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番外編 大晦日

「あけましておめでとう!」

「お正月、です!」

「いやーめでたいっす」

「うわ……新年早々兄貴がいる……キモ」

「ちょっとぉ!?」

「まぁ変わりないなら良かった」

「良くないっすよ?! 助けて欲しいっす!」

「んー、お年玉くれたら助けてあげる」

「お年玉って……先輩はサキュバスになったときに大切なタマを──」

「ギルティ! 環ちゃん、思いっきりやっちゃって!」

「はーい!」

「ま、待つっす! 話せばわかる、話せばわかるっすよおおおおおおおお!!!」

 ごーん、ごーん、と遠くで除夜の鐘が鳴っているのが聞こえる。

 年の瀬もきわっきわ、大晦日の夜。おれたちは皆で食卓を囲みながら、歌番組やらお笑い番組やらを見ていた。今日は奮発して蟹だ。奮発っていうか、お歳暮と称して土御門さんがトロ箱いっぱいの松葉ガニを送ってくれたんだけどね。

 カニに合わせて刺身の盛り合わせもあるので、とんでもなく豪華な感じになってる。

 カニ酢も用意したしカニフォークも人数分買った。控えめに言ってやる気MAXである。

 みんな、と言ったけれどもここにいるのは俺を含めて四人だけだ。

 環ちゃんはご両親が帰ってくるということで大悟とともに実家でご飯。柚希ちゃんも博多に帰省していたり葵ちゃんもお家だったりと日本出身組は誰もいない。流石に正月だしねぇ、と思ったけれども柚希ちゃんが実家に帰っているのは、実はバイトの一環だ。

 関東まで来て、ラナさんと出会ったことでお父さんの手伝いでやっていた仕事をブッチした正樹さんに頼まれたのだ。お父さんとその周辺の様子を探って欲しいとのことで怪しまれることのない柚希ちゃん(スパイ)が抜擢されたのだ。

 新幹線で四時間ほどかけて博多まで柚希ちゃんを送ったのはいい思い出だ。帰りはおれの《転移》で一発だし、ちょっとした旅行気分で楽しかった。

 葵ちゃんも家族で過ごす――というか何やら新年に行う儀式があるらしくて実家に帰ってるしね。

 というわけで帰る予定のないクリス、ルルちゃん、リアの異世界組とともに食卓を囲むことになったのだ。アルマも環ちゃんのご両親に説明できないので残る予定だったんだけども、泣きながら環ちゃんに追いすがった結果、静かに忍び込んで待機することを条件に一緒に帰省することになった。


「二日ですよ!? 二日も環様のお傍を離れるなど、そのようなことができるわけありません! ……その後の一週間、アルマめに消化器系を任せていただけるならば我慢しますが――」

「はい帰省! あまねさん、アルマも私と一緒に帰省します!」


 消化器系を任せるってどういうことなの……?

 ドン引きしてたら同じ疑問を抱いた葵くんが聞いてくれた。


「消化器、ですか……?」

「はい。環様は完璧に完璧なプロポーションをしておりますが、正月太りを懸念されていましたので」


 アルマが人差し指だけを立ててくいくいっと動かす。


「このアルマが僭越ながら肛門よりアクセスし、環さまの大腸・小腸を掌握させていただき栄養素の全てを分子単位で管理させていただくのです!」

「却下です却下! 絶対にさせませんっ!」


 ……いやあの、アルマさん?

 あなためちゃくちゃハイテクなはずなのにアクセスが物理的っぽい感じになるんですかね……?

 後ろ(・・)の貞操を守るために環ちゃんが折れたのは何となく理解してしまったので黙って送り出すことにする。どうせ明日の朝にはやってきて、皆で初詣に行く予定なのだ。

 ちなみに大悟もめちゃくちゃ機嫌が良い。


「振袖っすよ! 梓ちゃんが振袖なんスよ!? 最高じゃないっすか!」

「……チッ」

「な、なんすか!? 自分が車出すんすよ!?」

「……」

「せ、先輩! 助けて欲しいっす!」


 大悟も言い負かされるどころか無言にすら負けるのやめなさいよ。あとおれに助けを求めないで欲しい。あんまり大悟の味方すると環ちゃん拗ねちゃうし。

 と言っても今回の大金星が大悟なのは間違いないので助けてあげよう。

 いや梓ちゃんの振袖もすごく楽しみなんだけども、今回の手柄はそれだけじゃない。


「ほら、環ちゃん。おれたちも振袖着るんだし。梓ちゃんとお揃いだよ?」


 そう。

 なんと今年はみんなで振袖を着ることにしたのだ!

 梓ちゃんは大和撫子のお手本もかくや、といった感じで着付けも一通りできるんだとか。それに乗っかった環ちゃんの発案で、全員で振袖を仕立てたのだ!

 ちなみに和装のお店を紹介してくれたのは安定の三条さん。おれたちが訪ねる前に土御門さんからも連絡を入れてくれたらしく、もう完璧にVIPな扱いでした。

 そんなわけで全員分の振袖と防寒用のストールを用意してもらって、みんなで揃って初詣となった。ちなみに環ちゃんと梓ちゃんは、成人したら袖を留めてもらい、切った布でお揃いの何かを作ろうなんて約束までしていた。

 なんか非常にてぇてぇ雰囲気だ。

 環ちゃんがケダモノでなければ百合ん百合んした美しい友情だと言えただろう。いや、梓ちゃんに()何もしてないけど、ねぇ?


「えーでも、あまねさんは袴じゃないですかー」

「だっておれ、男だし」

「エッ」

「いや、それはもう良いから」


 そうだよ。細かいことは良いんだよ。

 おれは男だと思ってるんだから男なんだよ。だから振袖じゃなくて袴なんだよ。

 といってもさすがに紋付き袴は目立ちすぎるので折衷案として、卒業式とかで女の子が着るような袴を合わせることで妥協した。足元もブーツなのでちょっとハイカラな感じだ。

 

 ちなみに明日の朝、おれは博多駅まで《転移》で柚希ちゃんも迎えに行くことになっている。

 柚希ちゃんはお母さんが着付けとかできるそうなので、最初から振袖だ。

 脳裏によぎる、皆の振り袖姿。


「うーん……思い出してぇてぇ」

「あまねさま、大丈夫、です?」

「ヴェッッ!?」


 びっくりしてテーブルに目を向けると、あれほどあったはずの松葉ガニは、ほとんどが殻だけになっていた。

 刺身に至ってはツマすらなくなってる!

 なんでだよ?!

 アワビなんて特大サイズのやつを一人一つ用意しておいたのに!

 確かに豪華に見せようと思ってババンと大皿に盛ったけどさ!


「やけに静かだと思ったら!」

「おねえさま? 食事中ですわよ?」

「食事は黙って食べるもの」


 心配そうにうるうるしてるルルちゃんを他所に欠食児童(もとゆうしゃ)たちは凄まじい勢いでカニを食べている。

 っていうかクリスは素手で殻を斬って(・・・)るんだけども……。一番硬いはずの鋏の部分もスパッと斬ってるし、身の方は飲み物みたいな速度で口の中に消えていく。

 よくよく見ると、指先に魔力込めてる。多分だけど身体強化してるよね!?


「く、クリスは分かってない! カニは剥くのに苦労しながらちまちま食べるから良いんじゃないか!」


 それをそんな贅沢にドバっと食べるなんてズルい!

 というか刺身! 特に後で食べようと思ってたアワビの肝までなくなってる!


「? たくさん食べられた方がいいぞ?」

「? ですわね?」

「? おなかいっぱい、うれしいです、よ?」


 ち、ちくしょう!

 これだから異世界組は!

 風情ってもんをわかってない!

 ぐぬぬと歯噛みしながらも、手つかずになっている胴体部に手を伸ばす。

 こっちも下処理はされているので、簡単にミソを食べられるんだけども食べ方を知らない三人は放置している。

 きっと手足のオマケくらいにしか思ってないんだろうな。初見だとそれほど美味しそうな色には見えないしね。

 というわけで卓上コンロに網焼き用の台座的なのをセット。パカッと開けた甲羅にカニミソを入れて日本酒をちょろり。

 ちなみに日本酒は三条さんおすすめの山廃仕込みのやつで、既にクリス一人で二升近く開けている。

 おれもリアもちょろっと貰ったけども、フルーツみたいな香りと優しい甘みはまさに甘露だった。

 冷たい物摂りすぎるとお腹壊すから我慢してるけども、本当なら枡でパカパカいきたくなるような美味しいお酒だ。

 ちなみにリアはお酒そのものがあまり好きではなく、ルルちゃんに至っては下戸だ。


「……なんかいい匂いするな」

「美味しい匂い、です!」

「ダイギンジョーと、あとカニの胴体を混ぜたんですのね」


 クリスが視線で作れと訴えているけど無視だ無視!

 リアも羨ましそうにしてるしルルちゃんも目がとろんとしてるけど無視!

 食べ物の恨みは恐ろしいのだ!


「……さーて、おれ一人で食べちゃうもんね!」

「ひとり?」

「る、ルルはなくてもだいじょぶなのです!」

「おねえさまのいけず……リアたちはおあずけですのね?」


 クリスが頭の上にはてなを浮かべて、ルルちゃんは無理してるのが見え見えなんだけどもホントに一人で食べちゃうもんね。

 というかリア。こんなタイミングですら頬を染めて嬉しそうにするのやめなさい。

 ……いや、これは環ちゃんの調教(きょういく)が原因かなぁ。


「あまね。私の分は?」

「ありませーん。おれのアワビを食べちゃった罰だからね!」

「あまねさま、アワビはモガッ!」


 何かを告げようとしたルルちゃんを押さえたクリスの眼光がちょっと鋭くなる。


「アワビを食べちゃったから、仕返し?」

「そう! 因果応報って言うんだよ!」

「因果応報、ね」


 こくりと頷いたクリスに合わせて、リアが席を立つ。向かう先は冷蔵庫。


「ぼうっとしてたし、お腹いっぱいなのかと思ってたんですの」

「食べすぎるとお腹壊すだろ、あまねは」

「エッ?! しまってくれてただけ?!」

「です! ラップした、です!」


 取り分けられたお刺身と無事なアワビ、殻を剥き終えてあとは食べるばかりになってるカニが盛られていた。

 良かった……!

 おれのアワビは無事だったんだ!

 さっそく食べようと箸を伸ばすけれど、クリスにやんわり手首を押さえられた。


「……クリス?」

「あまね」


 見れば、頬を上気させたクリスがおれを見つめていた。

 色っぽいんだけどもなんか変……?


「因果応報、ら」

「…………ら?」

「私に濡れ衣を着せた。有罪」


 あっ?!

 クリス、完全に酔っ払ってるね?!?!


「さすがあまねおねえさま……私もこうして濡れ衣を着せれば……!」

「いや、そういうフリじゃないからね?!」

「どちらにしろあまねは有罪」


 クリスのいう通り、早とちりして怒ったのはおれなので反論のしようもない。結局、全員分のカニミソを用意した挙げ句、ご飯の後にベッドの中で反省会が行われることが決定したのだった。

 言うまでもなく、食後の腹ごなしといわんばかりに寄って集って美味しくいただかれました。

 いつ年が明けたのかもわからないまま朝になってたよ……ぐすん。

「さて、新年の目標は──」

「わからせですね!」

「漢字とくいになる、です!」

「世界のチーズを制覇する」

「たくさんかわいがっていただければそれで満足ですわ」

「た、環さんの横にいられればそれで──」

「お世話したいです」

「皆元気なら良かばい!」

「……誰が喋ってるのか分かるのすごくない?」

「あ、あまねさまの目標は何ですか?!」

「んー……読者のみなさんに楽しんでもらうことかな……って環ちゃん? 何その笑顔」

「読者のみなさんが楽しみにしてるのはあまねさんが不本意ながらもエッッッな感じに分からせられちゃう展開です」

「ヴァッ?!」

「さーて、ベッド行きましょうねー♪」

「い、嫌だぁ! 助けてクリスぅぅぅ!」

「チーズで買収済みです」

「味見するから。あまねも」

「いーやーだぁぁぁぁ!!」

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◆別作品
「実は最強なFランク底辺職の死霊術師は今日もおっぱいに埋まる。」
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― 新着の感想 ―
[良い点] あ、更新だ、こんにちはー [一言] あけおめことよろ!!!!!今年もよりいっそう躍進していこうな!!!!!!!
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