閑話(後) 異世界に行こう!
「え? 投稿ミス?」
「どげんしたとー?」
「いや、前話と題名同じじゃない!?」
「違う」
「?と!の違い、です!」
「エッ……今どうやって発音したの!?」
「?、です! !、です!」
「……すごい」
「いやすごいっていうか、ものすごくメタいですね」
「確かにメタですね……さすが環さん! 目の付け所が違いますね!」
「何? 葵ちゃんは環ちゃんなら何でも良いの?」
「はいっ! どんな環さんも最高です!」
「(ある意味漢らしいけども)」
「(環ちゃんもちょっと嬉しそうやなぁ)」
そんなわけでやってきました、異世界。
といってもまだ配信はできない。まずはテスト撮影というか、こんな感じでどうか、ってことで録画してみることにしたのだ。
ちなみに配信コンテンツを決めるのに散々揉めたけれどクリス、ルルちゃん、リア、アルマは投票放棄。
環ちゃんが朗読で、柚希ちゃんは劇を推していた。女優とかアイドルとかを目指しているだけあって、そういうのが好きなんだろうな。
意外というかなんというか、尖っていたのが葵ちゃんで、
「モンスター狩りしましょうよ! 気分も良いですし、モンスターによる被害も減らせますよ?」
なぜか涎をたらしながら戦闘狂なことを言っていた。欲望に忠実っていうか、まぁ夜もそんな感じだしある意味葵ちゃんらしいと言えば葵ちゃんらしいけどね。
でもモンスター狩りは別に気分良くないんだよなぁ。
普通に怖いし何ならグロいよ……君たちが戦うとモンスターの首とか腕とかが飛ぶじゃん……。
まぁ急ぐものでもないので、下見を兼ねて皆でぶらぶら観光をする予定だった。面白いものとか見つかればそれをネタにしても良いしね。
そう、『だった』のだ。
「総員、傾聴!」
おれたちを目撃した聖翼騎士団の人が慌てて詰め所まで走っていき、到着からわずか五分で騎士団全員がおれたちの前に並ぶことになったせいで、予定は総崩れだ。ここまで大騒ぎになってしまったら、知らぬ存ぜぬで観光を続けることはできないだろう。
おれたちを取り囲んでいる騎士団は、頬はこけているし目の下の隈が入れ墨みたいなレベルで、その癖して目は爛々と輝いていてちょっと不気味だ。
ゾンビと言われたら信じてしまいそうな様子の騎士たちに若干引きながらも、無視するわけにもいかないので挨拶を返す。
「いや、あの、お疲れ様です?」
「総員、ありがとうございます!」
『ありがとうございますっっっ!!!』
騎士団長らしき人の掛け声に合わせて、全員がおれにお礼を言ってくれたけれど、そんなの良いから休みませんか……?
ゾンビでなければ何かヤバい薬をキメたジャンキーだろう。
「あまねさんあまねさん」
「何?」
「このままだとまずいと思うんで、できるだけライトな感じで休むように言ってもらえませんか?」
ライトな感じ、ねぇ。
まぁ良いけど、言葉は通じるんだろうか。正直話が通じる気がしないんだけども。
「えーと、皆さんお疲れのようなので、ちょっと休憩しましょう」
「はっ! 総員、全力でちょっと休憩! 少しでも動いたら営倉入りだ!」
「全力でちょっとってどういうこと!? もっとゆっくり休ませてあげて!」
「あまね様が有難くもゆっくりとおっしゃられたので休息を250年追加する! 全員家まで駆け脚!」
「ちょっと待って!?」
「総員、全力でちょっと待てぇいっ!」
全員が駆け出そうとしたままの姿勢で止まる。
だるまさんが転んだを全力でやってると言えば信じてしまいそうな、異様な光景。
「……これ、何?」
「あまね、面倒。範囲回復」
それもそうだね。もしかしたら今は冷静な判断ができないくらい追い詰められてるのかも知れないし、まずは回復だ。錯乱してるならこれでだいたい治るはずだ。
何しろおれの回復魔法は過労で死にかけていた三条さんですら何とかできたんだからね。
「《夜華癒》!」
みんなの協力で蓄えた潤沢な魔力が弾け、騎士団員たちを癒していく。
「おお!?」「これが女神の御業……!」「これなら何時間でも祈り続けられるぞ!」「あまね様バンザイ走だぁ!」「風紀を乱しそうなのがいたら走りながら切り捨てるぞ!」「悪人の首をあまね様に!」「首を捧げる祭壇を作ろう!」「目標の五時間走破も今ならいける!」
口々に歓喜の声をあげる騎士団の皆さんなんだけども、発言内容に問題しか感じられない。
これ、洗脳されてない?
「……環ちゃん?」
「……はい」
「……騎士団って、比較的まともな人を集めて作ったって言ってたよね?」
「……そうですね」
「どこが!? どこをどう見ればまともに見えるの!?」
環ちゃんも分が悪いのは分かっているんだろう。つぃ、と視線を逸らして頬を掻く。
「ほ、ほら。まず喋れますし」
「おれには理解できない! 本当に同じ言語か怪しいレベルだよ!?」
「……こ、呼吸もできますよ?」
「まともの基準おかしくない!?」
「わ、私もこんなになるとは思ってなかったんですよう!」
環ちゃんが言うには、この惨状を作り出したのは二人。
「元勇者として騎士どもの腐った精神を叩き直しますわ」と宣言していたリアと、「お義姉さまの補佐を致します」と口調を矯正中の葵ちゃんだ。
いや、騎士団を鍛えるとは聞いてたけどさ。
「……リア、葵ちゃん。何か言うことはある?」
「あまねおねえさまの素晴らしさが分かるように、人格を矯正致しましたわ」
「殺さないように稽古をつけることができました!」
ドヤった表情のリアと、ちょっと嬉しそうな葵ちゃんに思わず頭を抱えた。
……駄目だ、この二人は根本的に何が問題なのか気付いてない。
がっくりと項垂れたおれの気持ちを察してくれたのか、環ちゃんが慰めるように抱きしめてくれた。鼻腔をくすぐる香りと、ふにっと柔らかな温かさに包まれて魔力がじんわり湧いてくる。
「あまねさん、大変でしたね……」
「うん」
「この二人にはお仕置きが必要ですね……」
「うん」
「それじゃあ――」
不意に言葉が止まったので環ちゃんの顔を見上げれば、そこには冷や汗を垂らしたまま固まる環ちゃんがいた。
「環」
「ハイ、ごめんなさい」
どうやらクリスに睨まれているらしい。
「あまねも」
「エッ」
「学習して」
「アッ、はい」
おれも怒られちゃったじゃんか!
「まぁお仕置きはするけど」
「エッ!?」
「しないの?」
「……する」
クリスに頭をぽふぽふされたので、環ちゃんから離れてクリスにくっついてくことにする。
「環は騎士団をまともにして」
「ヴァッ?! あの、お仕置きの方は――」
「不参加」
「ヴェッ!?」
「罰だから」
「そ、そんなぁ!」
本気で打ちひしがれている環ちゃんをはしっと抱きとめたのはアルマだ。
「御安心ください。環様の代わりにこのアルマめがお二人にきっちりお仕置きを施し、あらゆる媒体で記録しておきますので!」
「ぐぅぅぅぅ!?」
いやそれって生殺しでしょ!
「何かの嫌がらせですか!? アルマ! 許さないわよ!?」
「た、環様?! 何をおっしゃっているのです!? このアルマめのサービスがお気に召しませんでしたか?! 何が、何がいけなかったのです!? やはり映像では不足!? 必要でしたら電極を御脳に突き刺して疑似体験も――」
「アウトー! どう考えても完全にアウトだよ!?」
このあと一時間近く不毛なやり取りをした挙句、最終的にアルマに騎士団の再教育をお願いすることで決着した。
リアと葵ちゃんをお仕置きして戻ったおれたちを待ち受けていたのは、やり遂げた顔のアルマと、
「あまねお嬢様バンザイ」
『あまねお嬢様バンザイ』
「環様バンザイ」
『環様バンザイ』
目からハイライトを失い、無表情のままおれと環ちゃんを賞賛する騎士団の人たちだった。
いや悪化してるじゃないかっ?!
……一人一人に《闇瘴祓》を掛けた上で改めて《夜華癒》を掛けたら良くなったんだけどさぁ。
何、アルマの教育って呪いとかそういう扱いなの?!
「」スゥッ
「ふんっ……駄目だ」
「おねえさま、何をしていますの?」
「いや、ビックリマークとかハテナマークを出そうとしてるんだけど」
「! こうですの?」
「エッ!? 何で出せるの!?」
「勇者候補時代に……」
「う、嘘だ……嘘だよね。クリス!?」
「?」
「く、クリスも!?」
「つまりルルちゃんも勇者の素質があるってことですかね?」
「ゆうしゃ、です……?」
「そうそう。クリスさんに稽古つけてもらって――」
「環ちゃん! 駄目! ルルちゃんの目が虚ろになってきてる!」
「あ、あまね様! ルル、ルルは戦えないですけど盾にはなれるです!」
「ルルちゃん……」
「ルルが死ぬ前にあまね様から回復魔法掛けてもらえれば――」
「葵さんとクリスさんとの訓練が完全にトラウマになってますね」
「し、死ななければ頑張れる、です!」
「リアルにゾンビアタック提案してる……!」
「だ、だからとっくんはゆるして欲しいのです……!」
「大丈夫だよ、ルルちゃんはそんなことしなくて良いからね」なでりこ




