呼び名
「夏休み! やっと今日から夏休みだよ!」
「えっ」
「休みだやっほう! サイコー! ゲームに花火、徹夜でアニメ! サイコー!」
「あの」
「プールに海にバーベキュー! 友達と出かけたりもできる! 夏休みサイコー!」
「あまねさん……?」
「ん、何? 葵ちゃん」
「今話更新されるのって22日なんで、昨日から夏休みだと思いますよ。ボクの学校とかそうでしたし」
「えっ!?」
「ほら、更新は金曜日ですから」
「さ、作者あああああああ!」
「曜日はよう見とかんと、ってことですね……ぷぷっ」
「うわぁ一気におっさん臭い……!」
さて、フェリーまで着いたところで手続きを済ませて車を乗り入れる。
ちょっといやーな感じだけども、一台分では収まりきらないサイズなのと安全確保のために前後左右斜め合わせて六台分のスペースを借りて乗り込む。
成金な行動ではあるけども、秋口に入ってシーズンオフということもあってフェリーの乗車率は6割から7割程度。おれたちは安全が確保しやすい、運営会社は儲かる、ということでお互い得をしたということにしよう。
一応調べたところ、防犯カメラは車用のでっかい出入口についてただけなので転移し放題である。
ちなみにクリス曰く、
「目につく範囲はだいたいヤッたから追っ手はない」
とのことでした。
いや、あの……生きてるよね!? 殺したりなんかしてないよね!?
何故か答えて貰えなかったけれども、柚希ちゃんものほほんとしてたのできっと大丈夫だと思いたい。おれは気配を読むとかできないから相手の数なんてわからないし、当然生死もわかるはずがないのだ。
「さて、車ごと栃木戻るか。準備は良い?」
『いやいやいや。待ってくださいあまねさん』
状況説明を粗方終えたおれは、テレビ電話越しに訊ねた。通話相手は、ちゃん付け問題で微妙に拗ねている環ちゃん。その後ろでリアと葵ちゃんがピースをしてたり、ルルちゃんがぴょんぴょこしながら手を振ったりしてたけども。
『フェリー内で車が消えたら大問題ですし、どっちかといえば罠にも使えます』
「罠?」
『逃げ場のない船の上ですし、防犯カメラや乗員乗客の名簿もあるんです。車上荒らしがあれば、ほぼ確定で敵の犯行とみていいはずです』
「なるほど」
つまり、この船に乗っていることがバレているかどうかをチェックするのに使おうってことか。
「それやったら感知系ん術式ば仕掛けとかなね」
「頼む」
補助系の魔法が苦手なクリスに代わって、柚希ちゃんが管狐をチカッと操作する。
何がどうなったのかは分かんないけれども、車内に柚希ちゃんの魔力がうっすら漂っているのは感じられるのできっとこれで良いんだろう。
『そしたら今日は歓迎会ですね! 御二方ともお酒は大丈夫ですか?』
「あんまり強くないけど飲めるよ。お姉はザル」
「もー。そんなことないわよー?」
『あまねさんに色々買ってもらいましたし、こっちでも色々準備しているので楽しみにしてくださいね!』
和やかな様子で通話を切ったけれど、これどう考えても酔った勢いで、みたいなのを狙ってるよね。
クリスに視線を向ければおれと同じことを考えていたらしく、呆れたように肩をすくめていた。
「学習しないっていうか、学習能力が高すぎるっていうか」
柚希ちゃんの時は「嘘はついてないよ!」みたいなラインの発言で騙そうとしておれに怒られていた。
リアの時はおれの本能が爆発したときに無理矢理近くまで引っ張ってきて怒られた。
そして葵ちゃんの時は完全に本人の意志だったので叱られなかった。
これらを総合した結果が、
「宴会からのなし崩し……別に無理矢理近くに引っ張ってきたわけでもないし、前後不覚とはいえ自分の意志といえば自分の意志だもんなぁ……」
明らかに狙っているけども、明言したわけでもおれや他のメンバーに何か根回しをしたわけでもない。
叱りにくいラインである。
「まったく、これだから環ちゃんは……」
ぶつくさ言っていると、クリスに後ろから捕獲された。
しなやかな肢体にぎゅっとされてソッコーで魔力が湧いてくる。心なしか良い匂いもするのがまた素晴らしい。……お腹減ってきた。
「あまねが我慢すれば済む」
「ヴェッ!?」
「あまねが我慢すれば済む」
「ヴォッ!?」
「あまねが――」
「い、いや、聞こえてるよ!? 聞こえてるけどさ!?」
クリスは機嫌が悪いわけではないらしく、おれの首元に吐息がかかるよう、わざわざ首の位置を狙って囁いていた。
ぞくぞくするんですけども――!?
「確かにおれが暴走しなければ良いだけっていう説はあるし、学説的に矛盾はないし否定する要素もないけれども、諸々の研究からその説はあまり現実的ではないとの結論にですね」
「私」
クリスがおれの角へと口を寄せて、さらに吐息をたくさん混ぜて呟く。
「食べ放題。……不満?」
「不満なんてないです!」
よぉし、そうと決まったらさっさと帰ろう!
皆は宴会で忙しいだろうし、マリもエリもまだ会っていない栃木のメンバーとの交流を深めないといけないもんね!
もう自己紹介も済ませたおれとクリスは早々に退散するのがみんなのためってもんだ!
「まぁ、環を説得してからだけど」
「……そうだった……!」
環ちゃんはおれに呼び捨てにされたかったのにずっとちゃん付けだったのが気に入らないらしい。マリとエリが普通に呼び捨てなのがそれに拍車をかけたらしく、何となく不機嫌なのだ。
言ってくれれば良かったのになぁ。
ちなみに柚希ちゃんに訊ねたところ、どっちでも良いとのご返答をいただきました。
「うちとあまねちゃんが仲良しなんな変わらんけんね!」
大らか光属性大爆発である。
環ちゃんもこのくらい大らかに……いや環ちゃんはどっちかっていうと暗黒ドS属性だから無理か。
いまこの瞬間も、おれに何かを仕掛けるべく計画を練っている可能性すらあるのだ。
「……怖すぎる……!」
戦慄するおれに、クリスはぎゅってする力を弱めてくるりと回転させた。お見合い状態になったところで、吸い込まれそうな紅の瞳と目があった。
「環はああ見えてすごく気を遣っている」
「えっ、ああ、うん」
それはそうだよね。
色々やらかすし、色々企むけれども、環ちゃんなりの線引きはしているし何かあったときのフォロー案はバッチリだ。
何より、戦えないからといって配信から祓魔の方まで、裏方や打ち合わせなどの細々した作業はほとんど任せきりの状態なのだ。
「その環が拗ねているなら、本当はすごくショックだったはず」
……それはそうかも知れない。
「呼び方って距離感にもなるけんね」
「それはそうだね」
おれだって今日から急に「宗谷さん」なんて呼ばれだしたら距離を取られたような気持ちになる。
「初めて会うた子が自分より近か距離におるって思うたんやなかかな」
「うぐぅっ……帰ったら、ちゃんと謝る」
「せやねぇ」
にっこり微笑む柚希ちゃんに頭を撫でられた。うん、そうだな。
きちんと謝れば分かってくれるはずだ。
「ええっと……ごめん、な、さい……?」
訳も分からず空気を読んだマリが謝ってくれるけれども、これに関しては環ちゃんを気遣えなかったおれが悪いのだ。
うん、とりあえずなんて呼ばれたいか聞いて、リクエストに応えてあげよう。
……なんて思っていた時期がおれにもありました。
「ええっと」
「何ですかあまねさん」
「その、ですね」
「誰に喋りかけているんですかあまねさん」
「た、環おねえちゃんです……」
「ハイッ! あなたのお姉さんの環ですよー? ちなみに自分のことは?」
「……あまね」
「じゃあもう一回言ってみましょう。さんはいっ!」
「あ、あまね……環おねえちゃんに聞いて欲しいことがあるんだ……」
なんで!?
なんでおれの呼び方まで変えられてるの?!
帰ってさっそく謝ったおれ。
環ちゃんは許してくれたものの、おれの「なんて呼ばれたい?」って質問ににんまり笑った。そして出てきたのが、
「一、ご主人様」
「却下で」
斜め後ろで見てるクリスの目が怖いです。
「二、おねえちゃん」
「……ほかの案は……?」
「三、我が愛しの君」
「選択肢が酷すぎるんだよおおおおおっ!」
実質一択だと思って選んだら、「二だけ軽いから一人称を自分の名前呼び捨てで」と謎の追加までされたのだ。後出しは卑怯でしょ!
ちなみに。
後で聞いたところによるとクリスと柚希ちゃんがメッセージで執り成してくれていたらしく、環ちゃんはもう全然怒っていなかった。
「ほら、ちゃん付けってなんか可愛がられてるって感じしますし。あまねさんに呼ばれると、ちょっとあまねさんが年上ぶろうとしているというか、背伸びしてるというか。なんか甘やかそうとしてくれてるっていうか、可愛い感じなんですよ」
じゃあ何でおれはおねえちゃん呼びさせられたんですかね。
自分のことあまねって呼ぶのも顔から火が出るくらい恥ずかしかったんですけども。
「いやぁ……滾る! 滾る上にこれは撮れ高ですよぉ!」
……ぐすん。
「こっうしん更新、まった更新♪」
「柚希。ご機嫌だな」
「そりゃそうばい。だって更新多かしうちん出番も多かけんね!」
「そうだな」
「こんまま八月末まで毎日更新しゃれたら良かとに」
「そうだな」
「えーっと……『更新を頑張るためにはモチベが必要で、モチベの維持には評価とかブクマが――」
「柚希、カンペ見すぎ」
「仕方なかー。今さっき環ちゃんから渡されたところやけん」
「ガバったな」
「ち、違うんですよーう! あまねさんの撮影に夢中だったとかじゃないんですよーう!」




