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◆029 襲撃

「クソ。だから攻めるべきだった」


 青森県南部。

 岩手との県境に当たる森で、おれたちを乗せたキャンピングカーは走行不能になっていた。

 大悟のミスでもなければ整備不良でもない。


「「「「GUAAAAAAッ!」」」」


 モンスター……呪式たちの群れに襲われたのだ。幸いなことに大型の呪式が車に取り付く前に止めて脱出することに成功したが、屋根部分はごっそり削れているしタイヤも一つ無くなっていた。

 これで横転させなかった大悟の運転技術は称賛されるべきレベルだと思う。

 兎くらいの小型呪式が津波のように押し寄せてくる。対応するのは葵ちゃん。双剣と呪符を操り漏れなく迎撃しつつ、中型や大型をクリスの元に流している。


「炎壁推棘! 急急如律令(オーダー)! ッ! そっちに二体行きます!」

「任せろ」


 びっしりと棘の生えた炎の壁がそそり立ち、体当たりしてくる呪式を次々に串刺しにして燃やしていく。

 クリスはといえば、炎の壁を乗り越えた呪式を、視界が歪むほどの魔力を込めた剣で一刀の元に切り捨てていた。

 前回の牛タン屋さんでの呪式とは違い、知能的にも再生能力的にもそこまで厄介というものではないらしい。

 とはいえ個体ごとにバラつきがあるようで、


「ちっ! 葵、柚希ッ! 変なのが混ざっているぞ、気をつけろ!」


 舌打ちとともに切り口から新しい腕を生やそうとしていた猪みたいな呪式を炎で焼き払っていた。

 柚希ちゃんはといえば、マリやエリ、大悟、環ちゃん、ルルちゃんと動けないメンツを守りながら周囲の警戒をしている。アルマは戦えるか無理なのか微妙なとこだけど、環ちゃんの横に侍っているので柚希ちゃんに守られる勢に入っている。

 当然そこにはおれもいるけれども、おれの場合は《月華の女王(リリム)》というかマジカル☆あまねになれば一応戦えるので守る側だ。エリも一応は戦えるはずだが、万が一があるので待機である。

 そして。


 ゴパァッッッ!!!


 道路わきの山間部が弾け飛び、バラバラになった呪式の破片とリアが飛び出してきた。大剣を担ったリアは場違いなまでに穏やかな笑みを浮かべ、着地代わりに大型呪式の頭部を刺し貫いた。


「キリがありませんわね」

「敵もかなり本気、ということか?」


 前回の蜘蛛みたいな呪式が単体だったことを考えると、ずいぶんとやり口が違うように感じる。

 かなり強かったはずの蜘蛛型呪式が破られたことで質から量に切り替えたのか、それとも残りの戦力をすべて投入したのか。

 答えは出ないが、確かなことは一つ。


 波濤のように押し寄せる呪式はこれだけの勢いで倒しているのに未だ切れ目が見当たらず、このままいけば倒した呪式もろとも、圧殺されるということだ。


「あまね、《転移》の準備」

「うん! いつでもイケる!」


 非戦闘員に集まってもらい、あとは戦っている三人が戻ってくればすぐ起動できる状態にしておく。

 おれの魔力を察してか、灰になった傍から、炎の中につっこむようにして呪式が押し寄せた。

 その波濤から飛び出してくる中型呪式が葵ちゃんの双剣に()()()()()()

 葵ちゃんは難なく対処しているが、狂気すら感じる行動にゾクリと背筋が冷えた。

 相対する相手は違えど、リアもクリスも似たような状況だ。


「捨て身になれば何とかなるとお思いですの? 舐められたものですわ」

「鬱陶しいな……」


 二人して呪式を形作る闇を祓っているが、確実に足止めされていた。今はまだいい。

 おれたちに近づいて来ようとする呪式は柚希ちゃんの管狐が貫き砕いてくれている。でも、このままいけばジリ貧になるのは目に見えていた。


「あまね! 先に戻っていろ!」

「クリス!?」

「大丈夫ですわ。全力で殲滅したら、おねえさまに連絡いたします」

「ボクも、その方が、戦いやすい、ですッ! このっ!」


 おれたちがいると使い辛い技があるのか、三人に言われてしまったのでやむなく頷く。


「怪我しないでよ!? 連絡待ってるから! ――《転移》!」


 そして、おれたちは栃木へと移った。


***


「御苦労様です。……が、抵抗はおやめくださいね。殺してしまうのは本意ではありませんから」


 栃木に移動したおれたちを待ち受けていたもの。

 それは()()()()()だった。


 中型から大型の呪式がおれたちを取り囲んでいた。おれたちはおろか、柚希ちゃんですら突破が難しいであろうことが一目でわかってしまうほどの量だ。


 呪式の中心、おれたちに相対するように立つのは白の狩衣に身を包んだ何者か。烏帽子から垂らされた布によって顔が隠されているんだけれども、そんなこと関係無しに顔が一切見えない。動いた拍子に隙間から、なんてのもないし、性別も年齢も一切認識できない状態だった。

 おれの《認識阻害》みたいな術だとは思うけれど、ずっと性能の高い技だ。


「初めまして、ですね。秋津守と申します」


 ギチギチ、と巨大なムカデの形をした呪式が身をくねらせて椅子代わりになったかと思うと、秋津守はそこに腰掛けた。

 おれたちの方は、蛇型の呪式によって縛り上げられてしまう。


「貴女がたの素性は卜占(ぼくせん)で調べた程度でしたが、無事に月島中佐の作戦に引っかかってくれたようで何よりです」

「作戦……?」


 縛り上げられた環ちゃんがオウム返しに問えば、秋津守はコクリと頷いた。


「ええ。貴方がたの中で戦える者を物量で釘付けにして分断する作戦です。卜占で調べた性格や戦力から計算したそうですよ?」

「私たちがここに現れるってのも卜占の結果ですか?」

「ええ。物分かりが良くて何より」


 さて、と言葉を区切った秋津守は袖口から何枚かの呪符を取り出した。


淫魔(サキュバス)で名付の妖魔の『あまねさん』とやらはどなたでしょう?」

「あま、ね、さん? そんな人、いませんよ?」


 しれっと嘘を吐く環ちゃん。他のみんなもおれを庇うためか、視線を向けることなく秋津守だけを見つめていた。

 ……狙いはおれか……マリじゃなくて?

 何かしっくりこないけれども、名指しされたのは待ちがなくおれだ。

 なら近づいてきたときにこいつだけを巻き込んで《転移》すれば、皆と引き剥がせる。


 体内で魔力を練り始めたところで、秋津守がスタスタと歩み寄ってくる。


「ふむ。貴女ですか」

「エッ」

「安心してください。悪いようにはしませんよ?」

「ててて、《転――」

「それはもう対策済みです」


 目の前に差し出された呪符がばちりと弾け、おれが組み上げていた《転移》は霧散した。そのまま二枚目、三枚目と呪符が弾けていき、おれの体内から魔力が失われ、四肢の自由が奪われる。

 縛り上げられたままの状態でくたりと倒れたおれに、四枚目の呪符が差し出される。

 服の上からではあるが、鎖骨の辺りに差し込まれたそれは今までの呪符とは違い、弾けることはなかった。


 代わりに、おれの身体に混ざるようにして溶け消える。


「さて、あまねさんへの用事はここまでで、次が本命です。『喜屋武・マリエール』というのはどなたでしょうか」


 誰もが目を逸らす。


「困りましたねぇ……じゃあ、とりあえず確実に違う者から処分して確率をあげますか」

「おい、やめ――ふがっ」


 ルルちゃんに手を伸ばした秋津守を止めようと声をあげると、蛇型の呪式に巻き付かれ、口を塞がれた。


「獣人ですか。興味深いですが、今回はご縁がありませんでしたね。……喜屋武マリエールさんがどなたか教えてくだされば、助けますよ?」

「か、家族、はッ! 守る、でずっ!」

「そうですか……残念です」


 ちっとも申し訳なくなさそうな口調の秋津守は、再び袖から呪符を取り出した。

 そのうちの一枚を握ると、刀のような光が伸びる。

 ……あれはマズい。

 本能的な恐怖を感じるような魔力の塊。あんなものを食らえばルルちゃんどころか、おれやクリスだってただじゃ済まないだろう。


「待って! マリエールは私よ」

「おや。なかなか素敵な心掛けですね」

「なん――ふごっ!?」


 驚愕の声をあげるルルちゃんもおれと同じくさるぐつわを噛まされた。


「せっかくマリエールさんが助けてくれたのです。余計なことは言わない方が良いですよ?」

「皆には手を出さないで」

「ええ、もちろん。貴女が大人しくついてきてくれるのであれば、ですけどね」


 先ほどまで秋津守が座っていた大ムカデの呪式がモゾリと動く。二人を背に乗せて、そのまま別の呪式に自分の身体を密着させた。

 どうやらこの状態で大型呪式に走らせるつもりらしい。


「自分も《転移》が使えれば楽だったのですが……まぁシンカンセンというものは随分早いですし、そこまで不便でもありませんでしたけどねぇ」


 かか、と笑った秋津守は、ぱちんと指を鳴らす。

 同時におれたちを縛っていた蛇型呪式と、取り囲んでいた中型の呪式たちがドロリと溶けて消えた。


「――返せッ!」


 ほぼ同時に柚希ちゃんから管狐が放たれる。二〇の光条が大ムカデに殺到するも、直前で見えない何かに弾かれてしまった。


「安心してください。日本のためになることですよ」


 遠くから響くようであり、近くで囁かれるようでもあった。

 不思議な声色とともに秋津守は消えた。


 ――身代わりに名乗り出たエリとともに。



※ここからは話の本筋にガッツリ噛んでくるため、破綻や矛盾のないよう少し書き留めのお時間をいただきます。

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