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番外編 バレンタイン(環&あまね編)

「あっ、柚希ちゃん! 環ちゃんが何か企んでるみたいなんだけど、何か知らない!?」

「知っとーよ?」

「教えて!」

「だめー。環ちゃんば話しよるけん、話さんで欲しかー言われとー」

「お口にチャック、指切りげんまん、です!」

「……何かを隠してる……? いやでも何を……?」

「あまね。諦めて本編読んで」

「クリス!? なんで!?」

「どうせあまねじゃ勝てない」

「そ、そんなことないし! どんな困難にも打ち勝ってみせるし!」

「「「」」」

「な、なんだよ!? 何で皆して微妙な顔で窓の外眺めてるんだよ!」

「さて、それでは始めましょう! 環のいじめっこ配信テロ、開幕です!」

「ぐすっ……せーのっ」

「「「「「ハッピーバレンタイン!」」」」」


 みんな揃ってカメラに手を振る。

 今日の配信は機材をたくさん持ち込んでキッチンで行う。

 と言っても用意してくれたのはほぼアルマなのでおれたちは見てただけだけども。悪態を吐きながらもモニターを運ぶアルマの姿は新種のツンデレに見えないこともないかな、と最近思えてきたけど、きっと気のせいなのであまり触れないでおく。


『ハッピーバレンタイン!』『【¥4545】始まった』『期待』『あまねが既に涙目www』『てぇてぇ』『ワイ独身、この配信見れた時点で勝ち組』『【¥1919】期待』『既にてぇてぇ』『せーのかわいいが』『仲良し箱てぇてぇ』『【¥50000】応援してます大好きです!』『なんかあまねたん既に泣いてね?』『ホントだwww目元真っ赤www』『いじめっこ配信テロの存在そのものがいじめだから……』『たまきに期待』『【¥2000】あまね強く生きろ』


 コメント欄がわちゃわちゃっと盛り上がってるのを見るとおれまで嬉しくなってしまう。うん、喜んでくれてなによりだ。

 といってもおれの顔は多分ちょっと言葉にできない感じになってるだろうけども。

 何しろ、午前中のうちに皆からのチョコを前撮りで(・・・・)貰ったのだ。クールな中に一欠片のデレが混ざったクリス、元気一杯の柚希ちゃん、一生懸命なルルちゃん、土御門(おとう)さん譲りのツンデレな態度の葵ちゃん、意外にもすっごく初心で純情っぽく見えるリアと、もうお腹いっぱいになるまで堪能しました。

 ええ、堪能しましたとも。


「さて、さっそくですが、バレンタインということで皆チョコを作りました。スケジュールとかの都合で何人かいないですけども、まずはメイキングからチョコ告までをお見せしましょう。本題じゃないのでダイジェストですけどね」


 画面が切り替わって、みんなでわいわいとお菓子作りをするところが映し出される。環ちゃん監修の元、アルマが編集したのでグダグダにもならず、五分ほどでそれぞれのお菓子が完成するところまでが流れていく。

 その間におれは目元を氷嚢で冷やしてもらったり鼻をかむのを手伝ってもらったりと、重病人みたいな介護を受ける。

 いや、具合が悪いわけじゃないんだけどさ。


「……チョコ貰うて泣くとは思わんやった」

「泣くというか、あらゆる液体がドバドバ系でしたよね。汗とか涙とか涎とか鼻水とか」

「あまねおねえさま、ちょっと過呼吸気味でしたものね」


 チョコが嬉しくて興奮しすぎました、ハイ。

 今も思い出すだけでニヨニヨしてしまうんだけれども、環ちゃんの用意している何らかのトラップが怖すぎてうかうか喜んでもいられないというかなんというか。


「あまね、すごい顔になってる」

「宝くじの一等当てつつ余命宣告された時みたいな顔ですよね」


 どんな顔だよ。いやまぁ言いたいことは分かるけども。

 無事に全員のチョコを渡すところまでが放送され、画面が戻ってくる。正面から撮ったみんなのお宝映像――これはリハーサルと称して別撮りしたらしいのであとでデータを貰う予定だ――と、おれに渡した本番の映像がうまいこと切り貼りされている。

 が、環ちゃんの指示なので噛んだり言い間違ったところもそのまま使われている。

 当然ながら、チョコを貰って色々バグってるおれもそのまま映っていた。さすがに鼻水とかはカットしてくれてるけれども、号泣して、奇声をあげて、謎の冷や汗がとまらなくなるところまではしっかり撮影されていた。


『突然の号泣www』『【¥10000】確かにあまねを泣かせてるけど』『ハートフルなイジメだな』『クリスからのチョコで滂沱の涙www』『【¥3000】あまねちゃんに私からもスパチョコを』『スパチョコwww』『唐突に奇声あげてるwww』『ルルたそビクッとしとる』『なんぞwww』『草』『ルルちゃんかわええ』『癒し』『あまね・・・今までどんな生活してたんだ』『完全にモテないヲタクのムーブなのよな』『【¥50000】るるたそに』


 やかましい。

 生理現象なんだからしょうがないでしょ!

 おれだって爽やかでイケメンなスマイルとともにスタイリッシュに受け取りたかったよ! でもなんか、こう、こみ上げてきちゃったんだからしょうがないじゃん!


『待ってwww』『なんの汗なのこれwww』『さすがにワロタ』『【¥50000】汗が流れる首筋をアップにしてくれてありがとう』『脇は!?』『耳は!?』『なんかキモいのが沸いたwww』『なんでチョコ貰った挙句介護されてんだよwww』『ガチ泣きすぎる・・・』『これを苦笑で済ませる柚希ちゃんが天使すぎる』『てぇてぇ』『俺なら引いてる』『俺なら押し倒してる』『おれもなでなでされたい』『美少女による美少女なでなで』『てぇてぇ』


 やいのやいのと賑わうコメントが落ち着いたところで、環ちゃんが話を進める。

 はー……不安だ。


「さて、そんなわけで皆からのチョコと、それをもらって生理学的にバグって死にそうになってたあまねさんを観ていただきました」


 畜生、何も言い返せない……!


「が。ちょっと足りないですね。――そう、私からのチョコがまだなんです!」


 うん。環ちゃんのは配信中に渡すって宣言されてたから知ってるけども、センブリエキスとかみみずグミとか食べ物でも色々前科があるから不安なんだよなぁ。


『【¥1000】さっそく曇ってるwww』『想像だけで不安そう』『目元あかいのかわいい』『環だけライブ配信?』『ハバネロとか仕込んでそうw』『もっとエグイの入ってるだろJK』『たまきだからなぁ……』『【¥4000】病院の受診料です』『塩辛とかキムチとか入ってそう』『食べ物だと良いね』『【¥500】ご冥福をお祈りします』


 コメント欄にいる皆もおれと同じく食べ物に何かを仕込んでいると予想しているらしく、割と心配してもらえてるけども、環ちゃんはにっこり笑って黒地にショッキングピンクのリボンが掛けられた包みを差し出してきた。


「あまねさん。ハッピーバレンタインです!」

「あ、ありがと……」

「おかしな食材も、チョコに合わない食材もひとつも使ってないので、安心してください。ねぇ柚希さん?」

「そうやねぇ」


 おお?

 なんか柚希ちゃんからお墨付きが出ると急に安心できるぞ!


「ささ、開けて見て(・・・・・)ください」

「うん! ありがとうね!」


 包装紙を留めていたのはマスキングテープだ。配信中ということで開けやすいように気を遣ってくれたみたいなのでささっと剥がすと、プレート状のチョコに白いチョコペンで文字が書かれていた。


「ヴァッ!? エッ!?!?」

「さぁ、あまねさん。何て書かれて(・・・・)いるか読んでみてください!」


 ――やられた。


「お、おれは男だし……」

「良いから読んでみてください。ほら、視聴者さんたちにも教えてあげないと」

「ぐっ……!」


 悔しいけれど確かに視聴者さんたちにも教えてあげないとおれがどうして困っているのか分からないので、嫌だけど、ホンットーに嫌だけど読み上げる。


「『バレンタインおめでとうございます。私たちからのプレゼント、たのしんでいただけましたか? あまねさんも当然、私たちにチョコを用意してくれてますよね?』」

「それであまねさん、チョコは?」

「…………おれはホワイトデーで頑張るから!」

「いえいえ。ホワイトデーはホワイトデーで、皆でまたお返しをしあうんですよ?」

「ぐぅっ……!」

「っていうか私たちが皆でお菓子作ってるの知ってて、何も思わなかったんですかねー?」


 男のおれがそんな準備してるはずない。

 してるはずないけど配信中だからおれが男だったって大手を振って言えない!

 くそう! だからコレだけ配信中に渡すことにしたんだな!?


「あまねさーん。もしかしてチョコの準備してないとかですかねー?」

「か、海外だとチョコじゃないし! 花とかだし!」

「花はあるんですか?」

「…………………………………………」


 ないよ。

 あるわけないじゃん。


「さて、そんなわけで、貰うだけもらってあげる気ゼロ、もうバレンタインヒモとでもいうべきあまねさんですが」

「ぐっ……!?」

「私も鬼じゃないので、今から作るってのもありですよ?」

「エッ!? 良いの!?!?」


 てっきりこれを口実に罰ゲームとかされると思ってたんだけども、どうやらそうでもないらしい。

 幸いにも配信場所はキッチン。材料も色々あるのでそれなりのものなら作れるだろう。流石にお菓子は作ったことないけど、調べれながら丁寧につくればそれほど酷いことにはならないだろう。

 レシピ検索用にスマホを取り出したところで、横にいたクリスにひょいっと取り上げられる。


「ただし、レシピ検索は禁止です」

「ヴェッ!?」

「ちなみに計量も禁止です」


 ルルちゃんが申し訳なさそうな顔で計量カップと電子てんびんを掲げて見せた。


「ど、どうやって作れっていうんだよ!? 絶対無理だって!」

「はい、そんなあまねさんにスペシャルアドバイザーの柚希さん!」

「あまねちゃん。料理は真心やけん、一緒に頑張ろうね!」

「ただし柚希さんがアドバイスして良いのは食材の名前のみです。ジェスチャーも禁止なので、言われた食材をどうするかはあまねさんが決めてください」


 ……き、きちくだ……!

 本物の鬼畜がここにいる……!


「ちなみに審査員はクリスさん、葵ちゃん、リアの三名です。二名以上から合格がもらえなければ罰ゲームとなりますので頑張ってください。では審査員の皆様からの意気込みを聞いてみましょう」

「チョコなかった。私は用意したのに」

「環さんの言ってた通り、あまねさん本気でもらうだけのつもりだったんですね」

「あまねおねえさま……(わたくし)のことは遊びでしたのね」

「まって。クリスちょっと根に持ってない?」


 コレ合格させてもらえる気がしないんだけども。リアの妄言はともかく、葵ちゃんもちょっと呆れ気味だし、審査員からのヘイトが溜まった状態でスタートするのはさすがに不公平だと思います!


 いやいくら柚希ちゃんが味方してくれても「チーズ……チーズっ!?」とか「砂糖砂糖! 塩ぉぉぉ?!」じゃどうにもならないよ……多いのか少ないのかすらわからないし。

 言葉にするのも憚られるようなものが出来上がったけどおれは悪くない!

 悪いのは環ちゃんだ!

 とんでもないものが出来上がり、葵ちゃんは食べずにギブアップ。クリスとリアも一口でギブアップしたんだけども、流石にやり過ぎたと判断されたのか、珍しく環ちゃんが説教されてた。

 なお、当然のごとく不合格になったのは言うまでもない。

「そういえばさー」

「はいです!」

「このバレンタイン編ってどのくらいやるの?」

「これのあと、2話分書くみたい、です」

「『2話』じゃなくて『2話()』ってのがまた微妙な……」

「仕方ないですよあまねさん。この作者はパッションがパッションでパッションしてますから」

「あー……意味わかんないけど何となく言いたいことわかっちゃう……ちょっと嫌だな」

「まぁまぁ」

「大悟様と梓様の話も書きたい、って言ってましたよ?」

「あ”あ”!?」

「ひぅっ!?」

「環ちゃんガチギレするのやめようよ……ルルちゃん泣いちゃうから」

「あっごめんなさい……とりあえず作者を〇して――」

「あっ!? 環様が頑張ってあまねをハメてくれたからそれは書かない、だそうです?」

「ふぅ……命拾いしましたね」

「まって。どういうことなの。まって」

「さて。作者の好感度を稼ぐためにあまねさんに色々しますか」

「ヴァッ!?」

「いやーこころがいたむなー。あまねさんかわいそーだなー」

「た、助けてぇ! 嫌だあああああ!!!」

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