◆027 移動開始
「あれ……?」
「環ちゃん? なんばしよっと?」
「何か、急にナンバリング復活してません?」
「せやねぇ」
「あー、多分だけどさ。コレ普通に作者のガバじゃない?」
「あー」
「あー」
「ガバで納得される作者ってのも相当だけどね」
「まぁでも、作者ですし……名前の読み方わからないですし」
「……ししょう……じゃなかと?」
「とますこじゃないの?」
「ししょうはともかくとますこって……レモスコじゃないんですから」
「あぅ……来た、です」
「あ、彼方からの電波受信ですね」
「そんなルルちゃんを無線か何かみたいに」
「『なまえを縦に書く。そして二つをくっつける』……です……?」
「やってみるか」
「ですね」
仙台から再出発した俺たちが向かう先は岩手だ。小岩井牧場でフレッシュな牛乳とか濃厚なソフトクリームを食べたいと申告したらみんなにすごい顔をされてしまった。
クリスまでが眉を寄せ、全員で集合してひそひそやり始めた。
「牛乳とかぽんぽんぺいん筆頭ですよね」
「アイスもだ。冷える」
「小岩井牛もあるけん、脂もんも気ば付けな」
「チーズもある、です。ルルがあまね様のお腹を守る、です!」
「おねえさまのお腹は繊細なのです。私が人肌で温めれば何の問題もありませんわ」
「ボクとしては牛乳ラーメンに手を出して撃沈するに一票」
「あまねちゃん、お腹弱いんだ……」
「マリもあんまり強い方じゃないよね」
あ、そういえば牛乳ラーメンもあるのか……葵ちゃんの予想通りになるのは悔しいけどちょっと気になる……!
というか皆して酷くない?
量を加減して少しずつ食べればきっと大丈夫だと思うんだけども。そもそもお腹が弱いのだって普段食べないとかそういうのの積み重ねなわけだし、こうやって普段からちょっとずつ食べてればきっと普通のお腹になるはずなんだよ!
「っていうかあまねさんはよわよわなのに、何でこう危ないものに惹かれるんですかね?」
「よわよわじゃないし! 全然余裕だし!」
「よわよわじゃないですか! 柚希さんくらいよわよわですよ?」
「環ちゃん!? なんば言いよっと!?」
皆でじゃれているけれども、実はマリの占いによって割り出した月島中佐の件もしっかり動いている。一応、近くまでなら《転移》できるんだけども思い付きでカチコミに行くわけにもいかないのだ。
「いかないの?」
ちょっと前、聖教国に殴り込みを掛けた元勇者様は当たり前のように突撃する予定だったみたいだけども、現代日本でそれはまずい。
ヘタすれば警察やら何やらが来て全国に報道されてしまったり、一般の人に撮影されてSNSとかで拡散されてしまう可能性もある。
ネットが普及した現代ならば翌日には犯人がおれたちであることが特定されてしまうだろうし、そうしたら配信なんて二度とできないだろう。
「三条さんが根回ししてくれてるから、もうちょっと待機」
祓魔に関わりのある事案なので、きちんと根回しすればそういう事態はだいたい防げるはずだ。
人払いに警察への連絡。マスメディアにも報道させないようにするための理由作りと、下準備が終わるまではクリスはステイである。
いやクリスだけじゃなくて皆だけどさ。
建物が崩壊したり大爆発するようなことがあれば隠しきるのは難しいだろうけども、東京ドームでの一件ですら最終的にはもみ消すことができたのだ。
きちんと根回しをしておけばきっと事故として処理してくれるはずである。
「……って何か、すごく祓魔師協会っぽい思考になってる」
処理って言葉がもうダークというかバイオレンスというか、如何にも祓魔師っぽい。土御門さんが不機嫌そうな顔で色々指示出すのが今から想像できてしまう。
その横でアルマがケーブル咥えてたり、三条さんが笑顔で書類の整理してるとこまで想像できちゃうのがまたありそうなんだよなぁ。
「でも本土は寒いねー」
「ねー。まだ一〇月なのに、上着が必要とか、ホントに寒いわぁ」
沖縄人ふたりが沖縄感あふれる会話をしてるけども、流石に東北はおれだって肌寒く感じる。もちろん寒い、というほどではないけども今日はロングTシャツの上からカーディガンを装備していたりする。
「この後青森を通って北海道ですから。もっと寒くなりますよー」
「北海道!」
「試される大地!」
マリもエリも今までで一番の遠出が大阪までだったらしく、何かテンションあがってる。試される大地ってよくネットでも目にするけども、一体何を試されるんだろうか。寒さ耐性?
まぁ初めての土地に移動するのって結構わくわくするし、気持ちがわからないでもないけどさ。後で来ればいいか、とグダグダな感じになってはいるけども、セーフハウス有効化の旅は全都道府県を巡れるし、おれも楽しんではいるからな。
たくさん食べられないのは非常に心残りではあるけれども、鋼の自制心で耐えつつ美味しいものを少しずつ食べまくる予定なのだ!
「北海道と言えば海産物ですよね。ウニにいくら、カニ、ホタテ」
「んっ」
「ジンギスカンのイメージ強か」
「んんっ」
「野菜も生産量多いですし、スープカレーとかはボクも姉さんも好きですよ」
「んんんっ」
「熊に鹿。狩り放題」
「んんんんっ!?」
待ってクリス!?
北海道に行ったからって熊とか鹿がわんさか出てくるわけじゃないし、普通に狩り放題じゃないよ!?
というかそんなバイキング形式の狩りは嫌だ。
「まぁ、狩りに関してはちょっとわからないですけども、クリスさんはあまねさんを見張っててもらうお仕事があります」
「ヴェッ!?」
「任せて」
がしっとクリスに捕獲されて膝の上に座らせられる。良い匂いするし温かいし柔らかいので嫌いじゃないんですけども、見張りって。
「おれの見張りって何をするのさ!?」
「お刺身食べすぎたりジンギスカン食べすぎたりスープカレー食べすぎたりしないための見張りです」
「し、しないし! ちゃんと自制できるし!」
「小岩井牧場で食べるものは?」
「うっ……牛乳とソフトクリーム」
「それだけですか? じゃあ申告しなかったものはなしで良いですね?」
「……お肉もちょっとだけ……あと牛乳ラーメンも一口」
「ちゃんちゃらアウトだ」
ぐぬぬ。
解せぬ。
クリスの腕の中でちょっといじけるか、と身じろぎしたところでマリの手が伸ばされた。クリスの隣に腰掛けると、そのままおれの髪を梳くように撫でる。
「少し分けてあげるから大丈夫だよ」
「おおっ?」
「世界の平和を守ってくれてるんだし、そのくらいは自由にさせてあげないと可哀想だし!」
いや、いつでもお腹壊してるヒーローとか嫌でしょ。
そもそも俺のお腹の強さは変身の反動とかじゃないしね。
「ふむ」
やや思案したクリスはおれとマリを交互に見る。
俺の耳元に艶やかな唇を寄せると、小さな声でぼそり。
「我慢できたら、夜にサービス追加――マリの」
「ヴェッ!?」
「どう?」
「いや、それはマリの同意というか、自由意思と言いますか」
クリスは何故か確信をもっているらしく、小声ながらも力強く断言する。
「大丈夫。――大丈夫にするから」
いやそれかなり力技の気配がするんですけども。
正妻権限的なものを使うのか、それとも朝のうちに行った一対一のOHANASHIによって既に何らかの合意が取れているのか。
「そういう訳で頑張れたら食べ放題。できる?」
「も、もともと我慢できるし絶対頑張るよ? ほら、おれって鋼の精神持ってるし!」
「厚みをミクロン単位にすれば子供でも破けますけどね」
「良いんだよ!」
何はともあれ、夜のビュッフェスタイルに向けてお昼は我慢。
固い決意を胸に小岩井牧場を目指すのであった。
「えーっと、つまり、『あゆむ』……?」
「ちょっと女性っぽく『あゆみ』かも知れません」
「将棋好きなら『ふ』かも知れん」
「……『あるく』……です……?」
「「「わかるかッ!?」」」




