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拗ねる

「はい、おさらい情報です。

喜屋武マリエールちゃん。大学二年生ですね。見た感じはショートカットにこんがり日焼け。きっと日焼け跡が美味しそうな感じですよぉ! しかも合法! 最高ですね!」

「た、環様? 誰に話してるです?」

「大丈夫! ルルちゃんは別腹だからね!」

「はいです! ありが、んっ、あっ、ちょ、ちょっと待つのです! 環様の指が尻尾さんみたいな動きを――」

「さーてまずはつまみ食い――っと、前哨戦ですね。あまねさんが帰ってきたときにしっかり頑張れるように」

「た、助けてですううううう!」

 拗ねる。

 まぁざっくり言うと、不満ですってのを態度で表すことである。


「あまね」

「なにー?」

「怒るな」

「別に怒ってないしー」


 おれは今、柚希ちゃんに膝枕をしてもらいながら頭をなでなでしてもらうので忙しいだけなんですー。

 別に怒ってないしー。


「気持ちいー。あっ、ちょっとそのツノに近いところはダメ……なんでやめちゃうの!?」

「一瞬で発言が矛盾しとーよ?」


 苦笑する柚希ちゃんは、おれを見た後でちらりとクリスの方へと目を向けた。

 ソファに腰掛けたクリスは、その左右にマリとエリを抱えている。いや、エリは別に普通にしてるんだけども、マリは完全にべったりだ。


「変身ないるぬはばーやいびーん」

「マリ、訛ってる」

「あっ、つい! 変身するクリスちゃんかっこよかった! あとでサインを――」


 もう骨付き肉をぶら下げられた仔犬もかくやといった勢いでクリスに懐いている。存在しない尻尾がブンブン振られているのが見えるレベルである。

 エリは何度か叱ってくれたけれども、自分のせいでお母さんが洗脳され、お父さんが両腕を失ったマリがふさぎ込んでいたこともあり、あんまり強くは出られないんだとか。

 二人が――というかクリスがトイレに立って、なぜかそれにマリがくっ付いてったところでめちゃんこ謝られた。

 それもあってクリスも強くは出られず、今に至るというわけだ。ちなみにマリもエリも堅苦しいのは苦手だとのことで、お互いに敬語なしでお願いされた。実年齢もちょろっと話したら、いつの間にかちゃん付けになってたんだけどもコミュニケーション能力がバグった人間って怖い。

 閑話休題。

 そりゃエリの気持ちは分かるし、マリの境遇も分かる。

 おれだって子供じゃないし、マリの気が少しでも紛れるなら我慢しても良い。

 良いけどさ。


「あ、今クリスの脇腹に触った。髪の毛にも……!」

「心ばり狭かぁ……」


 気に入らないものは気に入らないのである。

 ちなみに今は偽装のホテルに移動中。

 武徳氏は三条さんが手配してくれた別の護衛につれられて本土に移動する予定とのことでお別れして、今は皆で美味しいご飯屋さんに移動している真っ最中だ。

 居酒屋と定食屋の中間くらい、とのことで豚角煮(ラフテー)やらミミガー、うみぶどうにゴーヤーチャンプルーと楽しみな料理がいっぱいである。


「環ちゃんのお土産も確保しよーっと」

「……あまね」

「何ですかー?」


 我ながら子供っぽいと思いつつも唇が尖るのを止められないでいると、無表情ながらクリスが少しだけ微笑んだ。おれじゃなきゃわからないくらいの変化だけど、間違いなく笑った。


「嫉妬してくれて、嬉しい」

「ヴェッ!?」


 間違いなく言い切られたことばに思わず動揺する。

 視線を周囲に彷徨わせれば柚希ちゃんは笑みを深めているし、エリもあらあら、みたいな微笑まし気な顔をしていた。

 マリは気にしていないのか気付いていないのかきょとんとしているけども、クリスはまっすぐに紅い瞳をおれに向けていた。


「ありがと」

「えっあっ、いや、その……大人げなくてごめん」

「良い。嬉しかったから」


 いや、あの……何この空気!?

 柚希ちゃんはにっこにこだしエリがセンスを取り出して自らを仰ぎ始める。いや、ここ冷房効いてるし暑くないでしょ!?


「アツいですねぇ」


 暑くないでしょッ!?


「あまねちゃんも変身すりゃ良かとに」

「えっ!? あまねちゃんも変身ないるがやー!?」


 何言ってるか分かんないよ。いや、目をキラキラさせておれに跳び付いてきそうだし、多分変身することを期待してるんだろうけども。

 クリスが頑張ってくれてた手前、おれだけ嫌だって言えないよね。

 仕方なく柚希ちゃんの膝の上から頭を持ち上げると、体内で魔力をぐるぐるさせる。


「変身! とぉっ!」


 掛け声はマリへのサービスだ。

 カッと魔力が溢れると同時、おれの四肢が伸びる。角はより太く。尻尾はより長く。背中の翼はより大きく。

 視界がさきほどよりも高くなれば、おれの真の姿である《月華の女王(リリム)》へとその身を転じていた。本当はさらにマジカル☆あまねにもなれるんだけども、あれは恥ずかしいので割愛。

 多分マリとしては《月華の女王(こっち)》よりもマジカル☆あまねの方が好きなんだろうけども。


「えっと……どう?」


 なんか無反応になっていたのでちょっと不安を感じながらもマリに感想を訊ねる。

 かっこいい系というか、戦う感じのが好きっぽいのでこれじゃない、とか言われるかと思ったんだけども、予想外の反応がおれを待ち受けていた。


「……ひっく、ひぐっ」

「ヴォォォッ?! 何で!? 何で泣いてるの!?」

「うすまさん……はばー……! まくとぅヒーローってぃいただん!」


 謎の呪文詠唱に困ってエリを見れば、


「すごいかっこいい。本当にヒーローっていたんだ、だそうです」


 ええええええ……。

 変身しといてなんだけども、泣くほどですかね……?

 そりゃクリスはめちゃくちゃ強いしかっこいいしヒーローって言われても納得だけど、おれだよ?

 神聖(セイクリッド)あまねブラスターは使えるけど、ドジっ子属性付きだよ?

 いや、まぁ良いんだけども。

 泣きながらおれにしがみついてきたマリの頭を優しく撫でてやる。クリスのときはちょっとイラっとしたけど、なんかこうやって抱き着かれるのも悪くはないなぁ。

 いや、クリスを取られるのは我慢できないけどね。


「あまね。鼻の下伸びてる」

「ヴァッ!?」

「あとコレ。――環から」


 差し出されたスマホに嫌なものを感じながら視線を向ければ、グループではなく、クリスと環ちゃんの個人的なやりとりが記されていた。


『呼び捨てですか? それってあまねさんも呼び捨てにされてますか? とりあえず二人の顔写真送ってください。アルマを使って二人の経歴やら恋愛経験を限界までネットから絞り取ります。というか私ですらまだちゃんづけのままですし柚希さんやルルちゃん、葵ちゃんもそうですよね? 正妻たるクリスさんこそ飛び越えてはいませんがこれは充分に序列を乱す行為だと思うんですが、いかがでしょうか。もちろん正妻であるクリスさんが容認するのであれば私も涙を呑んで我慢しますが、ここはひとつ正妻としてビシッと――」


 スクロールしないと読み切れないレベルの長文だった。

 いや、あの……怖いよっ!?

 っていうか呼び捨てにして欲しいなんて今まで一度も言ってなかったじゃん!?


「環の主張は正しい」

「ヴェッ!?」

「なので私は環の味方する」

「ま、まって!?」

「マリに抱き着かれて鼻の下伸ばしてるし」

「の、伸ばしてないよ!? まったく! 欠片も!」


 おれの主張にクリスはやや不満気なオーラを放ちながら柚希ちゃんへと視線を向けた。


「判定は?」

「ノーコメントやねぇ」

「柚希ちゃん!?」


 おれが立ち上がったことでフリーになった柚希ちゃんは苦笑しながらもエリの横に移動。


「うちも仰いで欲しかー。アツかねぇ」

「はい。アツいですねぇ」


 ぐぬぬぬぬっ……!


「あ、あまねちゃんもクリスちゃんも! 変身の仕方教えて!?」


 クリスは異世界産のお高い魔道具に術式刻んでるだけだし、おれに至っては人外だし。

 キラキラしたマリの瞳をみて、どうしたものか、と頭を悩ませることになるのであった。


 ……あとあんまり考えたくないけど、環ちゃんの対応も……。

 前途多難な旅程に、自然と溜息が漏れた。



「変身ヒーロー好き、ですか」

「みたいだね」

「滾りますね」

「えっ」

「ヒーローといえば悪の組織に捕まって×××されたり□□□されるのが王道です!」

「薄い本のでしょ!? それは王道って言わないよ!?」

「想像してみてくださいあまねさん。抵抗できないクリスさんが上目遣いに――」

「よし。王道って大切だよね! うん! おれ準備してくるから説得はお願い!」シュタッ

「クリスさんの次はあまねさんなんですけど、分かってるんですかねー?」

「多分分かってない」

「あっ!? クリスさん?」

「環。私の番は飛ばして」

「えっ」

「飛ばして」

「……はい」

「皆にも声かけてくる」

「……あまねさん……つよく生きて下さいね」

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