◆009 責任
「よーし! 更新完了!」
「おつかれさま、です!」
「まぁ頑張ったのはあまねさんじゃなくて作者ですけど」
「いいんだよ作者のことは。それよりも本編でおれが大活躍してるからね!」
「……活躍……?」
「い、いいんだよ! 頑張ったのは事実なんだから!」
「くわしくは本編、です!」
「あ、後書きに更新その他とは関係ない告知もありますよー」
「……それで、依頼って何なんですか。面倒なものを預かって欲しいって言われたとか」
諦めたおれに、三条さんは朗らかな笑みを浮かべ、足元に置いてあったバッグから色々なものを取り出し始めた。書類の束やら包装された箱みたいなもの。
菓子折りかコレ。
「いやぁ助かります。やはり宗谷様は頼りになりますね! こちら、お礼といっては何ですけどもご笑納ください」
銀座でも有名なお店のスイーツやら、スイスから空輸してきたらしい珍しいチーズなど、おれたちのツボを押さえたお土産たちだ。
それから、お土産と一緒に取り出した書類束を広げてこちらに示してきた。
そこにあるのは、
「履歴書……?」
「はい。預かって欲しいと頼まれた者の来歴が書いてあります」
「ヴァッ?! 者!? 人なんですか!?」
「ええ。ちょっと訳アリでして」
いや日本語ってマジで難しいな……!
まさかの人か。それをおれにどうにかして欲しいってどういうことなんだろ。
履歴書に貼られている写真は、浅黒く焼けた肌にニカッといたずらっ子のような笑みを浮かべた女の子だった。ざっくりとボーイッシュに纏められた短髪に浅黒く焼けた肌は、夏ごろにプールに通い詰めだったと言われれば信じてしまうくらい活動的に見える。
小学生か、中学生入りたてくらいかな。
「喜屋武・マリエール。日本人の父とアメリカ人の母を持つハーフですね。今は除隊されていますが、母君は元アメリカ海兵隊だそうで」
「この子にどんな問題が?」
さらっと目を通した感じでは、普通の子だ。
「彼女はユタと呼ばれる沖縄における巫女の家系の出身なんです」
あ、これ絶対に訳わかんなくなるやつだ。
直感的に確信したけれども誰もいないこの状況で投げ出すわけにもいかないので気合を入れて説明に耳を傾ける。
なんとか分かった範囲でまとめると、彼女の父方は祓魔師協会に登録もされている霊能力者の家系なんだとか。霊視や夢見、占いなんかを得意としており、沖縄ではそれなりに名の知れた存在らしい。
マリエールちゃんも幼いながらに力を発現させており、そっちの界隈では一目置かれているレベルとのこと。
事の発端は、そんな彼女が、今年の春頃からずっと同じ夢を見続けていることだ。
——何人もの少女が倒れている暗い通路。
——それを無視して進むのは、鎖を手に持った男。
——鎖に繋がれているのは、涙を流しながら引きずられる西洋の悪魔。
——暗がりを進んでいくと、眩しい光を放つ扉が現れる。
——そして、神になる。
夢見というのは、色々なものの象徴とのことなので夢で見た出来事がそのまま起きるわけではないらしいが、それでも引っ掛かる部分が多すぎてマリエールちゃんは書き留めておいたんだとか。
たびたび同じような光景を見続けていたんだけれども、少しずつ頻度が増えてきて、ついには毎晩の如くみるようになる。さらには、まったく関係のないタイミングでも似たような光景を霊視してしまった。
「それで、何でおれに?」
「『神になる男』が鎖につないでいた悪魔は、幼い外見で女性型だったそうです」
「ヴァッ!?」
「試しに宗谷様を含めた複数の女性の写真の一覧を提示したところ、『間違いなくこの子』と断言されまして」
「えええ」
「『あと倒れている女の子』と皆様の容姿が似ているようで」
「ええええ」
うつぶせになっていたり暗かったりで断定はできないものの、おれたちが巻き込まれているっぽいな。
となれば、不意打ちで何かをされるよりはあらかじめ伝えて対策を立てた方が良いと判断して連絡をとってくれたらしい。
確かに、そういう意味では利益がないわけでもない。いや利益っていうか、知らなかったときに被害が増えないように、って感じだけども。
「それで、なんでこの子が『面倒な預かり者』なんです?」
面倒と言うか、むしろ面倒事を解決してくれそうである。今回のだって何かに巻き込まれる前に察知できたわけだし。
「彼女の母が新興宗教に嵌ってしまいまして。彼女の能力を『邪悪に憑りつかれたために起こるもの』だから『浄化しないといけない』と言い出しまして」
手元の資料には霊光聖骸教会、と知らない宗教名が記されている。
「かなり過激な団体です。表向きはキリスト教からの派生ですが、実態は魔術結社が運営する宗教団体ですね」
「まじゅつけっしゃ」
「はい。左道の中でもセレマの流れを汲んでいたり、混沌魔術を主体に——」
「ストォップ! わからないです! 説明が説明になってないですから!」
予備知識がある前提で説明されても、何言ってるか分からない。もはや日本語なのか怪しいレベルである。
そういう説明は葵ちゃん——だけだと色々言葉が足りなそうだし不安なのでアシストに柚希ちゃんと環ちゃんにしてもらうことにして、今回はざっくり要点だけをまとめてもらった。
「……生贄、ですか」
「はい。高い魔力を持っている彼女は四肢から魂に至るまで、全てを狙われています」
当然ながら、その魔術結社に捕まれば、マリエールちゃんの命はないだろう。言葉を濁されたが、死ぬよりも酷いことになると匂わせていた。
そこまで放置しておくのも寝覚めが悪い。
……まぁそもそもおれたち、既に巻き込まれてるんだけどね。
「母君は感知されにくいよう、ごく微弱な思考誘導と精神汚染系の術式を長年に渡って受けてきた形跡がありました」
精神汚染はおれが春頃に結核療養所で喰らったのと同系列で、心を弱くしたり、心にダメージを与えると思っておけばだいたい間違いない。おれは強烈なのを食らってSAN値直葬になったけども。
そして弱った心に、夏の成果披露会で司会の設楽さんがやったような思考誘導をすれば洗脳完了となるわけだ。
洗脳されたお母さんは合法的にマリエールちゃんの身柄を手に入れるため、お父さんと離婚して親権を奪いに来た。
強烈なのを一発ガツンと喰らったのであれば治しようもあるが、長年に渡って積み重なってきたせいでどこまでが術式のせいで、どこからが元の思考なのかも判断できない状態らしい。
公にはできない検査やら何やらの結果もあいまって親権はお父さんが持つことになり、結果的にマリエールちゃんはお母さんと離れざるを得なくなった。
それだけでも胸くそ悪い話だが、マリエールちゃんの身柄を合法的に確保できなくなった魔術結社は、違法な手段に踏み出した。
すなわち、実力行使である。
「結果的に父君は両腕を失い、呪いの後遺症で魔力もほとんど扱えない状態になっております」
このままではマリエールちゃんを守れないという判断から、やむを得ず祓魔師協会にマリエールちゃんの保護を願い出た、というのがここまでの経緯だった。
「つまり、悪者がマリエールちゃんをさらいにくる?」
「十中八九、来ますね。戦闘にもなるでしょうし、相手の目的にもよりますが、最悪の場合、生死問わず身柄確保を優先する可能性すらあります」
最悪だ……!
マリエールちゃんのことも心配だけれど、皆にも害が及ぶ可能性があるってのがホントに最悪すぎる。
正面から力押しで攻めるとなればクリスを始めとしたうちのメンバーは強い。
でも不意打ちや搦め手に四六時中備えておくなんて難しいし、何よりもおれや大悟、ルルちゃんが狙われたら一発でアウトだ。
とはいえ断ることも難しい。マリエールちゃんが見た夢では、おれたちが巻き込まれるのはほぼ間違いないっぽいし。
「……おれたちにどうしろって言うんですか」
「しばらくの間、喜屋武氏を匿ってほしいのです。他の家との交流がなく、余計な柵も存在しない宗谷殿であれば、拠点や活動地を特定するにも時間がかかりますし、《転移》による逃走は誰にも予測できません」
うん、確かに《転移》はクリスから習った異世界由来の魔法だし、こっちの世界で使える人はそうそういないだろう。威張れることじゃないけども、おれも原理自体は分からないもんね。
三条さんは書類束をめくり、一覧表を指し示す。
「こちらは土御門家、三条家、ならびに信頼できる者たちがセーフハウスとして用意した物件です。これらを巡れば追跡はかなり厳しいものになるでしょう」
ざっと見た感じ、一〇〇件前後はあるだろうか。
確かに逃げ回る、となればそれほど難しい話じゃないのかも……?
一度実際に足を運ばないと《転移》できないのがネックだけれども、《転移》できるようになればかなり自由度は広がるだろう。
「さらに今なら、移動・飲食・宿泊に掛かる費用は全て協会持ちです」
そう言いながら、懐から便箋を取り出した三条さん。
なんでも、おれが渋った時のために土御門さんから渡されたものらしい。封がしてあり、三条さんも内容は把握していないとのこと。
たたまれた便箋をぺろんとめくればそこには簡潔な言葉が二行ほど記されていた。
「ヴァッ!?」
「如何なさいました?」
「なななな何でもないですじょ?」
「……じょ?」
「と、とりあえずお受けします! 受ける方向で調整させてもらいます!」
『旅行部の撮影で全国の温泉旅館泊まり放題』
『葵との関係に責任を取ってもらう』
なんで!?
なんで土御門さんが詳しく知ってるの!?
「はい、実はこの『TSロリサキュバスの健全(以下略)』ですが――」
「まって。意地でも健全を略さないのどういうことなの? そこまで言っちゃうなら全部言っちゃってよくない!?」
「忖度ですよ忖度。作者が健全って言い張ってるんでそれに合わせることで私の出番を増やしてもらおうっていう作戦です」
「環ちゃんな清々しかね」
「清々しいっていうかなりふり構ってないっていうか……」
「とにかく! 本作ですが、カクヨムにも転載することになりました!」
「おお! カクヨム進出!」
「まぁ登録自体は結構前にしてたみたいですよ。短編を一つか二つ投げて、その後は読み専アカウントみたいなムーブしかしてなかったらしいですけど」
「読んでくるー人が増えるとはバリ嬉しかー!」
「うー緊張してきた……読んでもらえるかな」
「手をにぎにぎするあまねさんかわいいです」
「ヴェッ!? 皆は緊張しないの!?」
「ふふーん。こんなこともあろうかと秘密兵器を用意しておきました。……ルルちゃん!」
「は、はいです!」
「おれより緊張でガッチガチじゃん」
「ど、読者さん! 応援よろしくおねがいしみゃ、しましゅ、しましま――しますのですっ!」
「あ”っ……てぇてぇ」
「うーん、真っ赤になってぷるぷるしてるルルちゃんは可愛いですねぇ」
「た、たくさん噛んじゃってごめんなさいなのです……」
「良いんだよ……よく頑張ったからなでりこしてあげる」
「ありがとうござ――あっ!? 尻尾さん!? だ、ダメなのです!」
「尻尾もカクヨム進出に向けて意欲的ですね……なにはともあれ」
「「「「カクヨム版もよろしくお願いします!」」」」
「……正妻私なんだけど」
「ヴェッ!?」




