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 私は自分の生活を守りながら彼女を見守る。

 自ら強いた道は険しく思えた。ヤクザの世界に深く関わりすぎるのは嫌なのに、その彼らに守ってもらわないときっと生きていけない。


「言ったでしょ、あんたは普通に生きていいのよ」

 蔵野の妻である養護教諭が言う。あれだけ嫌っていた大人の余裕は今は少しだけ頼りになるものに見えた。

 不安要素はあるが、その全てに怯えて生きていくなんて辛すぎる。

 私は成人したら実家と縁を切るつもりだ。それまで、彼らを利用し身を守るのは子供に許されたことなのだ。

 

「ね、このあとどうする?」

「……ゲーセン行ってまたあれにチャレンジしようか」


 放課後になった保健室で私たちは笑いあう。

 私の“様子を見てくれている”であろう養護教諭に私はちらりと目線をやった。

「あんたたち、遊ぶのはいいけどあんまり危ないとこいかないでね」

「もう発信機つけてないですもんね」

「え? それって」

「あー庄谷、なんでもないから」

「極妻怒らせると怖いからもう行こっか」

「仙庭っ」


 目の端に黒塗りの車が一台。うざったいSPが付いてくるが、それも彼女を護るため。

 相変わらず彼女は男にモテるので、その辺も私が警戒していかなければならない。

 彼女自身はどうか知らないが、私は彼女に取り入る男は見逃さない。

 そうやって、ジャマな存在を排除していけばいつか彼女に好きだと言える日が来るだろうか。

 隣で屈託なく笑う奈津美を見て、なかなか難しそうだと溜息を付く。

 手に入れるなら、確実な方法で。私は本命に対してはひどく臆病らしい。


「あー、そうだ。今度奈津美に紹介したいところがあって」


 久しく足を運んでいないあの店に連れて行ってみようか。

 はためには変な人達しかいないが、奈津美に偏見の目はない。意外と馬が合うんじゃないだろうか。

 地道な日々の努力での礎づくりも恋愛事には必須である。

 彼女の性をこちら側にも目覚めさせるきっかけづくりを密やかに画策していると、ふと視線を感じた。

 奈津美がじっと私を見ている。

「なーんか、怪しいなあって」

 普段はボケッとしているのにここで鋭くなる資質はほんとに真面目に如何なものか。

 私はどぎまぎしながらどちらともつかない方を向く。空が綺麗だった。


「うん、泉美の好きなところもっと知りたい。ちゃんと連れてってね」


 そんな気恥ずかしい台詞もすんなりと言えてしまうのが彼女である。

 私は彼女の仰せのままに。

 きっと友達でいられるのが辛くなるまで。

 今は彼女の隣で笑っていられるのが幸せだ。

 だから私は満たされた気持ちで一杯に、頷く。

 彼女を好きな気持も一緒に届くように。



<了>

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