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偽装カップル(その4)

今日はかなり早めの更新。

「うわー、綺麗ね」


渚がそんな感想を抱いたのも無理はない。


透き通るような空の青。

地平の彼方まで広がっていると錯覚するほど、視界いっぱいに広がる向日葵(ひまわり)の、花部分のオレンジと茎の緑のグラデーション。

遠くでは風車が柔らかな風を受け、午睡で船をこぐように、ゆっくりと羽を回している。


「向日葵は今のシーズンが一番の見ごろだからな。その様子だと気に入ってくれたみたいだな」

「うん、とっても! でも兄一、よくこんな場所を知ってたわね?」


相変わらず手を繫いだままの渚が、目を輝かせながら聞いてくる。


「落ち込んだり嫌なことがあったりと辛いときに、見ていて元気になれる……ええと、自分を奮い立たせる場所として、こういった所をいくつか知ってるんだよ」


夏ならここ(ヒマワリ畑)、秋なら紅葉を一番いい角度で見渡せる山腹の洞窟とかな。


渚が悪い訳じゃないからコイツには言わないが、人気者のダメ兄貴なんてやってると、さっきみたいな嫉妬が可愛く覚えるほどの悪意(・・)もそれなりに浴びてきた訳で。


「嫌な事か……ごめんなさい、兄さん……」


突然素に戻った渚が、思いつめたような表情で向き直る。

その瞳に先ほどまでの輝きは無く、曇天の空のように曇っている。


「ごめんなさい。今まで兄さん()辛い思いをさせていた(・・・・・)ことに気付かずに。ううん……気付こうとしなくて、ごめんなさい」


その物言い。どこまで察したかはともかく……参ったな。違うんだ。


「俺はそんな事を知らしめるために、お前をここに連れてきた訳じゃないんだよ」

「じゃあ、何で僕をここに連れてきたの?」


次にクサいけど本音を言おうとした俺は、なるべく表情や声色を平常に保つように努力しながら言う。


「ただ単に、こんな綺麗な風景を独り占めするのが勿体ないと思ったからだ。それに俺が落ち込んだ時に自分を慰めるという目的だと、ここはもう用済みだからな」

「それって、もっといい場所を見つけたってこと?」

「場所じゃなく、俺を元気にしてくれる()を見つけたって言うべきか……ああいや。ソイツがいるおかげで落ち込む必要も無いくらい毎日が充実してるって言うか……ええい、とにかくそういう事だから分かれ!」


自分でも考えが纏まらないままセリフを口にしたんで、支離滅裂気味になったけど、察してくれたよな?


さて、言われた方の渚はと言うと、向き合った状態からくるりと振り返り、俺に顔を見せないまま語り始めた。


「僕ね、ごくまれにだけど特別な“夢”を見るんだ」

「夢?」


話の前後に繋がりを見出せなかった俺は、オウム返しで先を促す。


「うん。普通夢っていうのは、つじつまが合わなかったり整合性が取れない展開になったりするもんだけど、その夢は、僕の過去の出来事を忠実に再現してるんだ」


――展開だけではなく、音や匂いや味などと言った、五感に働きかけるものは全てね、と渚は続ける。


五感全てを再現する夢――俺はそれに心当たりがあった。


予知夢。


そう。

何の取り得も無い俺が持っている、あまり役に立たない超(微妙な)能力。


スペックに違いがあっても、俺と渚は双子だ。

だから俺がそういう能力を持ってるなら、渚にも似たような力があってもおかしくはない。


そして話を聞く限り、コイツの夢は“過去視“という能力なんだろう。


まあ、他人の過去を見れるっていうなら、メチャクチャ凄い能力なんだろうけど、昔の自分を見れるだけなら、ぶっちゃけ微妙な能力だよな。

つうか、何でこのタイミングでそんな話を切り出したんだ?


「その、まれに見る夢――僕の過去では両親や友達とか色んな人が出てきたんだけど、兄さんだけは出てくることはなかった」


あー。まあ。つい最近までコイツとは疎遠状態だったから無理も無い話だよな。


「だけど、つい先日見た過去の夢で、初めて兄さんが出てきたんだ。内容は二人で料理を作って、そのまま一緒にご飯を食べるだけ、っていうものだったけど」


渚はそこで、ずっと繋ぎっぱなしだった手をするりと離し、ヒマワリ畑の中へと進んでいく。


「僕は、これからも兄さんとの夢を見たい。いつ、どういう過去の夢を見ても兄さんが出てくるように、ずっと兄さんに寄り添うように、一緒に生きて行きたいと思ってるんだ」


渚が振り返る。

その顔はすでに曇っておらず、周囲のヒマワリのような大輪の笑顔を浮かべている。


ヒマワリ畑で振り返る、白いワンピースと麦わら帽子姿の少女。


それがあまりに絵になりすぎて、柄にもなく指でフレームを作って覗き込んで、心の中でシャッターを切った。


え?

ご自慢のガラケーで写真を撮らないのかって?


いやいや、それをするのは無粋ってもんだ。

こういうのは、記録じゃなく記憶に残すべきなんだよ。


……と、ここで終わってれば『イイハナシダッタナー』で終わるんだが、世の中キレイなだけじゃ生きていけなくて。






「あの、渚さん。本当に俺もココに入るんですか?」

「もちろんよ。ここは“カップル入店歓迎”が暗黙の了解になっている店だしね」


再び街に戻った俺たちは、ショッピングをしたいという渚の要望で、とある店の前に立っていた。


その店の看板に【ランジェリーショップ pafu-pafu】と書かれていたことを考えれば、俺が何故敬語になったか分かるだろ?


夏・青い空・ヒマワリ畑・美少女・ワンピース・麦わら帽子・笑顔。


個人的には「いいな」とシンプルな感想を抱きつつ、ノスタルジーを感じさせるシチュエーションだと思っております。







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