062 祠の下にある物
「なるほどにゃ、この少年は超能力を持っているにゃ」
サンドロの話に納得した私は、フウたんとサラに、なぜ彼だけが魔物や竜を見つけることができ、絶対に見えない場所や風景を視ることが出来たのか説明した。
まず、サンドロの頭にある小さな獣耳を見て、獣人と人間のハーフではないかと確認すると小さく頷いた。
父は人間だが、母はネズミの獣人だと答える。
獣人と人間のハーフ――半獣人は、強い肉体を引き継ぐことは稀で、その代わりに特殊な能力を引き継ぐ傾向にある。
さらにごく少数だが、先祖を超えた能力を持って生まれる子供がおり、それを超能力と呼ぶ。
おそらく母親の先祖であるネズミが持つ危機察知能力を引継ぎ、それを上回る能力を持って生まれたのだろう。
そして、サンドロは自らの危機を感じ、眠っていた超能力を無自覚に発動した。
どのような能力か、詳細は分からない。だが、ベストレア王家に仕える鑑定士に調べさせれば、すぐに分かる。ただ今は時間の余裕はない。
超能力を持っていたサンドロだから、今回の危機を察知して、人為的な魔物の大量発生に気づくことができた。
そう説明すると、フウたんやサラはもちろん、当の本人であるサンドロも驚いた。
「たまたま、この村にサンドロがいたから、今回の魔物の大量発生に、いち早く発見することができたにゃ。そして、そんなサンドロの依頼をフウたんは馬鹿にしないで、確認に来たからこそ、この危機を救えたにゃ」
最後に私が、サンドロの依頼を子供の戯言と無視せず、真剣に内容を読み込み、小さな違和感に気づいたフウたんを称賛した。
隣では、サンドロが目を輝かせて、フウたんに尊敬の眼差しを向けていた。
◆
ミリーの説明を聞いたサンドロ君が目をキラキラとさせて俺を見ているが、決してそんな褒められることではない。
ただ、子供が書く拙い文章を読んで、甥っ子のワイズを思い出して懐かしくなり、何か手伝えないかと思っただけだ。
サンドロ君が本当に魔物の大量発生の兆候を見つけたとは――思っていなかった。
加えて、違和感に関しても、そんな行間を読むような洞察力はない。
子供の文章の中に『魔物の大量発生』なんて難しい言葉が入っていて、よく知っているなと感心した程度で、そこまで深くは考えていない。
……相変わらず周りが優秀過ぎて、勝手に勘違いして俺の評価を上げていく。けれど、今回に関してはサンドロ君に尊敬されて悪い気はしない。
前世を含めて弟がいない俺は、可愛い弟というものに憧れを持っていた。武者修行に出るときの唯一の心残りも、甥っ子に会えなくなることだった。
ワイズの可愛い笑顔を思い出していると、サンドロ君が感謝の言葉を伝えてきた。
「ありがとうございます、フウマさん。俺みたいな子供が出した依頼を真剣に読んでくれて」
尊敬の眼差しを向けながらお礼を述べるサンドロ君を見て、あまり評価されるのもよくないと思い直した。
優しく笑いかけた俺は、ただ困っている子供を助けようと思っただけで、深い考えがあったわけじゃないと素直に話す。
すると、サンドロ君は俺が謙遜していると思ったみたいで、感極まって泣き出してしまった。
「ふふふ、相変わらずフウくんは、子供に優しいのね。そんなに好きなら、早く私と……」
「フウたんは、本当に子供が好きだにゃ。なんなら結婚前だが、いっそ先に作るにゃ」
泣き止まないサンドロ君を慰めていると、ミリーがとんでもないことを言い出して、何か言いかけたサラが鬼のような形相で睨んでいる。
そんな二人からそっと離れると、いまだに泣いているサンドロ君を連れて、祠があった広場の調査に向かった。
――――――――――――
広場に到着するとすぐに、泣き続けるサンドロ君に途中で買ったリンゴの果実水を飲ませて落ち着かせる。
そして、近くにあったベンチに並んで腰を落とすと、祠があった場所を尋ねた。
「サンドロ君、例の祠があった場所がどこだったか分かるかい?」
「ええっと、多分、あのベンチが置いてある辺りだったと思います」
彼が指差した場所は、ベンチが三基ほど並んでいたが、誰も座っておらず、その場所だけが不自然に人が寄りついていなかった。
やはり、たまに聞こえる地中からの不気味な音や振動を気味悪がり誰も近づかないとサンドロ君は話した。
ベンチから立ち上がると、祠があった場所まで歩き、サンドロくんにより詳細な位置を確認して、そこに手を添えて物質変化魔法で地表を硬くする。
そして、地面に耳を当てて指で軽く叩きながら移動していくと、明らかに反響音が違う場所があった。
ここが祠が建っていた場所じゃないかと確認すると、サンドロ君はその場所を掘り始めた。
サンドロ君を手伝い、一緒に掘っていくと古い木の人形が出てきた。彼はその人形の背中を見て頷くと、ここが祠があった正確な場所だと断言した。
この人形は、子供のころに友達と祠にお供え物をしたときに、一緒に埋めたものだそうだ。
サンドロ君の説明を聞いた俺は、ここだけが打診したとき、音に違和感があり地中に何か埋まっている可能性があると伝えた。
その言葉に、再びサンドロ君が尊敬の眼差しを向けてきたので、つい苦笑してしまう。
俺が使った打診は、前世で隠し通路や扉を探すために覚えた簡易なもので、調査に特化した忍びが使うものと比べたら児戯に等しい。
――尊敬されるものではない。
とにかく地中に何か埋まっているのは間違いない。ただ、大きさも形も分からず、これが魔物の大量発生に関係があるかは分からない。
調査に行き詰り、どうすればいいか迷っていると、サンドロ君が下を向き地面を凝視した――その瞬間、こちらを向き叫んだ。
「フウマさん、この下にとても大きな卵型の魔石が埋まっています。そして、その中に小さなドラゴンがいます!」
サンドロ君は地中に巨大な魔石が埋まっていると告げ、さらにドラゴンがいると訴えた。
俺はサンドロ君に超能力を発動させたのか尋ねた。
そして、彼が見た魔石について詳しく聞こうとした――そのとき、ザンギエさんが駆けつけ、二つの魔物の群れが出現したと叫んだ。
この作品を『おもろい』、『気になる』と思ってくださった方はブックマーク登録や評価して下さると執筆の励みになります!
また、メッセージや感想も頂ければ、嬉しいです。
よろしくお願いします<(_ _)>
あと、「呪術と魔法は脳筋に ~魔族から人間に戻りたいのに、なかなか戻れません~」という作品も投稿していますので、読んで頂けたら、なお嬉しいです。<(_ _)>




