◆043 超古代文明の遺産
彷徨う庭園。
遥か神話の時代から空に浮かび続ける島の名前だ。
誰も行ったことはなく、行ける者もいない場所。
教国に追い詰められたクリスは、逃げないかと提案したおれに対してそう言っていた。
これが伝説でもなんでもなく、異世界で活動するときに遠くの空に見えたりする事実なのがまた異世界。
本当ならば浪漫に溢れる場所だし、探検したい。
……秋津守と月島という、強大な存在に囚われているんじゃなければ、だけど。
秋津守の操る異形の鳥はあっという間に天高く飛び、彷徨う庭園に突入した。
本当に超古代文明時代のものだというのならば相当古いはずだが、毎日掃除が行われているかの如くピカピカな状態だった。
いやまぁ、自動人形を作った技術だし、なんでもありなのは分かってるけど。
タイル張りの道に整備された芝と植え込み。
現代日本の都市部みたいな作りに違和感を覚えるも、秋津守は迷うことなく歩みを進めた。ジャラリと鎖を引っ張られるので、おれも仕方なくついていく。
他の皆もおれを心配してか付いてきてくれるのが心強い。
……どうにか隙を見つけたら、皆だけでも逃がさないと。
詳しいステータスは見られないけれど配信は視聴者がガンガン増えてるっぽい。体の中にはとんでもない魔力が渦巻いているのを感じる。
本当だったらマジカル☆あまねになってぶっ飛ばしてやりたいところだけど、あれはみんなの認識によって作られる強さだ。
すでに敗北してしまっている以上、勝てると思わせるのは相当に難しい。
環ちゃんなら何か思いつくかもしれないけれど、少なくともおれには見当もつかない。
「ふむ。どうやら本当に当たりのようだな」
「まだ私を疑われていたのですか?」
「いや、すまないね。そういう性分なんだ」
「構いませんよ。神になった後にでも感謝していただければ」
「くくく。そうさせてもらおう」
……っていうか、秋津守って結局何者なんだよ。
どうして異世界のことを知ってるんだ?
彷徨う庭園なんて異世界の人ですら『伝説の浮遊島』ってくらいの認識だぞ。超古代文明が関係してるなんて知らない人が多いはずだし、ましてやその上の建築物の構造なんて知ってる人間、いるはずないんだけど。
つかつかと歩いていると、魔力の膜みたいなものがあった。
秋津守たちがそのまま通り抜けたので一緒に通り抜けたけれど、ぬるっとした液体みたいな不快な感触が全身を撫でる。
「ぶべっ」
「ぐっ」
「がっ」
「……?」
「通れませんわね」
どういう基準なのか、クリス・ルルちゃん・リアが魔力の膜に弾かれた。
それだけなら異世界出身か、とも思うけれど、柚希ちゃんと葵ちゃんも通れない。
無事に抜けられたのはおれと環ちゃん、そしてマリだけだった。
「ふむ。秋津守、これは?」
「おそらくは一定以上の攻撃性能がある人間を弾いているのでしょう」
「私と秋津守が通れた理由は?」
「ははは。こういう結界は私の得意分野ですから。ただ、改造なしでは今すぐあの者たちを入れるのは難しいですね」
「ふむ……待たせておくのも面白くないな。余計なことをされては適わん」
月島はそう告げると、自然な動作で引き返した。
コーヒーを淹れに行くような。
あるいはコンビニまで行くような気軽さ。
特殊な歩法だったのかもしれない。おれだけでなく、クリスや葵ちゃんたちも反応できていなかった。
——取り上げられた葵ちゃんの双剣。呪われたそれで皆が刺された。
「安心したまえ。神になったら治してやる」
「クリス!? 皆ッ! 何してやがるんだッ!? ふざけんな!!」
「……大丈夫だ。浅い」
「すぐ追いつくけん、少しだけ待っとってね」
「大丈夫な訳ないだろ!? 絶対に治らない傷だって——」
「あまね。信じろ」
クリスはわき腹からどろりと血を流しながらもまっすぐにおれを見据えた。
ああ、クソ。
「……分かった。信じる」
「さて、感動の別れはそろそろ良いかね?」
「……月島ぁ!」
「元気なのはいいことだが、彼女らを治せるのは私だけだぞ? もう少し態度を考えたまえ」
「……っ!」
許さない。
絶対に許さないぞ。
皆を傷つけて、めちゃくちゃにして。
その上、神になる?
何が何でも邪魔してやる。
そのまま奥まで歩いていく中で、マリがぽつりとつぶやいた。
「……あ。夢の……?」
「夢?」
「そもそもの発端になった、霊視の内容……」
ああ、あれか。
……そういわれればそうだ。
皆が倒れ、おれは鎖で引きずられる。
夢では男が相手だったはずだけど、イメージとかそういうのであれば充分に当てはまってる。
……クソ。
こんなん予期できるかよ!
、大きな広間に出る。
中央には人が立ったまま入れそうな円柱型の水槽みたいなものがあった。液体は入っていないのに青白く発効しており、そこかしこから伸びたケーブルやチューブみたいなものが壁や天井に繋がっていた。
「これか」
「ですね。超古代文明の遺産を応用し、莫大な魔力を消費すれば中佐も神になれるはずですよ」
……あれを邪魔すればいいのか。
どうすれば良い。
必死に考えるが、現状ここにいるのは戦えない人間だけ。
……おれが何とかしないと。
そもそもがおれの責任だ。
おれが人質にさえならなければ、こんな事態にはならなかったのだ。
鎖のせいで暴れたら相当苦しい思いをする、と言われたけれど、刺し違える覚悟で暴れてやろうか。
こんな奴らに皆を好き勝手させるわけにはいかない。
ぐっ、と握りこぶしに力を入れたところで隣に立ったマリがカクンと揺れる。
倒れる前にバランスを取り戻したけれど、両手で頭を抱えたマリは秋津守やおれ、環ちゃんへと視線をさまよわせて震えていた。
明らかに普通じゃない。
「……マリ?」
「あ、えと……霊視、ですけど……えっ? これ、えっ?」
混乱している。
どうすればいいか分からずあたふたしていると、環ちゃんがマリを支えるように抱いて背中をさすっていた。
「あまねさん。私がマリを見てます」
「分かった。ならおれは——」
「絶対に儀式の邪魔しないでくださいね」
「……はい……?」
「私を信じてください。うまく行くはずですから」
ああもう!
わけわかんないよ!
わけわかんないけれど、おれは皆を信じてる。何があっても裏切ったりしないし、おれも絶対に疑わない。
だから、信じるだけだ。
わかった。
そう言い残すとほぼ同時、秋津守に呼ばれた。
おれだけでなくマリもだ。
「さて。この装置を起動するために、マリさんには霊視をしてもらいます。……私がきちんと操作している未来をね」
なるほど。
そのためにマリの身柄が欲しかったのか。
「ウチ、そんな自由に霊視なんてできません!」
「大丈夫ですよ。補助しますから」
マリの額にぺたりと呪符を貼る秋津守。
同時にマリの顔から表情が抜け落ちた。ぼんやりと遠くを見る姿はまさにトランス状態だろう。
同じような呪符を自分の覆面にも貼り付けたので、もしかしたらマリの霊視したものが秋津守にも見えるようになっているのかもしれない。
よく分からない装置をささっとイジっていき、中途半端に伸びたケーブルの一本をつかみ取った。
「あまねさんはこっちです」
「……なにこれ?」
「魔力の充填装置……いわゆる電池ですね。ありったけの魔力を流してください」
ここでわざと魔力を減らせば邪魔できる気がする。
でも環ちゃんからは邪魔しないように厳命された。
迷ったけれど、時間をロスすればするほどクリス達の出血は増えるのだ。
結局は全力で魔力を流すことにした。
「さて、儀式を始めますか。月島中佐、中央の水槽に入ってください」




