◆008 日本語って難しいな……!
「日本語むずかしい」
「どうしたんです急に」
「いや、よく考えたらおれって環ちゃんに屁理屈で押し負けたりするし、日本語うまくなりたいなって」
「あまね様、ファイト、です!」
「ルルちゃんはすっかり上手になったよね」なでりこ
「えへへなのです! 頑張ったのです!」
「あ”っ……! てぇてぇ……!」
「あまねさん! 頑張ったルルちゃんにはご褒美が必要だと思うんです!」
「そうだな、ご褒美があったら嬉しいもんな!」
「御褒美、です!? ほんとです!?」
「ですです。ベッドの上であまねさんを抱き枕にして過ごす権利とか」
「ですっ!?」
「一日デートする権利とか」
「ですっ!?!?」
「あ、尻尾さんとデートでも良いんですよ?」
「ですッ!?!?!?」
ログハウス作りは魔力が使える怪力ャーズに任せてしまうことにした。何しろおれが手を出そうとすると怒るし。
いやまぁ怒るというか、ドジッ子属性がついたから心配してくれてるってのは分かるんだけどさ。
皆の口調とか表情を見てると単純に信用されてないような気がしてならない。
おれは元々メンバーじゃないんだけども、料理部の撮影も近づこうとしたら柚希ちゃんに止められちゃったし。
「あまねちゃん? 完成したら持っていくけん、今は良か子で待っとって欲しかと」
妙に迫力のある笑顔で止められてしまい、何故かそのあとクリスに引き渡された。いたずらをする小さな子に対する扱いかよ、と思ったけれども柚希ちゃんに笑顔で叱られたことでちょっと魔力回復しました。
プレイっぽいとか思ってない。
「エッ? あれ? 何で手ぇ繋ぐの?」
「事故防止」
これ完全におれが何かやらかすって思われてるよね?
バレンタインで作った魔法生物とか、そういうのを思い出しているんだろうか。
あれは事故だった。誰がどう考えても不幸な事故だったというのに。
解せぬ。
そんなわけでやることがないのでゲーム部の活動をちょこちょこっと配信したり、撮影して後から投稿したりしている。何で大々的にやらないかって?
アウトドア部のクリスと参謀の環ちゃんが割と忙しいからだよ!
チクショー! おれより忙しいなんて何か悔しい。
とはいえ出来ることはあんまりないので、スマホをいじったり新しいゲームを探したりと、出来ることをしながら時間を潰しているのが現状だった。
そう、だった、だ。
「あまねさん! 今お手すきですか?」
「エッ!? うん! もちろん!」
環ちゃんに訊ねられて、思わず満面の笑みで返したおれは悪くない。だってこの質問って何か手伝ってって言われたり、頼られたりするときのやつじゃん?
やっぱりメンバー唯一の精神的男性としては、頼られたいわけなんですよ。
配信とか動画撮影とかを手伝って欲しいと言われると思って期待してたんだけども。
「良かったです! さっき三条さんが来たんですけど、対応お願いしますね!」
「ヴェッ!?」
「ほら、こないだ葵ちゃんのところに土御門さんから連絡きてたじゃないですか」
「えっ、でもあれって断ったんじゃ――」
「それが何やら齟齬があったみたいで」
あはは、と笑いながら告げた環ちゃんだけども、それって結構面倒なことになるのでは……?
ちゃんと聞いてなかったけれども、何か面倒そうっていう話だったような。
「まぁ、直接会って話を聞いてみるのが一番良いと思いますので、お願いしますね」
「た、環ちゃんは!?」
「料理部に参加するので」
「く、クリス……!」
「今日はログハウスに電装業者が来る。立ち会いが要る」
ぐぬぬぬぬ……!
料理部の長である柚希ちゃんが抜けるわけにはいかないし、リアはエクストリームな言動が目立つから同席させるとむしろ酷いことになりかねない。
アルマは環ちゃんの傍から離れたりしないだろうし、葵ちゃんもアルマと同様だ。
まさか厄介事処理に駆り出されるとは思わなかったおれは、思わずぐぬぬな顔で環ちゃんを見てしまった。
頼られたい! 頼られたいけど面倒なことは嫌なんだよ!
思ってたんと違う……!
あ、環ちゃんはおれの表情を見るなり満面の笑みを浮かべて、何やら不穏なコメントとともに動画撮影に行ってしまった。
「いやーあまねさんにお願いした甲斐がありました。素敵な表情です」
ち、ちくしょう……!
今日か明日か明後日あたり、みんなを唆して環ちゃんを集中攻撃してやるからな!
絶対に謝罪させてやる!
ぷんすこしながらも三条さんのところに向かう。
おれたちの活動拠点は栃木だけれども三条さんたちがいるのは都内だ。毎回こっちまで来てもらうのはあまりにも効率が悪いので、連絡を貰ったら大悟が契約している賃貸マンションで落ち合うことになっている。
「《転移》っと」
身体から紫銀の魔力がふわりと放たれ、積層型魔法陣が展開される。
同時に景色がぐにゃりと歪み、気付けばもう大悟のマンションに到着である。正直なところ、とんでもないチート能力だと思う。
惜しむらくはおれ自身にそれを使いこなすだけの機転と戦闘能力がないことだよね。
クリスなんかだったら切り札として戦闘で使えたりするんだろうけども。
さて、三条さんだけども既に到着して、ダイニングテーブルに腰掛けてコーヒーを飲んでいた。どうやら大悟が通してくれていたらしい。
「ご無沙汰しております」
ロマンスグレーと言えば良いんだろうか。見事なまでの白髪を撫でつけ、スリーピースのスーツを身に纏った三条さんは執事と言われれば納得してしまいそうな見た目である。
にっこりと浮かべた笑みは柔和そのもののはずだけれども、何かちょっと圧を感じる。
……多分だけど、おれたちが祓魔師協会からの依頼を蹴りまくってることにちょっと怒ってるんだろうな。
人手不足でいつでも猫の手を借りたい状態なのは知っているからね。
「ご、ご無沙汰してます……」
「この度は依頼をお引き受けくださり――」
「ちょっと待って! そもそもさっき環ちゃんから聞いたんだけど、何で引き受けたことになってるの? おれ、断るってことで葵ちゃんにお願いしたはずなんだけども」
勢いで乗り切ろうとしてきた三条さんを止めて、きちんとおれの認識を話す。
こう見えても成長しているのだ。
環ちゃんとか環ちゃんとか環ちゃんに騙されまくってるからね!
おれの制止に、三条さんは意外そうな顔をした。
それからスマホを取り出し、ポチポチ操作しておれに差し出してきた。
映し出されていたのはスクリーンショット。土御門さんと葵ちゃんとのやりとりが記録されたものだ。
『面倒な預かりもの頼まれた。宗谷どのに連絡を取って欲しい』
うん、葵ちゃんに見せてもらった文面だ。
あの時はログハウス選んでたから口頭で断ったんだよな。
『今聞いてみます』
『よろしく頼む』
簡素なやりとり。葵ちゃんは元が男なのもあってメッセージでのやりとりがあまり好きではない。おれたちのグループでのやりとりでも、既読だけ付けてコメントは会ったときに、みたいなのが多いのだ。
『もう伝えたか?』
『他の人には頼めない。それに宗谷どのにも利益がないわけではない』
『なるべくなら説得して欲しい』
『まだか?』
いや、土御門さんちょっと堪え性なさすぎでしょ。
追撃っていうか追及っていうか……ソワソワしてるのが文面だけで伝わってきてしまう。微妙に文面を変えてるけども、多分この辺りでログハウス選んでたんだよな、おれたち。
『とりあえず何か反応して欲しい』
『手が離せない用事があって返信できないのか?』
焦れた土御門さんがいよいよストーカーじみた文面を送ってきたところでようやく葵ちゃんから反応があった。
『無理でした。よろしくって』
……葵ちゃん。
これ、伝わらないよね?!
おれは『依頼を断ってほしい』と『よろしく伝えて欲しい』ってお願いしたんだよ!
これじゃ何が無理なのかまったくわからないじゃん!
っていうか直前の文面を考えると『(手が離せなくて返信するのが)無理でした。(依頼の方は)よろしくって』って意味で取られるよね!?
クソー! 日本語って難しいな……!
『そうか! ではまた後日!』
案の定、微妙に嬉しそうな気配のする返信が来てやりとりは終わっていた。文字だけなのにちょっと土御門さんが嬉しそうな気配が伝わってくるって相当だぞ。
「えーと、これはですね」
「よろしくお願い致します」
「その、あの」
「よろしくお願い致します」
「葵ちゃんとおれとの間にちょっとした齟齬がですね」
「よろしくお願い致します」
「……はい」
だぁぁぁぁぁ!!!
根負けした……!
葵ちゃんの伝え方に問題あったのは間違いないし、何なら三条さんはわりと理解した上で来てる気がする。
言質取ってますよ、的なゴリ押しのオーラに圧し負けて、結局は厄介ごとを頼まれることになってしまった。
「ゴールデンウィーク、終わっちゃいますね……」
「せやなぁ」
「ま、まだだよ! おれたちのGWはこれからだ!」
「いや急に打ち切りみたいなセリフ吐くのやめましょう?」
「あー、打ち切らるーときってそげなセリフ多かねぇ」
「ある種のお約束と言うか、様式美みたいなもんだよね」
「あとは『あまね先生ん次回作にご期待くれん!』てかやね」
「あまねさんの(夜の)活躍にご期待ください」
「ヴェッ!?」
「まぁ活躍とかないですけど。よわよわですし」
「ヴォッ!? よ、弱くないし! それなら柚希ちゃんの方がよわよわだし!」
「ふぇっ!? どげんしてウチに飛び火すると!?」
「あ、柚希さんが動揺するの珍しいですね」
「そりゃスプラッシュ――むぐっ」
「いたらんこと言わんで! はらかくばい!」
「恥ずかしがりながら怒る柚希さんも新鮮で素敵です」
「むぅむぅ……」




