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◆041 激突

 異相内に存在する雄山神社に待ち受けていたのは、秋津守と見慣れぬ中年女性だった。

 まるでハイキングか何かのような気軽さで本社の入口、階段になっている部分に腰かけた二人。


「いやぁ、よく来てくれた」


 女性らしからぬ雰囲気をまとった()()は自らを月島と名乗った。


「敬愛を込めて月島中佐と呼んでくれたまえ」

「……エリはどこだ」

「ふむ。きみがソウヤ・アマネかね。なるほど人間らしからぬ容貌だな」

「エリはどこにいるって聞いているんだ!」


 飛び出しそうになったおれを柚希ちゃんとルルちゃんが止めてくれた。

 代わりに一歩前に出たのはクリスだ。鎧も含めて完全装備になったクリスは細剣に魔力をまとわせて月島を威嚇していた。


「あまねの質問に答えろ」

「ふむ……それほど気になるならば会ってみるか? 秋津守、呼んでもらえないかね?」

「ははは、わざわざ見せるとは中佐も(むご)いことをなさいますねぇ」


 言いながら秋津守が呪符を撒けば、それが魔法陣の形をとって魔力を弾けさせた。

 そしてそこから現れたものを見て、柚希ちゃんが思い切りえずいた。

 ルルちゃんも顔を真っ青にして震えているし、クリスも怒りに顔を歪めていた。


「……は?」

「ふむ、頭の回転が鈍いな。ほら、会いたがっていた相手だぞ? ああいや、会いたがっていた相手()()()()()か。他の人間の部品(パーツ)も混ざっているがな」

「ははは。顔を見れば分かると思いますがね? さすがにいじっていないので」


 魔法陣から現れたのは、伝承に出てくるナーガのような存在だった。

 胴から下は蛇。丸太のような太さで、赤紫にてらてらと光る毒々しい鱗の蛇だ。

 上半身は裸の女性。

 ただし乳房は四つ、腕は四対八本。


「あまね。あれがエリか……?」


 いや……その。


「あまね?」


 これ、どうすれば良いんだ……?

 足りない頭で必死に考える。クリスや柚希ちゃん、ルルちゃんの様子から考えるにあれが()()()()()のはおれだけだろう。

 罠か。

 それともエリが上手くやったのか。


 ……異形のナーガの頭部は、プラスチックみたいなツルツルの作り物だった。


 しかもそこには『ダミーなので安心してください』とデカデカと書かれていた。

 ありていに言って意味が分からない。

 黒幕ぶって現れた月島がわざわざこんな間抜けなドッキリをする意味がない。

 あり得るとすれば秋津守だけどそれだって意味は分からない。


 エリが何かを仕掛けて自力で逃げた、という可能性もなくはないけれど、だったら当の本人はどこで何をしているんだろうか。

 秋津守は意味不明な存在だけど策謀も術式もずば抜けていた。

 言い方は悪いけれどクリスですら圧倒するような相手なのに、エリが何とかできるとは思えなかった。


「……ふむ。思っていたよりも反応が薄いな。精神性は人外に寄っているのかもしれないね」


 おれがだんまりを決め込んでいる間にも周囲は待ってくれない。


「一度だけ聞いてやる。ソレを人間に戻す方法はあるか?」


 クリスの問いに、月島はニィッと笑った。


「さて、な。貴様らが大人しく私の元に下るというならばどうにかしてやれるかもしれないな」

「はいかいいえで答えろ。殺すぞ」

「所詮は外国育ちのあばずれが。言動に品がないな」


 クリスが大きく飛び込んだ。

 狙いはいまだ階段に座ったままの月島。おそらくは頭部を狙ったであろう刺突を放つが、異形のナーガが自ら割って入り、盾となった。

 重ねられた数本分の手のひらが細剣に貫かれながらも握って止める。


「〈刺炎(ピアシング)〉」


 勢いが殺されたものの、細剣の先から炎が吹き荒れた。魔力によって作られた炎の刃だ。

 それが眼前に迫ったところで月島は座ったままの状態で跳ねた。

 空中で何事もなかったかのように宙返りして着地する。


「ほお。迷いはないか」

「どうせ術者はそっちの覆面(あきつのもり)だろう。お前は死ね」

「はははっ。良いな。大和なでしこには程遠いが、その胆力は素晴らしい」


 だが、と視線を秋津守に向ける。

 クリスの攻撃にも微動だにしなかった秋津守はパン、と拍手を打った。同時に魔力が弾け、渦巻き、

固着化していく。

 藤色の魔力は小さな円環の連なりとなる。


 ——鎖だ。 


 鎖がおれ目掛けて伸び始める。

 慌てて避けるが、意思ある生き物かのようにおれを追尾する。


「あまね!」

「あまねちゃんに手出ししなさんな! ちかっぱ許さんよ!」

「あまね様っ」


 クリスが鎖を断ち切ろうと細剣を振るう。

 柚希ちゃんがおれを守ろうと管狐を放つ。

 ルルちゃんが身代わりになろうとおれと鎖の間に割り込む。


 が、どれも無駄だった。

 管狐も細剣も、ルルちゃんの体さえもすり抜けた鎖が俺の首元に吸い込まれていく。

 そのまま首に巻きつき、飼い犬のように繋がれる。

 おもわず喉元に手を伸ばすけれど、本物の金属にしか感じられない冷たく硬い手触りが返ってきた。


「無理に外そうとすると苦しい思いをしますよ」

「……くっ」

「叩きのめしてから言うことを聞かせても良いが、荒事は苦手でね。君たちの想い人を最初に拘束させてもらった。まだ抵抗するかね?」

「みんな、おれのことは良いから——」


 やっつけてくれ、と言い切る前にクリスが細剣を鞘に納めた。

 柚希ちゃんも管狐をしまう。


 ……おれのせいか。


 いつもだ。

 いっつもおれが足を引っ張る。

 

「落ち着き給えよ。何も今すぐ君たちを殺そうってわけじゃない……ただ、協力してほしいだけなんだよ『創世計画(ジェネシス)』にね」


 創世計画。

 確か、春の人工妖魔事件——クトゥルフ野郎の言っていた計画だった気がする。土御門さんたちが捜査していたはずだけれど、関係者は殺されて真相は闇の中に消えたままになっていた。

 三条さんは海外の勢力も関係してるようなことを言ってたけれど、それが霊光聖骸教会なのか……?


「ああ、安心しろ。私利私欲のために計画を実行しようとした愚か者どもはすべてその化け物の材料になっている。私は愛国者だからね。日本人の、日本人による、強く美しい日本を取り戻すことを誓おうじゃないか」

「どういう意味だ?」

「そのままの意味だよ。国を切り売りして私腹を肥やす害虫も、日本を敗戦国にした外人どもも、一人残らず殺す。広大な土地も、多量の資源もすべて日本のものだ」


 ……何を言ってるんだコイツは。

 そう思ったのはおれだけではなかったらしい。

 怒りと悔しさが入り混じった表情の柚希ちゃんも、氷のような無表情のクリスも困惑していた。


「……そもそも『創世計画』って何だ?」


 呟くようなおれの問いに答えたのは、思いもよらぬ人物だった。


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