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勇者渚の冒険(中編)

※保険でタグに「残酷な描写あり」を追加しました(異世界での戦闘等)


頑張って書いて一日分ストックためる→一日書くのを休むの繰り返しで常にストック無し状態。我辛。

異世界を舞台にした渚の魔王討伐の幕開けは、順風満帆だった。


召喚勇者の特性である強化された身体能力を駆使し、魔族や彼らが使役する魔獣を次々と打ち倒し、経験値を重ねて強くなる。


はじめのうちは王国の聖騎士や宮廷魔導士、大神官といった人類の精鋭とパーティを組んで戦っていたが、一か月と経たぬうちにパーティメンバーは渚の成長速度についてこれなくなり、二か月を過ぎた辺りで渚は一人で魔族と戦うようになっていた。


適材適所。

渚の覚えた勇者のスキルや魔法は広範囲殲滅系の物が多く、周囲に味方がいない状態の方が遠慮なく戦うことができたのも、勇者の単独行動を是とする理由の後押しになった。


一騎当千、古今無双。

各地の戦線を渡り歩き、魔族を殲滅して人類の防衛ラインを押し広げる渚は、行く先々の街で勇者として手厚い歓迎を受けた。


旅先で招かれた領主の屋敷では、贅を尽くした食事に加え、宿泊のための寝室には美しい女性たちが当てがわれたが、下の食事(・・・・)を堪能することは決してなかった。


渚とて健全な青少年であるから、女性には年相応の興味がある。

加えて地球にいた時から、すり寄ってくる女性に不自由はしてなかったが、渚は女性と性的接触だけは行わなかった。


渚の整った顔立ちに魅かれ、寵愛を受けたいと乞い願う女性たちは数多にいる。

英雄色を好むと言うように、片っ端から食べて(・・・)しまえればいっそ楽だったろう。


しかし、渚本人も気づかない『一人の異性しか愛さない』という性質のせいで、ハーレムを作ることがどうしてもできない。


さらに、労することなくすべてを与えられ、ある意味で甘やかされて(・・・・・・)育ってきた少年には、自分を慕う女性の中から誰か一人選ぶことで、それ以外を切り捨てるという当たり前の事ができなかった。


罪なき人々を塵殺し、勇者に激しい憎悪を向けてくる魔族には、殺意を以て刃を振るうことも躊躇(ためら)わない。

(じぶん)から距離を取る兄には、何ら思う所なく無関心を返す。

そして好意を向けてくる相手には、厳しい(・・・)選択を取れず、(味方限定の)誰もが傷つかない甘く優しい(残酷な)道しか選ぶことができない。


結果、近寄ってくる女性を(はべ)らせているだけの、ある意味健全な“ハーレムごっこ(・・・)”が、渚の異性関係の限界であった。


さて、そんな渚に最初の異変が起こったのは、異世界に招かれて三か月目の昼前だった。


何の前触れもなく、ぷつりと糸が切れたような感覚に見舞われる。

自分と誰かを繫ぐ【(ライン)】が切れたということを、渚は本能的に悟った。


【絆】を切ったのが、渚のアルバイト先の上司だということも理解できた。


競争や入れ替わりの激しい男性モデル界隈において、三か月以上も連絡が取れない者など必要ない。だからこれは当たり前でどうしようもない事だと、渚は割り切った。


その後も渚は魔王討伐の旅を進め、人類軍が順調に進撃することに比例して、渚と地球を繫ぐ【絆】の途切れもまた、加速度的に増していった。


一人、二人。十人、二十人。百人、二百人。


まるで潮が引き始めるかのように。

一過性の流行(ブーム)が廃れるように。


雑誌に全く載らなくなった渚に早々と見切りをつけた彼のファンは、驚くほどの速度でその数を減らしていき、半年が経過したころにはその数をゼロにまでしていた。


流石に渚もこれにはショックを受けたものの、状況が精神的動揺を露わにすることを許さなかった。

魔王の腹心である“三巨頭(さんきょとう)”が戦場に投入され、渚によって押し返していた戦線が再び拮抗状態に戻されてしまったからだ。


巻き起こる血煙。打ちつけられる剣撃。

戦場で相見(あいまみ)えた渚と三巨頭の戦いは、三日三晩続いた。


三人がかりで襲い来る最上位クラスの魔族に対し、一人で迎え撃つ渚。


切り結んだ直後こそ、数の暴力で不利を余儀なくされ、切り立った崖の上まで追い詰められた勇者であったが、戦いの最中に急激な成長をみせ、三巨頭のうち二人を仕留めていた。


そして残る一人をも聖剣で刺し貫いた時、想定してなかった衝撃が渚を襲った。


父親と母親の【絆】が同時に途切れてしまったのだ。


消息不明となってたった半年で、両親が渚に見切りをつけたということだろうか?

紙面を通して向こうが一方的に知ってるだけのファンではなく、生まれたときから十数年来となる、血の繋がった両親が自分を見捨てた?


あまりにあり得ない事実を前に硬直してしまった渚に対し、三巨頭の一人が最後の力を振りぼって襲い掛かった。

崖下に広がる、一度入ったら魔族であっても抜け出せない【迷いの森】へと、渚もろとも飛び降りを敢行したのだ。


――こうして勇者渚は、守るべき異世界の人民たちの前から姿を消した。



モテるはずの渚が未経験である理由を書いていたら尺が長くなり、前後編で収まりませんでした。


追記:本作は異世界転移モノではないので、そこら辺の描写はさっくり流し、展開もアバウトなのにはご容赦ください。


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