◆010 いやどう考えても詐欺でしょ。
「ふふふふふふ。だいたい週一更新だと言ったな。あれはウソだ!」
「先輩、なんか急に小悪党みたいなムーブし始めたっすね」
「二日連続更新だ! どうだ! すごいだろ!?」
「いや一部も二部もずっとそうだったじゃないっすか」
「ぐっ!? が、頑張ってるんだよ! 作者も必死なんだから温かい言葉をかけてやれよ!」
「それは自分じゃなくて読者さんにお願いするっす」
「ど、読者さん! ほめて! 作者じゃなくておれを!」
「……先輩も大概っすよね」
夕飯。皆が食べてる横でおれは小松菜とりんごのスムージーをずるるっと啜っていた。味もついてるし普通に美味しいんだけども、おれも普通にご飯食べたい。
ちなみに今日の夕飯は餃子。
料理部の皆で量産して、動画で試食。残りは全部夕飯という形になったらしい。
柚希ちゃん特製レシピで、ひき肉控えめでニラとキャベツがメインの野菜餃子と、大葉をたっぷり入れたしそ餃子の二品だ。本当はキャベツじゃなくて白菜を使うらしいんだけども時期的に手に入らなかったんだから仕方ない。
まぁそれをいったらもう秋なので大葉も時期じゃないんだけども、売ってたからセーフとのこと。
ジューシーにするためにガラスープをゼラチンで固めて細かくしたのを混ぜてあるらしい。本当は小籠包とかでやることらしいんだけど聞いただけで美味しそうだ。
――だというのに。
非常に納得いかないんだけれども、おれの分は普通のとしそ、それぞれ一個ずつだ。
たったの一個である。
「足りないよ! もっと食べたい!」
「わがまま言うちゃつまらんばい。お腹壊して欲しゅうなかけんね」
「ご安心くださいあまねお嬢様。こんなこともあろうかと小松菜とりんごのスムージーだったものを用意しました」
「だから『だったもの』って何!?」
まぁ今回は味がついてたから我慢しよう。
たった一個しかない餃子を堪能するために、誰にあーんしてもらうとか、誰の膝の上で食べるとかそういう謎の話し合いが行われていたんだけども、おれが口を挟むと碌なことにならないのが目に見えてるから静観するしかない。
食卓が映る画角でカメラがセットされていたので、きっとこれも動画の素材になるんだろう。
本当は誰かの膝の上とかじゃなくて普通に座って、自分の箸で食べたいんだけど。
いや膝の上乗せてもらうのは別タイミングでお願いするけどさ!
あーでもないこーでもないと話し合いをした挙句、環ちゃんプレゼンツのジャンケン大会を行い、普通の餃子はクリスの膝の上でリアのあーん、しそ餃子は柚希ちゃんの膝の上でルルちゃんのあーんに決まった。
ただのジャンケンとは思えない白熱ぶりでなかなか面白かった。
「さぁ来い」
クリス……膝をポンポンしてくれるのは良いんだけど、ちょっと男らしすぎませんかね……?
もうちょっと恥じらいと言うかなんというか、そういうのが欲しいんですけど。
「こないなら——」
「アッ行きます」
「さ、あまねおねえさま。お口を開けてくださいな」
リアはニコニコしながら最近ようやく得意になってきた箸で餃子を摘まむ。餡に下味はついてる、とのことだったけれどもおれとしてはラー油酢醤油は外せないので端っこにちょちょんと付けてもらっている。
「お汁がお口から零れないよう、きちんと召し上がってくださいね?」
おいいいいいいい!?
何かすごく意味が違って聞こえるだろ!?
餃子だぞこれ!
リアの背後で環ちゃんが親指をグッと立ててるけども、打ち合わせをしていた様子はないのでこの台詞はリアの素だ。
思わせぶりと言うか、絶妙なことばのチョイスにおれの魔力が回復し始める。
いやご飯より効率良いけど、これで反応するってどういうことだよおれの身体。
一口噛めば、香ばしく焼けた皮が破れて中からドバっと肉汁が出てくる。野菜の旨味に肉の油、そしてガラスープのコクがとんでもなく美味しい。
そのままもぐもぐしていると、皆の視線がおれに集まるのを感じた。
いや、食べにくいんだけども。
「あまねさん、食レポ食レポ」
「ファッ!?」
そうだ、そういやコレ動画の素材だったんだ!
「えっと、その、あの、——ジューシーで美味しかったです!」
「ジューシーって、お汁が?」
「グッ!? ……そうだよ!」
わざわざ聞き返すなよ!
ちなみにしそ餃子は普通に食レポまで完璧に熟しました。かなり上手に伝えられたと思う。
うーん、おれも配信者として慣れてきたってことかな!
そんなわけでおれの餃子タイムが終わると皆が食べる番になって、おれにはスムージーが差し出されたというのが経緯だ。
ごま油と酢醤油の美味しそうな匂いがおれの胃袋を直撃する……!
食欲と戦いつつも今夜は皆を特盛マシマシで食べまくることを誓って我慢だ。
胃腸に優しいスムージーをじゅるると飲みつつも皆の様子を窺う。
毎回暇つぶしをしてるんだけどクリスとかに捕まって動けなくされてしまうので、おれは席で大人しくすることを学んだのだ!
最初はカニを食べてるときもかくやという感じで静かなんだけども、人心地ついたところでお喋りの華も咲き始める。
なので、そこで三条さんから聞いたことを報告することにした。
葵ちゃんの言葉足らずなメッセージが原因で勘違いされてしまったことや、まだ小学生くらいのマリエールちゃんを預かること、そして安全確保のために全国を回ってセーフハウスに《転移》できるようにすることなんかを話したんだけども、
「負ける気がしない」
「悪か奴が来たらうちがやっつけちゃるけん、安心しんさい」
「あまねおねえさまの手を煩わせる輩は私の大剣でなますにして差し上げますわ」
「しそ餃子美味しい……」
戦える組は妙に自信満々だった。いや葵ちゃんは普通に餃子食べまくってるだけだけども。しそ餃子が気に入ったのかそっちばっかり食べてるね。
「宗教ですかー。異世界で宗教国家を滅ぼして宗教国家を立ち上げた私に立ち向かおうとは良い度胸です。土御門さんにもお願いして公安側からも――」
「気を付ける、です! よく聴く、です!」
「お嬢様方をつけ狙う害虫など、拡張装備:防諜Ⅲ型さえあればこのアルマがすべて駆逐してやれるのですが……現状ではあらゆるサイトをハッキングして敵の情報を抜き取り、資産凍結したり架空請求サイトや有料アダルトサイトに片っ端から登録しておく程度しかできませんね」
戦えない組もやる気満々だ。というかアルマ。それ普通にメチャクチャ迷惑なやつじゃん……でもハッキングは他の人にも迷惑かかりそうだからやめようね?
「それでさ。土御門さんから『葵ちゃんのこと責任を取れ』って言われちゃって」
「あー……まぁわりと話題にあがりますからね」
「ヴェッ?!」
話題になるの!?
「お袋が気にしてるんですよね。あと別口ですけど、姉さんも結構興味津々っぽいです」
たぶん土御門夫人から話が伝わるんだろうなぁ……。
夏の一件でも男の娘から正真正銘の女の子になった葵ちゃんをさくっと臼杵さんに売ってたし。いやまぁ口説く許可を出しただけだけども。
「あまねさんと縁繋ぎになることで、勢力的な意味で取り込もうとしてるのかもしれないですねぇ」
「ヴェッ!?」
「現状でも割とそういう関係ですし、二人が義両親なんて扱いになるともう断れないですよね」
「ぐぬぬぬ……!」
祓魔師協会はそういうところが嫌なんだよ!
ドロドロしてるっていうか、絡め取ろうとしてるっていうか。権力とかそういうのが絡んでるし、命を賭けた仕事である以上はしょうがないのかも知れないけども。
「とりあえず小学生か中学生くらいの子を預かることになりそうなんだけど大丈夫かな?」
「大丈夫です! 私がもうきっちりカッチリ英才教育を施しますので!」
「アルマ、環ちゃんのお世話を念入りにしてあげて」
「かしこまりました」
「ヴォッ!? なんでそういうことを言うんですか!?」
良い笑顔でにじり寄るアルマによって邪悪な存在が捕獲されたところで改めて話を続ける。おれの計算では環ちゃんに任せたら三日で被害が出るだろう。
確率で言うなら三〇〇%だ。
一日一回は絶対に何かしでかすからね。
幼い子、ましてや複雑な事情で両親から引き剥がされた子を預かるんだから、そういうことに巻き込むわけにはいかないのだ。
「さて、どうしようか」
「あまね様、あまね様」
「ん? どしたん?」
「これ、『しょうがくせい』って読むですか?」
ルルちゃんがコテンと首を傾げて指で示したのはマリエールちゃんの履歴書だ。ルルちゃんは普通に読み書きもできるようになってたはずだけど自信がないのかな。
ちらりとルルちゃんの指先に目を向けると、
「『琉球国際大学教育学部スポーツ科学科二年』……大学!?」
「本当や……人は見かけによらんね。それに琉球国際って言ったら難関私立ばい。頭良か子やねぇ」
この見た目で、大学二年生……?
いやどう考えても詐欺でしょ。
「ちなみにどんな風に褒められたいっすか?」
「カッコいいとか男らしいとか」
「自分が把握してるのとは違う『あまね』がどっかで活躍してるっすか?」
「ち、チクショー!」




