006 あれから5年
本当は6話目からは、隔日で投稿しようと思いましたが、思ったより筆が進んだので、もう少し連日で投稿したいと思います<(_ _)>
「呪術と魔法は脳筋に」という作品も投稿していますので、読んで頂けたら嬉しいです<(_ _)>
――フォルテ誘拐事件から更に五年の月日が流れた。
あれからシュバルツ帝国とは水面下で交渉が行われて、誘拐事件は無事に解決した。誘拐した証拠がなかったため、最初は両国が納得する結果が得られなかった。
……だが、時間が経過するにつれて気持ちも落ち着いてきたのか、妥協できる内容になったとのことだ。
ちなみにフォルテ殿下を誘拐した目的だが、アルス兄さんに聞いたが、教えてくれなかった。
授業中に俺がぼんやりと外を眺めながら、昔のことを思い出していると隣からスカイが声をかけてきた。
「アーク、ぼーっとしていると、ティア先生に叱られるぞ。まぁ、あの人が怒ったところを見たことはないがな」
この五年でスカイはすっかり大人になり、かなりの美男子になっていた。町を歩けば、周囲の女性から視線を集めるほどだ。
身長も伸びて大人に負けないくらい高く、同学年の中では背が高い俺よりも、さらに頭一つ分ほど高い。
「あぁ、確かにティア先生が怒るところは想像がつかないな。このミューズネイト学園の聖母と呼ばれる先生が」
「2人とも、これ以上話してると、いくらあのティア先生でも怒ると思うよ」
軽口を叩き合う俺たちに、後ろの席のジークが少し呆れながら注意する。
赤く長い髪を束ねるスカイに対して、彼は紫色の髪は耳にかかる長さで切り揃えられている。
ジークもスカイに負けず劣らずの美男子に育った。眼鏡ごしに見える紫の瞳は涼し気で色気を感じさせる。
知的な雰囲気と物腰の柔らかな態度で、学園の女子生徒から絶大な人気を誇っている。
「そこの三人、授業中に話しては駄目よ。私の授業、そんなにつまらない?」
軽くウェーブがかかった緑の髪を腰まで伸ばし、優雅に教鞭を振るうティア先生が悲し気に聞いてくる。
その瞬間、クラス中の男子生徒から睨まれて、俺たちは針のむしろの心地になり、仕方なく俺が代表して謝罪する。
「ティア先生、授業中に会話をしてしまい、申し訳ありませんでした。先生の授業がつまらないと言うことは一切ありません。先生の治癒魔法における外科手術への応用や欠損部位修復への新たなアプローチなど、論文を読ませてもらいましたが、どれも素晴らしく、治癒魔法に対する並々ならぬ情熱を感じました。そんな先生の授業がつまらないはずなど、決してありません」
俺は早口で一気に言い切ると、深々と頭を下げた。今度は、クラス中の女子生徒から熱い視線を感じるが――
おそらく、気のせいだろう。
◆
私が授業をしていると、後ろの席から小声で会話をしている生徒がいることに気づく。
軽く溜息を吐き、チョークを置いて振り向くと、学園きっての美男子アーク君が友人のスカイ君、ジーク君と話をしていた。
三人が並んで歩いていると、学園中の女子生徒が尾行するほどの人気だ。
とくにアーク君は小・中・高等部すべての女子生徒にファンがいる。白みがかった銀髪を軽く伸ばし、前髪は少しだけ目にかかっている。
あまり目立ちたくないのか、普段は髪を下したままだが、武術の授業では髪を纏めて後ろで束ねている。
そのご尊顔を拝みたくて、授業を抜け出して見に来る生徒もいるくらいだ。
――かく言う私も推しはアーク君だ。
ちょっとワイルドなスカイ君も素敵だし、どこかミステリアスなジーク君も捨て難い。
けれど、どこか人を寄せ付けない雰囲気を持ちながら、たまに見せる悲し気な眼差しは、庇護欲に駆られる。
また一方で、武術の授業のときに見せる凛々しい姿は、守ってもらいたいと願わずにはいられない。
――そんな超絶美少年のアーク君が私の授業の最中に会話をするなんて、少し悲しい気持ちになる。私はセンチメンタルになる気持ちを抑えて三人に注意する。
「そこの三人、授業中に話しては駄目よ。私の授業、そんなにつまらない?」
アーク君は席から立つと、謝罪と一緒に私が書いた論文を褒めてくれた。
まだ、中等部の生徒が読むには難しい内容だ。それを読んで理解していたことに驚く。
そして、わざわざ読むということは、私に気があるかもしれない。十二歳と二十歳――ちょっとだけ年齢は離れているけど問題ない。
――だってアーク君だもの♪
自然と口元が綻びながらも、教師として――そして、将来の妻として注意する。
「ふふふ、私の論文を読んでくれたのね、ありがとう。その熱心さに免じて、今回は許してあげます。次に会話をしたら追加で補習を受けてもらいますからね」
「はい、わかりました。以後、気を付けたいと思います」
アーク君は少し驚き、すぐに表情を戻すと頭を下げて席に着いた。
――やっぱり、推しはアーク君だ!
◆
ティア先生から許してもらい、席に着くと授業に集中する。ちらりと隣を見るとスカイが手を上げて謝罪していた。
俺は軽く笑って頷くと、教鞭を振るうティア先生の方に視線を向けた。
――――――――――――
放課後、スカイたちと別れて生徒会室に向かう。生徒会長になったサラ先輩のお願いで俺は副会長をやっている。
会長の補佐が主な業務だが、生徒会の中で一番年下の俺は積極的に書記や経理を手伝っている。
「失礼します。授業が長引き少し遅れてしまいました。待たせてしまい、すいません」
部屋に入ると、先輩たちに待たせたことを謝罪して頭を下げる。
「全然、気にしなくていいよ。ボクたちもたった今、来たんだから」
風紀委員長のユウカ先輩が、手を振り元気よく迎えてくれた。
亜麻色の髪を短く切りそろえたボーイッシュな女性で、将来は近衛騎士を目指している。武術の成績は、常に上位だ。
一度だけ軽く手合わせしたことがある。魔法から槍術まで何でも器用にこなしていたことを思い出した。
「あぁ、気にするな。特に時間を決めていた訳じゃないしな」
書記長のコルン先輩も詫びる必要は無いと頷く。彼は紺色の髪を七三にきっちりと分け、少し神経質に見える。だが、実は心優しい優男だ。
温和な魔獣の保護活動に熱心で、中等部でありながら冒険者活動を行い、そういった魔獣を見つけては、捕獲して狩猟禁止リストに登録している。
そんな先輩に尊敬の眼差しを向けていると、背後から声をかけられた。
「それに生徒会長であるサラがまだ来ていないし、打ち合わせも始められない。まったく問題ないわ」
唯一の三年生で経理担当のリリア先輩が本を読みながら告げる。
深緑の髪を三つ編みで一つに纏めて肩から下した物静かな女性で、いつも無表情で何を考えているか分からない。
すでに集まっている先輩たちに軽く頭を下げて、生徒会室に入る。コルン先輩の隣に座ると、突然、勢いよく扉が開いた。
「ごめんなさい! ちょっと友達の相談に乗っていたら遅くなちゃった」
背中まで伸ばした青い髪は急いできたのか少し乱れている。水色の瞳は思わず吸い込まれそうになるくらい綺麗だ。
誘拐事件のころはあどけなさ残る少女だった――サラも今では立派な美しい女性になっていた。
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします<(_ _)>




