5 国賓の理由って、何なんだよ
一年ぶりに降り立った宙港は、驚くほど様変わりしていた。
以前は、星連の援助で造られた管制塔がポツンとあっただけだったのに、見渡すと凡そ二十棟ほどの建造物が、宙港を取り囲むように建ち並んでいる。それほど大きなものではないが、遠目にもわかるツヤツヤした光沢から見て、木造ではなく、強化プラスチック製のようだ。
「建物のほとんどは国交を結んだ惑星の大使館です。ドラードでは、宙港のあるこの山以外、本来の地面は遥かに下なので、特殊な種族を除いて、この場所に建てるしかないのです」
先を歩いていたメイメイが振り返り、そう教えてくれた。
「へえ、ドラードもずいぶん人気が出たもんだな」
メイメイの顔が曇ったのを見て、人気の理由がわかった。
「あ、そうか。早くもカネ儲けのニオイを嗅ぎつけて来たんだな」
メイメイは苦笑した。
「あからさまに言えば、そうですね。でも、なるべく多くの惑星と交わるというのは、天狗さまのお考えでもあります」
「荒川さんか。今、どうしてる?」
「文字どおり、ドラード中を飛び回っておられます」
「だろうな。おっ、と」
メイメイと話している間も、足元にチャッピーがまとわりついて歩きづらい。見かねたメイメイが現地語で何か言うと、スーッと先に行ってしまった。
「助かったよ。なんて言ったの?」
「中野さまのご到着を姉に伝えるよう頼みました」
「そうか。これでも国賓だもんな」
皮肉ではなく、思わずそう言ってしまったのだが、メイメイは申し訳なさそうに「すみません」と頭を下げた。
「いいさ、いいさ。人手も足りないだろうし。ああ、そういえば、元子とシャロンは先に行ったのかい?」
「いえ、シャロンさまが、どうしてもお土産物を見たいとおっしゃって、お二人で新しくできた宙港売店の方に行かれました」
あのブリッ子め、我儘放題だな。だいたい、いくら黒田夫妻の孫でも、JKが国賓って、どういうことだよ。
「よろしければ、中野さまも売店を覗いて行かれませんか?」
「ええーっ、どうせ、洞爺湖って彫ってある木刀とかだろう」
メイメイは笑って首を振った。
「いえいえ、義兄のイサクの腕も上がりました。是非ご覧ください」
そうか、あの後、モフモフたちは結婚したんだな。しかし、あの無口なイサクも、今や大統領の夫、ファースト・ジェントルマンだ。ちょっと、作品を見て置くのも悪くない。
メイメイに連れられて真新しい売店に行ってみると、確かに工芸品と言っていいような土産物が並んでいた。前歯だけでこれほど細かい模様を刻むとは、大した技巧だ。
ふと、言い争うような声が聞こえて来たので、おれは店の奥を覗いた。店の売り子らしい、葉っぱで編んだ前掛けをしたドラード人が困ったような顔で立ち尽くしていた。
その売り子に向かって、栗色の髪を片結びにして、水色のワンピースを着た女の子が、ものすごい早口で何かまくし立てている。
間違いなく、シャロンだ。
「え? 何? あれ?」
メイメイは可笑しそうに、「ずいぶん値切ってるみたいですね」と言った。
「いや、言葉さ、あれは……」
「そうです。ほとんどネイティブ並みのドラード語ですね」
唖然としているおれの横にいつの間にか立っていた元子が、「わかったでしょう?」と囁いた。
「あれが彼女が国賓として招かれた理由よ。シャロンさんは、語学の天才なの。現在星連に加盟している二十の惑星の、ほとんどの固有言語を話せるのよ」




