや止められるのはおれたちだけで、お膳立てを整えるために安倍晴明が何度もループを繰り返して歴史を変えてきた?
WEB小説だってもうちょっと捻るぞ。色々盛りすぎて胃もたれしそうになるじゃん。
「ああ、もう……何でおれがこんな物語の主人公みたいな……」
「違うぞ」
「およ、クリス。何が違うの?」
新しい細剣——超古代文明の品で、銘まで入れられた業物を腰に佩いたクリスは、珍しく笑みを浮かべていた。
「あまねはヒロインだ」
「ヴァッ?! お、おれは男だぞ!?」
「多数決、取ってみるか?」
「それはズルいじゃん! 皆一致団結しておれをヒロインに仕立て上げるでしょ!? 特に環ちゃん!」
「いや、私たちじゃなくて、こっち」
クリスが示したのは古代文明パワーで改造されたビデオカメラだ。
アルマが高笑いをあげながら色々やったせいで、蜘蛛みたいな脚が生えたカメラと蝙蝠みたいな翼の生えたカメラが爆誕していた。
いや微妙に気持ち悪い造形なのなんでだよ。
「投票形式で質問。あまねは主人公? ヒロイン?」
「あっ、まって!」
おれが制止するもすでに時遅く、コメント欄下部に投票用のボタンが作られてしまった。制限時間を待つまでもなく、爆速でヒロインの選択肢が伸びていく。
「ほら」
「ぐぎぎぎ……!」
くっそー!
おれは絶対にヒロインじゃないぞ!? いや主人公ってガラでもないけど!
でもせめて配信内では主人公でいさせてくれても良いじゃん!
「あまねはヒロインだ」
クリスはおれの頭にぽんと手を置いた。すべすべで柔らかい、ほっそりした手。
「ヒロインは、主人公に助けてもらって幸せになるものだ」
「えっと?」
「だから、大丈夫だ」
……おれを励ましてくれてた。
「クリス……好き」
「遅い、馬鹿」
思いっきり抱き着いておでこをぐりぐりとこすりつけるも、クリスに小突かれてしまった。
「環にルルにエリにと、目移りばかりして」
「ごめん」
「あんまり蔑ろにするなら考えがあるぞ」
「ヴァッ!? ……ち、ちなみにどんな考えでしょうか……?」
「私以外目に入らなくする」
「!?」
えっと、それはあれですか?
もう限界までおれを誘惑して24時間365日食べ放題ってことですか!?
ムラムラと魔力が湧き上がるおれに、クリスは優しく微笑んでくれた。
「だから、勝とう」
「……うん」




