◆042 敗北
「人工的に神を作り出して新しい世を創る……もしくは自分が神になる計画ってところじゃないですか?」
参道じゃないところから息を弾ませながら現れたのは環ちゃんだ。
横には当たり前の顔をしてアルマも付き従っていた。
「春の人工妖魔は神を創る前段階の実験ってところでしょう」
「ふむ? 君は?」
「あまねさんの愛人一号です」
「……いや、環ちゃん……?」
どういう自己紹介してるの……?
「っていうか、神を創る? 神になる? 妖魔とどんな関係があるの?」
「ははは。そちらのお嬢さんは君と違って賢いね。……『畏れ』を集めて異能を振るう妖魔と『信仰』を集めて奇蹟を振るう神。その根源には、違いなどありはしないんだよ」
……ハァ!?
「あまねさんだって配信で魔力集めて異能を振るってるじゃないですかー」
「い、いや、そりゃそうだけどさ……って、何でここに!? どうしてそんなに呑気なの!?」
「呑気じゃないです。すっごい怖いですし、今にも膝から崩れ落ちそうですよ」
「ふむ。頭もキレるし胆力もそこそこある。私の部下にならないかね?」
「お断りします。創世計画は致命的な欠陥がありますし、絶対失敗しますもん」
「……何?」
「だからこのままじゃ失敗するんですってば」
笑顔で答える環ちゃんだけれど、自己申告通り膝はがくがくだし顔色も真っ青だった。
じゃあ何でわざわざお喋りを。
失敗、という言葉に月島が訝し気な表情を浮かべたところで、背後の茂みが動いた。
「——シッ!」
「〈大焔ノ剣〉」
反対側から葵ちゃんとリアが飛び出していたのだ。
葵ちゃんは異世界産の双剣に魔力をバチバチに纏わせているし、リアは白く輝く大剣を振りかぶっていた。
葵ちゃんの双剣は異世界で色々やらかした時に強奪したもので、一度傷をつけたら二度と癒えないっていう曰く付きのアレだ。
環ちゃんが囮になっての不意打ち。
戦えない環ちゃんが無理に前に出て、相手の気を惹くためのハッタリまで吹いたのは隙を作るためだろう。
葵ちゃんやリアが一緒なら、異相に入って来られたのも納得ではある。
倫理観がぶっ壊れた二人の、殺意全開の攻撃が月島と秋津守へと向けられる。
だがしかし。
「話術で陽動し、背後からの強襲。良い作戦だな」
「相手が我々でなければやられていたかもしれませんね」
ジャラリ、と鎖が勝手に動いた。
おれの体が秋津守の盾になる位置まで引っ張り込まれた。背後からがっちり抱きしめられて動けなくなる。
慌てて秋津守狙いのリアが月島に狙いを変える。
葵ちゃんも月島狙いなので必殺の攻撃が集中することになるが、異形のナーガが蛇の尻尾で月島を引き、代わりに攻撃の中へと飛び込んだ。
「なっ!?」
「クソ!」
異形ナーガの胴がえぐれ、腕が切り飛ばされ、血肉が蒸発する。
しかしそれでもナーガは生きていた。
残った腕でリアを殴り飛ばし、葵ちゃんを抱きしめる。
ごきり、と嫌な音が響く。
「がっ!?」
剣を取り落とし、その場に放り出された葵ちゃん。
どう見ても戦える状態じゃなかった。
「葵ちゃん! 〈月光癒〉! ッ!?」
秋津守に固定されたまま回復魔法を使おうとするが、発動しない。
「〈月光癒〉! 〈月光癒〉! 〈月光癒〉! 〈月光癒〉! 〈月光癒〉! 〈月光癒〉! 〈月光癒〉!」
「無駄です。あまねさんは私の許可なしに魔力を使うことはできません」
葵ちゃんの口から、血が漏れる。
ダメだ。
ダメだダメだダメだダメだダメだッ!
「秋津守! お願いだ! なんでもする! だから回復魔法を使わせてくれ!」
「ええ。その言葉を待っていました」
月島が嗤った。
***
「〈月光癒〉!」
「がはっ……! す、すみま、せ……!」
「喋らなくていい、休んでて! アルマ!」
「かしこまりました」
あの後。
秋津守の命令で最初に使わされたのは転移魔法だ。
「……ここが異世界。不思議な匂いだな」
「ええ。これで目標に一歩近づきました」
「神、か。どんな気分なんだろうな?」
「さて。あいにくと私もなったことがないもので」
葵ちゃんどころかおれの味方全員を連れての転移魔法を命じたのは、魔力を消費させるためか、それとも別の目的か。
異形のナーガまでもを転移させられたのはムカつくけれど、異世界についてすぐに回復を許可されたので葵ちゃんは一命を取り留めた。
大小さまざまなけがをしてたと思うけれど、おそらく一番の問題は背骨。あの音は、背骨が折れる音だったに違いない。
ちなみに武具の類は全部取り上げられて、柚希ちゃんの管狐も呪符で封印されてしまった。
「さて、それでは神になりにいこうではないか」
「……どうやってだよ」
「せっかく仲間を回復する許可をやったというのに不満げだな」
「当たり前だ! お前らがいなければけがなんてしなかったんだぞ!」
「そう怒るな。私が神になった暁には、お前らは使徒にしてやる」
秋津守が異形ナーガに呪符を撒いたり祝詞を唱えたりと忙しそうにしている間に月島が全員を睥睨した。
「戦闘力は言うまでもなく、五感や頭脳に優れた者もいる。宗谷には広報も任せてやる。配信といったか。あれで神のお告げを人々に伝える、巫女の役目だ」
「ふざけんな! そんな配信やるわけないだろう!」
「私も御免だな。あまね以外に組する気はない」
クリスがそう告げると、薄く笑った月島がすたすたと歩み寄る。
「案ずるな。お前らの思考は真っ先に塗り替えてやる。私に従い、私に尽くすことを至上の喜びとするようにな」
洗脳調教モノかよチクショウ!
とはいえ、実際打開策は見当たらない。
万全の状態ですら勝てない相手に、武器や魔法なしで勝てるはずもないのだ。
……せめて転移が使えればこいつらを異世界に置き去りにして逃げられるのに……。
いやまぁこんなのが野放しになったら異世界の人たちが可哀想だけどさ。
何とかアイデアを絞り出そうとしていると、秋津守がパンと手を打った。
作業終わりか、と視線を向ければ、異形ナーガが別の何かに変形していた。
人の手を何本も重ねて作った異形の翼。
胴体部分はナーガを流用しているのか鱗になっていたが、頭はやはりプラスチック製だった。表面には『あと少しですよあまねさん』と書かれていてやっぱり意味不明だ。
「ぐぇぇっ」
「ひぅっ!?」
頭部が作り物に見えているのはやはりおれだけなのだろう、環ちゃんが思い切り吐瀉してルルちゃんが悲鳴を上げた。
柚希ちゃんは何とか我慢しているけれど、顔色は青を通り越して土色になっていた。
「人を何だと思ってるんだ……!」
「……ここまで命を侮辱できるものなのですね」
「外道が」
葵ちゃんもリアも怒っているし、あのクリスですら顔をしかめていた。
……いや君たちには何が見えてるの!?
どう考えてもSAN値削れる系の何かだよね!?
おれたちのリアクションを完全に無視した秋津守が首元にまたがり、丸めた尻尾に月島が乗ると、おれたちにも乗れ、と合図が送られた。
「さて、行きましょうか」
「……どこにだよ」
「超古代文明の残滓。現地人たちの言うところの、”彷徨う庭園”ですよ」




