偽装カップル(その2)
今日更新分はラブコメとして見るとアレですが、TSモノのギャップで見ると……といったコンセプトで書きました。
「~~でね。~~なの」
「ははは、そうだったのか」
待ち合わせ場所を出て歩くこと……ええと、何分だ?
俺たちは時間が経つのも忘れ、街を彷徨いながら会話そのものを楽しんでいた。
合流当初こそお互い何を話していいか分からず無言だった。
しかし、俺たち兄妹は長い冷戦期間があったと言え、最近はその溝を埋める……まではいかないものの、橋をかけて行き来するには問題ないくらいには仲を修復している。
だから普通に会話するぐらい何て事ないし、会話が無い状態だとしても、その事をさして意識はしない――という風にペースを取り戻すのに時間はかからなかった。
「へえ、そうだったの。さすが兄一ね」
加えて渚の言葉遣いも、デート仕様というかレアな女の子口調だ。
一緒にいることにようやく慣れてきた身近な存在が、いつも以上に女の子女の子しているのは妙に新鮮だ。
その喋り方をもっと堪能したくて、色々話しかけては、彼女の反応を楽しんでいる。
そう考えると自然会話も弾む訳で。俺たちの相性は決して悪くない、と思うのは自惚れだろうか?
なんてまあ、調子に乗ったことが悪かったんだろう。
――コロコロコロ。
可愛らしい音が渚のお腹から聞こえてきた。
「あ、いや……これは違……その……」
うわあ。
渚のヤツ、メチャクチャ顔が赤い。
さすがにコレは恥ずかしいと思ってるんだろなあ。
けど、実際はそういうコンディションを察して、さりげなく食事に誘わなかったのは俺の手落なんだよな。
ガラケー時計を見ると、時間は正午を回ったあたり。
ついつい会話するのが楽しくて、時間が経つのも忘れちまってた。
「あー、とりあえず飯にするか。食べるところはいくつか見繕ってあるから……」
「あ、そ、それなら僕……私、行きたいところがあるんだけどいいかしら?」
気まずさと申し訳なさを交えた表情の俺に対し、どもりながらも自己主張する渚。
さすがにその申し出を俺が断れることなく。
「ほら、ここよ」
そう言って繫いだままの手を引かれてやって来たのは、オレンジ色の背景に黒字で書かれた看板がトレードマークの牛丼チェーン店だった。
「いらっしゃいま……せ?」
挨拶をしてきた店員さんが、愛想笑いのまま凍り付く。
新たな来店者を横目でチラリとだけみた先住民が、直後に自分の丼に視線を戻そうとしたが、何かに気付いてこちらをガン見する。
いや、その気持ちは分かるよ。
牛丼屋を批難する訳じゃないけどさ、明らかにジャンク系ファーストフード店に渚はミスマッチなんだもん。
日曜日であるにも関わらず休日出勤し、ようやく昼休みと食事にありついたビジネス街のサラリーマンや、資本となる自らの体に肉をかき込むガテン系オッサンなどなど。
店内の大部分を男が埋め尽くし、わずかにいる女性客や家族連れも、カジュアルな恰好で食べにくる大衆の味方・牛丼屋。
そこに白ワンピース・麦わら帽子・長い黒髪・透き通るほどの可憐さといった、高原の避暑地でサンドイッチを軽く口に入れた後、優雅にアフタヌーンティーを飲む姿が似合いそうな、清涼感溢れる美少女がやって来たらどう思うよ?
ほら、ミスマッチにも程があるだろ?
そんな状況に遭遇したら、誰だって驚きを隠せない訳で。
もっとも当の渚は気にした様子を見せず、空いていたカウンター席に座り、その隣へ俺を招く。
コイツ、今の自分が他人の目にどう映るか気づいてないのか?
「いつもの……ええと、牛丼特盛にサラダと味噌汁のセットで。それに玉子もお願いします……兄一はどうするの?」
「あ、ああ。俺も同じものを」
何ら躊躇いなくスラスラと注文するお嬢様と、戸惑う俺。
「牛丼屋にに来るのは十数年……じゃなくて三か月ぶりだけど、やっぱりこの殺伐とした雰囲気はいいわね」
コイツ常連だったのか。
そう言えば渚のヤツが作るのは大雑把な料理が主だが、食べる方もこういった系統のモノが好きなのか?
なら俺も、今度からそこを踏まえて料理を作るべきなのかね?
そして店内が混みあっているにも関わらず、早い・美味い・安いという三拍子に嘘偽りなくすぐ出されてくるビーフボール。
「来た来た。じゃあいただきま~す」
渚がウキウキ気分で箸を握る隣で、俺はふと嫌な予感をひしひしと覚えていた。
その予感は遠からず当たることになる。
「……うっぷ。もう食べれない。なんで……」
「いや、そりゃなあ」
さっきコイツは牛丼屋に来るのが三か月ぶりと言った。
渚が女の子になれるようになったのは、大体二か月前。
だから、女の子として牛丼を食べに来るのは初めてってことだろ?
にも関わらず、男のときと同じモンを注文して食いきれる訳ないじゃん。
男と女じゃ胃袋の大きさも、食べる量が違うんだからさ。
……てなことを、オブラートに包みながら説明する。
「うぅ、久しぶりの牛丼に加えて兄一とのデートだからって浮かれてて、すっかり失念してたわ。家での食事時は気を付けてたのに……」
くそっ、こいつ不意打ちで嬉しい事言ってくれるじゃねえか。
つうか昼飯にココをチョイスしたのも含めて、たまにやらかすミス……『女の子になってる事を忘れて、無意識的に男のときにとる行動をした』ってことか。
しかしまあ、美少女って生き物はそれだけで得なもんだ。
可愛らしい外見に似つかわしくない行動だが、そこにギャップ萌えという現象を生み出すんもんだから、一緒にいて驚きはしても悪い気はしないんだよなあ。
「と、とにかく、せっかく注文したものを残すのは失礼ね」
渚が黒水晶のような瞳で、半分ほど残った食べかけ牛丼と俺を交互に見据える。
そして極上の笑みを浮かべると、箸にご飯と牛肉をよそって、俺の前へと差し出した。
「はい、あ~ん」
――その瞬間、店内の大半を占める男性客および従業員の殺気が俺に集中した。
渚は異世界にいく前から、ジャンク系の料理が好物だったりします。
でも一番好きなのは兄一が作った料理だそうです(渚談)




