◆032 グルメ配信
「本日3回目、だそうですよ大悟さん」
「いやぁ、そうみたいッスね、梓ちゃん」
「? 何できょろきょろしてるんですか?」
「いや、前後書きなら葵ちゃんとかリアーナちゃんとかアルマとか、もっとこう色んな人がいただろうに自分と梓ちゃんが抜擢されたのってなんでだろうって思って」
「たしかに。あまねさんの姿も見えませんしね」
「ちょっと環に聞いてみるッス……」
「その間に本編を読んでてもらいましょう。あ、本日3回目の更新です。よろしくお願いいたします」
「さて、まずは新潟といえばコレ! 布海苔を混ぜ込んだつるつるしこしこのへぎそばです」
カメラに向けて二つのそばを示す。あまねさんが目隠しして何もできないのでいつも以上に司会進行を頑張らないとね。
いやそもそもいじめっ子配信テロは私の企画なんだから当たり前だけどさ。
解説を聞かれないよう、あまねさんに防音耳当てを付けてから説明開始だ。
開始だけど、アイマスクにイヤーマフを付けて無抵抗かつ無防備なあまねさんを見てるといたずらしたくなりますね……こう、耳に息吹きかけたり、うなじの辺りにキスしてみたり、肩甲骨付近を舐めてみたりとか。
罰ゲームの内容を見直しますか。
「片方は新潟でも老舗中の老舗! へぎそばのみという攻めたメニューで戦い続けている『へぎそば・あづみ』さんのへぎそばです!」
銅鍋を使って茹でているため、そばは綺麗な薄緑色になっている。
一口ずつ綺麗に並べられたそばがきらきらしていて、見た目だけでも高級感がある。
「もう一方は柚希さん完全監修ですが、百均で買ってきた茶そばです」
「そもそも海苔が入ってないんやね」
「ええ。さすがにこれは分かるでしょう!」
『たまきwww』『もう結果が見える』『悩んだだけで笑えそう』『期待』『【¥2500】配信テロさすが』『さすがにあまねを馬鹿にしすぎだろwww』
ところが、ですよ。
実はこの茶そば、生海苔を煮るのに使ったお湯で茹でている。
なのでけっこうしっかり海苔の香りがするし、普通に難易度爆上がりだったりするのだ。普段は料理に関して厳しい柚希さんだけれど、さすがに今回のあまねさんの言動は心配だったらしく、
「気ぃ紛らわしちゃるけんね!」
とやる気満々でいろいろ工夫してくれた。
ただでさえ味覚が鈍りやすい目隠し状態で、柚希さんの工夫をプラスした状態……結果が楽しみですねぇあまねさん!
「では、実食」
ルルちゃんがレンゲに載せたそばをあまねさんの口に運んでいく。
「あーん、です」
「はむっ……美味しい! 良い香りがするし、つるつるなんだけどしこしこっていうか、何かのど越しとか歯ごたえも普通のそばじゃない気がする!」
よし、とりあえず『つるつる』『しこしこ』は後でアルマに切り抜かせましょう。
続いてもう片方。
「あむっ……んん? なんかすっごい海苔っぽい! えっ、しかもこっちも結構歯ごたえがある!」
「茹で時間ばちょっと短うして、薄めたお酢で洗うとぱきぱきするんばい。普段は敬遠しゃるーっちゃけどね」
『絶対分かってないwww』『ぽんこつ舌かわいいwww』『これはたすかる』『【¥1000】期待してるぞあまね』『どっちを期待しているのかwww』『真剣に悩んでて草』『心配そうなるるたそかわいい』
果たしてあまねさんが選んだのは、茶そばだった。
「いえーーーーーーーーーーーい!」
爆速で流れるコメント欄と勝利を祝い、あまねさんの待遇変更タイムだ。
ここでマリの出番である。
「えーっと……へへへっ、嬢ちゃんにはちょっと上等すぎる衣服だな……!」
棒読みで如何にも悪役なセリフを吐いたマリがあまねさんに手を伸ばし、服を脱がせていく。
マリはまだまだ人の服を脱がせたり着せたりするのに慣れていないので、ややぎこちなく、そして不格好になる。
これがまたちょっと無理やり感というか、同意なしっぽさがあって非常にエクセレントなのだ。
私たちだと慣れすぎてて綺麗に脱がせられるし綺麗に着せられちゃうからね!
下にはいつものスクール水着を着てもらっているので配信NGなことにはならないけれど、やや乱れた感じに着替えが終わる。
ハイブランドのノースリーブワンピースにサマーニットを合わせたスタイルから、量販店で買ってきたちょいダサでサイズが微妙に合ってないTシャツとホットパンツ姿になった。
ホットパンツは大きめなので隙間からチラチラ見えるけど、水着だから何も問題ありませんね!
ええ、健全です!
むしろそのまま露出すべき水着をホットパンツで隠しているので、健全度はより高いと言えるでしょう!
「えっと……?」
「あれは茶そばです」
「エッ!? 海苔の香りしたよ!?」
「海苔を茹でたお湯で香りづけしました」
「ヴァッ!? ず、ズルくない!?」
「ズルくありません。なるべく美味しく食べるための工夫です」
「くっ……つ、次だ! 次こそびしっと当てる!」
「じゃあ食べたら食レポもお願いしますね」
「エッ!?」
「ほら、絵面が地味なので」
「……わ、分かった、がんばる……」
『すでに自信喪失してるwww』『チラ見せ最高!』『たすかる』『ふぅ……』『はかどる』『環に一生ついてくって誓った』『えっっっっっすぎる』
「はい、続いて魚沼産コシヒカリと激安ブレンド米の古古米!」
「両方ともお米じゃんか! 難しいよ!」
「日本海の荒波で育った高級魚介類とスーパーの値引き品のパック刺身!」
「漬けとか炙りはズルくない!?」
「栃尾の油揚げと、柚希さんの手作り油揚げ!」
「待って、柚希ちゃんの手作りの方が美味しい可能性もあるじゃん!?」
「どっちがどっちか分かってなかったので駄目ですー」
「ぐぅぅぅぅっ!!!」
「る、ルルが! ルルが代わりをするです!」
あっという間に身ぐるみを剥がされ、服すらもったいない、ということで水着のみになったあまねさん。
「さて、それでは可哀想すぎるので追加装備チャンスです。このカードの中から一枚選んでください。そこに書かれた装備を追加することが可能です」
「待って。絶対ろくでもない選択肢しかないでしょ!?」
「疑い深いですねぇ……しょうがないので先に一度開示しますね?」
私が用意した札は『ロングTシャツ』『男性もののYシャツ』『バニースーツ(水着は脱ぐ)』『ラップタオル』『スモック(上半身のみ)&ランドセル』の5種類だ。
「エッ!? 全部嫌なんだけど!? っていうかランドセルは服じゃないでしょ!?」
「じゃあ水着配信にします?」
「ぐっ……ど、どうしよう……」
「あまね様! ルルとお揃い、です!」
唯一の味方と言っても過言ではないルルちゃんだけれど、バニースーツを混ぜたことでうさ耳バンドにくぎ付けである。
お揃い、と期待に満ちた視線であまねさんを見つめることで、
「……分かった。でもバニースーツの確率は1/4だよ?」
「はいです!」
よし、予想通り折れた。
ちゃちゃっとカードを切って、裏返して広げる。あまねさんが悩んだ末に選んだのは、
「ラップタオル……?」
「小学校の時に着替えで使うような、ボタンとかゴムとかで身体に留めておけるタイプのタオルですね」
「ある意味、水着には一番似合う装備かも?」
マリにすぽんと被せてもらって、テルテル坊主みたいなシルエットになる。
ボタンを一個だけ外して手を出せば完成だ。いや、どう考えても着替え途中にしか見えないけれど、これこそが完成なのだ。
『こwれwはw』『見せないことで想像力がwww』『【¥50000】はかどる』『ふぅ』『【¥50000】たすかる』『たまき最高』『チラ見せどころか見せないとはwww』『だがそれが良い』『【¥30000】ふぅ……』『【¥50000】ごちそうさまです!』『今晩はコレに決まり☆』『最高すぎる』『【¥10000】これ少ないけど全財産です』
うーん、高額スパチャの嵐……!
「うーん、微妙なサイズだね……座ると水着が見えちゃう」
「もともとは立って着替えるためのものですしね」
チラリズムの下と、想像の上。
下だけを敢えて見せることで、見えない上に対しても想像を掻き立てる。ホットパンツでのチラリズムが炸裂した時点で勝ちを確信していたけれど、こうも綺麗にハマると爽快だよね。
下もほとんど見えないので、スク水ってわかっていても陰キャバスの脳内では『実はビキニ!?』『いやいや上はまだ着替え中でつけてなかったり』みたいな妄想が暴走しているはずだ。
「……これで罰ゲーム終わり……?」
「あれ、物足りないですか?」
「違うよっ!? なんか環ちゃんにしてはヌルい気がするって思っただけ!」
「じゃあお望み通りの加減にしますね?」
「待って、待って待って……! は、話せばわかるから!」
ニッコリ。
まぁでも午後はマリンピア日本海に行って編集投稿用の動画撮影しないといけないので手加減しますけどね。
自分の身に降りかかってくるであろう災厄を想像して顔を曇らせたあまねさんをドアップで撮影して今回の配信は幕を閉じた。
「……分かったッス」
「どうしてだったんですか?」
「ヴェッ!? いや、その、あの……手が離せないというか忙しいというか、皆ヤることがあるみたいッス」
「やること……? それは主役のあまねさんも?」
「むしろ先輩がよってたかって、みたいな感じッスね」
「えっ? もしかして、いじめ……?」
「いや、違うッス。皆して1年ぶりの運動会してるっぽいッス」
「……運動会?」
「梓ちゃんはそのままでいてほしいッス。これの意味がガッツリわかっちゃうとそれはそれで問題っす」
「あっ、問題と言えば」
「何かあったッスか?」
「配信の後は掲示板回やりたいけど、さすがに掲示板回だけで更新1日分は申し訳ないから、明日は2話更新するって」
「……作者、自分の首絞めてないッスか?」
「ほ、ほら! 多い分には読者さんも楽しんでくれるから!」
「……まぁそうッスね」
「では、そういうことで」
「明日は掲示板が朝、その次が夜になるみたいッス」
「ざっくりですね?」
「コレ書いてるときにまだ掲示板書き終わってないから投稿予約できないし時間も決められないらしいッス」
「本気でギリギリなんですね……」
「な、何はともあれまた明日ッス!」
「よろしくお願いいたします」




