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番外編 バレンタイン(満漢全席編)

「なんと! 次回は! 配信編です!」

「……」

「……次回? 今回じゃない、です?」

「今回ん内容は何ば言うたっちゃネタバレになってしまいそうやけんね」

「まぁ、次回はひっさびさの配信だからお楽しみにね!」

「……」

「えっと、環さま? 怒ってる、です?」

「あー……前回あれだけ愛想よくしたのに出番少なかったもんね」

「……」

「何か聞こえる、です? ……『見せ場あるから、もうちょっと待って』です?」

「……ルルちゃん。あまねさんわからせはあるか聞いてください」

「ヴァッ!? ちょっとぉ!?」

「ある、みたいです!」

「ヴェッ!? ナンデ!?!?」

「……なら許しますか」

「許さないよ! っていうかルルちゃん! 変なところから電波受信しちゃ駄目!」




 お昼を前にして柚希ちゃんの主催する『ハートと心と胃袋をわしづかみ♡ ばりばり美味(うま)かスイーツ作成教室』が終わったらしく、チョコレートの甘い香りとともにみんながキッチンから出てきた。

 デニム生地のエプロンに身を包んだクリスはどことなく満足げな表情をしている。きっと自分的にも納得の出来って感じのスイーツを作ったのだろう。

 おれのためにね!


「あまね。なんか鼻息荒い」

「ふふーん! おかえり!」


 クリスがエプロンを外しているところは何となく新妻っぽくてドキドキする。新妻っぽいも何も、おれたちは春先に結婚して新婚ホヤホヤだから新妻そのものなんだけどね!

 良い匂いもするし最高の新妻です! 香りの通りなら甘くて濃厚なお味だと思います!

 クリスの後ろからはパステルグリーンのチェック柄エプロンを着たルルちゃんがぴょいんと出てきて、そのままおれに抱き着く。ルルちゃんの髪の毛やロップイヤーなうさ耳からもふんわりチョコの香りがした。

 なんか慌てた様子だったのでなでなでしながら聞いてみると、


「たたた、大変なのです! このままではあまね様のチョコがなくなっちゃうのです!」

「ん? どういうこと?」

「チョコを作るのにチョコを使っているのです!」


 あー、うん。

 基本的にチョコ作るときって、市販の板チョコとかを刻んで溶かしたりするよね。


「食べた分だけ減っちゃうのです! 材料にするためのチョコがなくなったら、チョコが作れないのです!」

「ああ。なるほど」


 背後から出てきてニッコニコな感じの環ちゃんを見てだいたい全部察した。

 きっと嘘つき大魔王(たまきちゃん)があらぬことを吹き込んだせいで、ルルちゃんはチョコはチョコから作るものと誤解してるんだろうな。

 いやまぁちょっと涙目でおれにしがみついてくるルルちゃんとかとんでもなく可愛いからこの場合はグッジョブだけども。

 ちなみに環ちゃんはお菓子教室の参加者じゃないのでエプロンはつけていない。

 じゃあ何してたのかって言うと、


「いやー、良い()が取れました。これはファンの皆さんも大喜びですよぉ」

「環様。このアルマではなく、そのような低俗な機械に手を這わせてあまつさえボタンを優しく押したりレンズを回したり……! そんなにもカメラなんかが良いのですか!!」

「あまねさん! もうバッチリ最高な映像が撮れたんで、配信の時は楽しみにしていてくださいね!」


 投稿する動画のための撮影だ。

 横でアルマがハンカチを噛みながら涙を流してるけど何でカメラにNTRされたみたいな感じになってるんですかね……?

 いや深くツッコむと碌でもないことになりそうだから放置するけども。

 アルマを押しのけるように出てきたのは白地にフリルがたっぷりついた、THEエプロンって感じのを装備した柚希ちゃんだ。こちらも新妻っぽい気配がして非常に眼福である。

 柚希ちゃんはハンドバッグみたいな感じでラタンを編んだバスケットを持っている。チェック柄の布巾が掛けられているので中身は見えないけれども、そこからはみんなの次に良い匂いがする。

 つまり、つくったばかりのお菓子が入っているのだ。

 皆からするのと同じ香りって説もあるけども、だったらみんなの方が美味しそうなのは仕方ないことなのだ。

 柚希ちゃんの後ろからこっそり覗いてるリアはピンクのふりふりエプロンで、胸元にポップな書体で『YES』と書かれたものを着ていた。イエスがハートマークで囲まれていたりシルク製だったりで、()()()()()()()()()()()()()()である。


「あまねちゃん、待っとってくれたと? 試作品食べてみる?」


 くぅ……! エプロンの下にオフタートルのニットを着てるのが惜しいぜ!

 何も着てなければすぐに試食(あじみ)したのに!

 当然ながら味見程度で済むはずはなく、そのまま満漢全席フルコースになるのが確定だけど。


「あっ、えっ!? 待、待つです! 尻尾さん! ルルはいまチョコをどうにかして手に入れないと――ひゃうんっ!?」


 このフラストレーションは尻尾がルルちゃんと遊ぶことで発散するとしよう。

 洋服とエプロンの隙間にしゅるっと入った尻尾がルルちゃんをツンツンしたりコショコショしたりと大活躍して、きっとルルちゃんも大満足してくれるはずだ。


「大丈夫ですよ、ルルお嬢様。いざとなればこのアルマめが適当な食材を見繕って摂取し、味も香りもチョコにしか感じられないものを体内で合成して差し上げます」

「環ちゃん?! アルマ止めて?!」


 体内で合成ってなに?!

 『味も香りもチョコにしか感じられないもの』って逆に怖いよ!?

 ちなみにアルマは、胸からミルク風味の強壮剤出すという前科があるらしい(・・・)……。

 本人曰く『中毒性も依存性もありません! 体内合成で完全に無菌(クリーン)ですし、現行の法にも引っ掛かりませんよ!?』とのことでどこから突っ込めばいいのか分からないレベルの代物を体内で作れるらしかった。

 ちなみに何で伝聞系かっていうと、気付かないうちに強壮剤飲んで元気になった環ちゃんやクリスのせいで早々に気絶させられたからです。

 当たり前だけども強壮剤は我が家では禁止だ。


「そいで、チョコ食べてみとーないん?」

「うぐっ……食べたいような、当日まで我慢したいような……」

「駄目ですよー。バレンタインに撮影するんで、そのときまではお預けです」

「それやったらこりゃウチらんおやつにするけん、気にせんで良かよ」


 あううううう……それはそれで気にするんです……!

 食べたくないわけじゃないんだよ!


「柚希さん、これはですね。『自分のために作ってくれたものを食べたい』って気持ちと『バレンタイン当日まで我慢したほうがより美味しく感じるんじゃないか』って気持ちがせめぎ合ってるんですよ。決して食べたくないとかじゃないんですよあまねさんは」

「ぐっ……その通りだけど全部解説されるとそれはそれで微妙な気持ち……!」

「なんか難しかねぇ。……環ちゃん、なんでカメラ構えて撮影しとーと?」

「この何とも言えないあまねさんの表情! 撮れ高ですよ撮れ高!」

「あまね、昼食」


 きゃいきゃいやってる柚希ちゃんと環ちゃんを置いて、クリスはさっさとおれをひっ捕まえた。そのまま小脇に抱えてキッチンに逆戻りだ。


「あれ? 環ちゃんたちは?」

「トイレ休憩」


 あー、なるほどね。

 ってクリスは大丈夫なの?


「あと、何か悪だくみするらしくて、あまねの足止めをお願いされた」

「ヴェッ?!」

「だからここで待機」


 カウンターチェアにちょんと腰掛けると、おれを膝に抱き直してスマホをいじり始める。

 アルマはそのままキッチンに入って昼食づくり。ルルちゃんはおれの横に座ってにぱっと笑ってくれた。あ、かわいい。

 背中にちょっと感じる柔らかくて暖かい感触に癒されるし、クリスの髪から感じるシャンプーの香りが非常に素晴らしい感じになってるんですけども。


「あの……クリスさん?」

「ダメ」

「なんで!? クリスはおれの味方してよ!」

「足止め時間によって、もらえるチーズが変わるから」


 よく見るとスマホのタイマー機能で時間計ってる……!

 どうやら環ちゃんにチーズを提示されてクリスは裏切ったらしい。誤魔化したりしないで堂々と言っちゃうのがまたクリスらしいけれども。

 アルマは昼食作りの真っ最中なので無理だし、ルルちゃんは戦闘能力ゼロだから助けにはならない。

 ち、チクショー!

 おれ一人だってこんなん楽々突破してやるからな!

 すぐ環ちゃんたちのところに行って悪事を暴いてやる!


「ふんぬぅぅぅ!」

「……暇」

「ふんぎぃぃぃぃ!」

「…………ゲームするか」

「ほぁぁぁぁぁぁぁ!」

「………………あ、ログボ取らなきゃ」

「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」


 び、微動だにしない……っていうかクリスさん? せめて構ってもらえたりしませんか?

 流石に全く動けないように固定しといて放置は悲しくなるんですけども。

 スマホに夢中な新妻さんを見てちょっと悲しくなってきたので、尻尾でルルちゃんと遊ぼうかな。

 にゅるりと尻尾をくねらせたところでクリスが抱っこする力が強まった。


 ……あ、コレ怒ってる。


 多分だけどスマホいじりたいんじゃなくておれに怒ってて無視してるアピールなのだ。


「えーと、クリスさん……?」

「ルルをなでなでして尻尾這わせて」

「エッ、ハイ」

「柚希のエプロンをじろじろ見て」

「アッ、ハイ」

「環の後を追おうとする」

「ヴェッ?! ……ハイ……」


 環ちゃんのは意味が違うよ!? 自衛! 自衛のためだから!

 言い訳しようと思ったけどもちょっと睨まれたので大人しく返事をしておく。その横で、自分も関係してると知ったルルちゃんが頭をさげていた。ロップイヤーがぺろっと捲れるくらいの勢いで頭をさげて、


「クリスさま! ごめんなさいなのです! ルルが調子に乗り過ぎたのです!」

「うん。まぁ悪いのはだいたいあまねだけど。順番は守って」

「はいなのです!」


 なんかすごく対応が優しいんだけども、その優しさをおれにも分けて欲しい。そんなおれの願いは通じず、ちょっとゾクゾクするような冷たい視線で睨まれた。


「……私は?」

「アッ、ハイ!」 


 尻尾でさっそくクリスの首筋を――ヴォえッっぽぉ!?

 尻尾の先っぽをクリスに咥えられた。そのままハート形の部分を全部口に入れられて、吸いあげながらも舌を這わせていく。


「アーッ!? 待って! 待って!」

ふぁふぁ(待た)ない」


 言いながらクリスがルルちゃんにも手で合図をする。


「は、はいなのです! お手伝い、ですっ! あまね様、ごめんなさいなのです!」

「ア”ー!? 待って待って待って!」


 このあと、騒ぎを聞きつけて戻ってきた環ちゃんたちも参戦して、お昼ご飯は満漢全席フルコースになりました。

 満漢全席フルコースは望むところだけども! メイン食材がおれだなんて聞いてないぞぉっ!?

「…………(びくんびくん)」

「ふぅ」

「汗でべたべたやけんお風呂入るばってん、皆はどうすると?」

「あ、入ります」

「環さん! 背中を流しますよ!」

「環様のお背中をお流しするのはこのアルマの仕事です!」

(わたくし)もご一緒させていただきますわ」

「……あまね様、このまま、です?」

「大丈夫。連れてく」

「気を失ったあまねさんを隅々まで綺麗にしてあげましょうねぇ」

「あまねちゃんな可哀想やけん、えず(ひど)かことしたらつまらん(ダメ)よ?」

「…………(びくんびくん)」

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