番外編 バレンタイン(環&異世界組編)
「……遅いな」
「ヴェッ?! クリス、どうしたの?」
「更新が遅い。昨日はなかった」
「さ、作者もいろいろあるんだよきっと」
「例えば?」
「ほ、ほら、異世界転移して世界を救ってたりとか」
「その自伝書いてランキング載るなら許す」
「た、環ちゃーん! 助けてー!?」
「とりあえずチーズ料理で宥めましょう」
「か、カルボナーラつくるよ! 柚希ちゃんが!」
「全力で他力本願ですね……」
「おー? 別に良かばい。作っちゃるけんちょっと待っとってな」
「どのくらい?」
「んー……本編読んときに食材準備して、後書きで作るったい!」
「あまねさん……なんかもうメタとかそういうのですらないような気がするんですけど」
「い、良いの! 前書きと後書きはパッションだから!」
「ひさびさに聞きましたねソレ」
「さて、だいたい終わりで良いですかね?」
後で編集するので、カメラを回したままの状態で皆に尋ねると、それぞれから是が返ってきた。
柚希さんの手を借りながら思い思い作ったスイーツはラッピングまで終わらせて、今はダイニングテーブルの上に並べられている。ホントは当日まで冷蔵庫で寝かせておくんだけれども、このあと使うので出してもらっているのだ。
メイキング編もきっちり入れるけれども、本命はこれからだ。なんと言ってももうすぐバレンタイン。皆、あまねさんにアピールしたり気持ちを伝えるために一生懸命で非常に可愛いのだ。
だとすれば、これはもうネットに流して信者たちにもお裾分けしてあげるしかあるまい。もちろん、私自身も満足できるようWIN-WINな感じで撮影するけれども。
「さて、それではこれからチョコを渡す予行練習をします」
「予行練習、です?」
食器洗いのお手伝いをしていたルルちゃんがこてんと首を傾げる。その横では何となく理解している柚希さんがにこにこしていた。クリスさんは余ったチーズをつついているしリアは何かを期待してもじもじしているけれども多分聞いてるだろう。
アルマ?
私が持ってるハンディカムを射殺すような眼で睨んでるけども、まぁ編集のときに頼る予定だし大丈夫だろう。
「良いですか? あまねさんにチョコを渡す、それすなわち、愛の告白です」
「告白、です!?」
「友チョコとか義理って可能性もあるっちゃけど」
柚希さん、良い感じにルルちゃんを騙せてるんだから余計なことは言わない!
「当然ながらあまねさんへの気持ちは皆さん本物です。つまり本命。だから告白でOKなんです」
言いながら、昨日作ってきたあまねさんうちわを取り出す。とびきりの笑顔で映ってる可愛いあまねさんの顔を、ほぼ実物大になるように引き延ばしてアイドル応援用の大きなうちわに貼り付けたものだ。
「告白となれば緊張します。噛んでしまったり変な顔をしてしまうかもしれません。そんなところをあまねさんに見られたら大変ですよね」
「た、大変です……!」
「別に構わないけど」
ルルちゃんだけは本気で戦慄してるけども、ベッドの上ではもっとアレな姿をたくさん見られているので今更である。
あとクリスさんはもう少し恥じらいを持った方が良いと思うんです。こないだも風呂上りにバスタオルのままうろついてあまねさんに怒られてたし。
「クリス!? しっとりした肩とかちらっと見える太腿がとっても美味しそうで素敵なんだけどもそれはちょっと違うんだよ!? 恥じらってるところを脱がしていくのが良いんであって最初から据え膳ってのはそれはそれでありなのでベッドいく!? それともきちんと着替えてからいく!?」
日本語で喋ってるはずなのに理解できない発言になってたけどもあの勢いはきっとお説教だと思う。いやまぁ言いたいことは何となくわかるんだけど日本語的には崩壊してるんだよね。
何はともあれ撮影しなきゃ。
「緊張して失敗しないよう、私がうちわとカメラを構えて立つので、あまねさんだと思ってチョコレートを渡してみてください」
「……ご主――環おねえさま。それ、カメラって要りますの?」
「今、呼び間違えそうになったからお仕置きね。あと、カメラなしならお仕置きもなし」
「そ、そんなぁ……!」
うん。リアも嬉しそうに頬を押さえてくねくねしているのでコレで解決だ。
引き込んだ私が言うのもなんだけど、リアって色々極まってるのよねぇ……いや、ちょっとだけ教育したのも間違いはないんだけども、リアの場合はほぼ本人の才能だからね。リアがこういうこと言う度にあまねさんがすんごい目で私を見てくんだけど冤罪なんです。
……ええ、ホントに。
ある意味逸材だし色々するのに不都合はないから良いですけども。
「さ、それじゃあ撮っていきますよ」
思わずにんまり笑ってしまうけれど、私の目的は一つ。
あまねさんうちわを構えた近くで告白をしてもらう、疑似モテモテシチュエーションである。
もちろんその撮影した映像は信者の皆にも見てもらうけれども、甘酸っぱくて美味しそうな表情の皆を間近で見られるなんて役得すぎる……!
「まずはルルちゃん、どうぞ」
パステルグリーンのチェック柄エプロンを身に纏ったルルちゃんが、同じ模様の小さな包みを手に、私に――じゃない、あまねさんに向き合う。
「えーっと、その……いっつもたくさん優しくしてくれて、ありがとうございますなのです! これ、バレンタンインのプレゼントなのです! 大好き、です!」
「…………っ!」
「……環様? 何やら涙ぐまれているようですがやはりそんなものでは目への負担が大きいのでは――」
「環おねえさまは感動してるんだと思うんですけれども」
いかんいかん。
あまりの可愛さにくらっと来てしまった。このままではビデオが回っているというのにルルちゃんをいただきますしたくなってしまう。部屋を出たら早めにあまねさんを唆すことにして、とりあえずは続きを撮影しなければ。
ぐっと奥歯を噛み締めて、次はリアだ。
私がちょっと前にジョークのつもりで買ったイエスノー枕のエプロンバージョンを身に着けたリアは、その装いとは裏腹にとんでもなく初心な表情ではにかんだ。
「……初めてですのであまり自信はないのですけれど、精いっぱい気持ちを込めてつくりました。お口に合えば良いのですけれど……」
「……リアの癖に清楚系ですか……あとで覚えておきなさい」
「ああっそんなっ! 一生懸命頑張りましたのに!」
可愛いかったのでご褒美をたっぷりサービスしてることにした。
さっきまでの清楚系かつ可憐な雰囲気は一気に霧散して、いつも通り期待に微笑みながら身をくねらせる。うん、リアはこうでないとね。きっとこのギャップはあまねさんもグッとくるに違いない。
「次はうちやね!」
柚希さんは単純にすごい体つきをしているので普通のエプロンでも充分に官能的だ。
「うちん作った特別なチョコばい! ばりばり美味しかけん味おうて食べんさい♡」
「柚希様! かっこいい、です!」
これまでの二人とは真逆で恥じらうどころか堂々とした態度の柚希さんに、ルルちゃんが目をキラキラさせている。
うんうん、かっこいいよね。
胸のあたりも大迫力でかっこいいもんね。
ダイナミックなスプラッシュも豪快でかっこいいしね。
「……何か良うなかことば考えとー顔しとー」
「いえいえいえいえ。そんなことはないですよー?」
さて、最後はクリスさんだ。
本当は私の分と葵ちゃんの分も撮りたいんだけれども葵ちゃんには完全無欠にパーフェクトなお姉ちゃんがいる。当然ながらそっちでチョコをつくるとのことだったので別撮りする予定だ。
梓ちゃんが「妹ができて嬉しい! 一緒にチョコ作るの!」って学校でハシャいでいたので、できるだけ邪魔しない形で落ち着いたのだ。ちなみに私の分は色々アイデアがまとまらずにまだ思案中だ。
どうしたらあまねさんを悦ばせられるのか、悩みは尽きない。
ちなみにあまねさんのことを知った梓ちゃんからは、
「んー……私も大悟さんが初めての彼氏だしよく分からないけど、変にヒネったりするより王道っていうか意外と真っ直ぐなのが好きだと思うよ」
というありがたいアドバイスをいただいている。ちょっと兄の名前が聞こえた気もするけど梓ちゃんが幸せそうなので我慢である。それに兄貴とうまくいったら梓ちゃんは私の義姉である。
全人類――否、全生物の憧れ、綺麗な義姉さんである。
なんとも背徳的でそそる響きなので、それはそれでありじゃなかろうか。
そんなことを考えている間にも、クリスさんが大きな包みを持って正面に立った。やっぱりと言うかなんというか、堂々とした立ち振る舞いで、とんでもなく凛々しい。
というかプレゼントのサイズも凛々しい。
お盆みたいな大きさの包みになってる辺り、あまねさんにというよりもあまねさんと一緒に食べる気満々だよね。
いやむしろあまねさんにあーんしてもらうとか、そういう作戦……?!
……案外ありかも知れない。
「はい、コレ」
あっさり差し出してきたクリスさんはどこからどう見てもクールな感じだ。そんなクリスさんが一生懸命お菓子作りしてくれたとか考えるとグッとくるものがある……やはりあまねさんが一番喜ぶのはクリスさんみたいな渡し方だろうか。
うーん、研究の余地がありすぎて正解にたどり着けそうにない。
なにはともあれ、予定していた分は撮り終わったので、あとは編集して流すだけだ。
あまねさんに実際に渡すところ?
そりゃ隠し撮りはするし配信もするけど本命はまた別にあるので、そっちがメインだ。
さて、それじゃあ久々に『たまきのいじめっこ配信テロ』頑張ってみますか!
「はい、柚希ちゃんのお料理教室です!」
「あまねさん……解説に入って作ったふりするのやめましょうよ……」
「うぐっ!? い、良いの!」
「チーズ。早く」
「麺を時間通りに茹でます。その間に、ベーコンを短冊切りにして、オリーブオイルで炒めましょう」
「脂が透明になるとが目安ばい」
「そしたらみじん切りにしたにんにくを加えてさらに炒めます」
「焦げんごと弱火にせないかんよ」
「で、粉チーズと生卵、いま炒めたやつをボウルに入れときます」
「卵に火が通ってしまうけん、粉チーズで卵と炒めたんを仕切るイメージやな」
「茹でたパスタのお湯を切って、ボウルに入れて一〇秒蒸す! あとはしっかり混ぜて、黒コショウで完成!」
「『ボウルで混ぜ混ぜ☆簡単カルボナ~ラ』の出来上がりばい! ちかっぱ美味しかよ!」
「……ホントに作りましたね」
「うまい」
「気になる材料はこちら」ドンッ
◆材料(1人前)
・ベーコン15g ・粉チーズ30g ・生卵1個 ・黒コショウ(お好みで)
・パスタ(乾麺100g) ・塩(パスタ茹でる用、分量外)
「ヴァッ!? 何ですかコレ?! どうやって出したんですか?!」
「ほら、パッションだよパッション」
「パンチェッタば使うたっちゃ美味しかよ!」




