042 ガリュウと約束
俺は四年ぶりの龍覇王虎武闘大会に興奮して、お忍びで予選トーナメントを観戦しに来たが、面白い男を見つけた。
黒い服に身を包み狐の仮面を付けた一風変わった男だが、なぜか誰もヤツを気にした様子を見せない。
たしか東洋連合国の一部の部族が鬼や狐の仮面を被り素顔を隠して生活していると聞いたことがあるが、そこの出身者かもしれない。
狐のお面を付けた男に興味をもった俺は、近づき声をかけようとした瞬間、こちらを振り向き機先を制される。
「どちら様ですか? 後ろに立たれるのは勘弁してほしいのですが」
狐面の男が警戒するように立ち上がり、俺との距離を少し開けて様子を伺う。俺は苦笑いを浮かべ、不用意に背後から近づいたことを詫びる。
「いきなり近付いて悪かったな、俺はガリュウ。一応、この国の王太子だ。あんたは東洋連合国の人間か?」
「……はい、そうです。名前はフウマ、龍覇王虎武闘大会に呼ばれて来ました」
俺がベストレア獣王国の王太子と分かり、フウマは警戒心を高めたようだが、俺は特に気にした様子を見せずに話を続ける。
「そうか、今大会に呼ばれたのか。ということは、相当な実力者というわけだな、ちなみに誰の推薦だ?」
「……一応、レーヨンの冒険者ギルドのギルド長とベストレア獣王陛下から推薦を頂きました」
フウマは、俺の親父と師匠であるベアモンドの2人から実力を認められて推薦されたと言った。
二人とも現役時代は、「最強のレオン」と「最凶のベアモンド」と呼ばれ、冒険者はもちろん武術の世界でも名を轟かせた化け物たちだ。
その化物たちが揃って推薦するフウマとは一体、何者だろうか……。
俺は益々、フウマという男に興味を持ち、いつもの癖で殺気を放つと拳を突き出した。
◆
自らをベストレア獣王国の王太子――ガリュウと名乗った青年を見つめる。
年齢は二十代前半ぐらいだろうか。オレンジ色の髪は短く刈り揃えられ、赤い瞳は俺を射抜くかのように鋭い。それにミリーの面影がある。
王太子という割にはどこか気さくで話しやすい。だが、油断はできない。
本人は隠しているつもりだろうが、かすかに殺気が漏れて、隙あらば何か仕掛けようとしているのが見え見えだ。
案の定、レオン陛下とベアモンドさんから推薦をもらっていると伝えると、いきなり正拳突きを放ってきた。
油断なく構えていた俺は、ガリュウの拳をギリギリまで引き付けて、半身になって躱すと、腰を落としながら素早く懐に入り込む。
彼は視界から消えた俺を探そうとするが、懐に入り込み気配を消した俺を見つけることが出来ない。
ガリュウが背後に視線を向け瞬間、突き出した腕を掴むと思い切り腰を跳ね上げて投げ飛ばした。
突如、投げ飛ばされたガリュウは受け身も取れずに地面に叩きつけられるが、すぐに立ち上がると後ろに跳躍して距離を取る。
互いに油断なく構えて睨み合う。そのとき、ミリーと同じオレンジ色の髪をした少女が飛び出し、俺たちの間に割って入る。
「ガリュウ兄様、いい加減にするのですにゃ! いきなり城から消えたと思ったら、こんな場所で喧嘩とは、王太子としての自覚がないのですにゃ!」
少女は、ガリュウの方を向き、王太子として軽率な行動をとったことを批判した。
彼は少女が乱入したことで、気勢が削がれたのか、殺気を消して構えを解くと、もの凄く嫌そうな顔をした。
「なんだ、サリアナか。お前こそ、なんでこんな所にいるんだ? 今日はドランとリリノイアに稽古をつけてもらう日だろうが」
「ガリュウ兄様のせいですにゃ! 兄様が急に城からいなくなって、稽古どころではなくなったのですにゃ!」
どうやらガリュウは誰にも告げずに、お忍びで予選トーナメントの会場を訪れたらしい。
それなら今ごろ、王太子が行方不明になった城は、大変な騒ぎになっていることだろう。
ミリーに似た少女――サリアナは、大事な稽古の時間を犠牲にして兄であるガリュウを探しに来たと言った。
――思わず妹のラーラと重ねてしまい、ガリュウに注意してしまう。
「ガリュウ王太子殿下、私が言うことでは無いと思いますが、あえて言わせてください。兄とは妹を大事にするべき存在です、サリアナ王女殿下を困らせるのはいかがかと思います」
その言葉を聞いたガリュウは驚いた表情をする。だが、すぐに意地悪い笑みを浮かべると、俺に一つ提案を持ちかけた。
「フウマの言う事はもっともだが、兄妹同士の問題に他人が首を突っ込むのは、いかがかと思うぞ。だが、そうだな。――もし俺に勝ったなら、お前の意見を聞いてやろう」
「いえ、結構です。確かに兄妹の問題に身の程をわきまえない発言でした、俺が悪かったです。どうかお二人とも、そのまま仲のよい兄妹でいて下さい」
今までの経験からガリュウと戦えば、またややこしい問題が起こりそうな気がした俺は、ガリュウの提案を丁重にお断りする。
俺はこの場を立ち去るため、ガリュウに頭を下げかけたとき、サリアナ王女殿下の涙が目に映った。
……俺は面倒事に巻き込まれたくないがために、一人の少女を犠牲にしようとしているのかもしれない。
ラーラと同い年ぐらいの少女を見捨てるような非情な心は、生まれ変わった時に捨てたはずだ。
自分の信念のためにサリアナを救うと決意する。
「……ガリュウ王太子殿下、申し訳ありませんが、先ほどの言葉は撤回させて下さい。もし殿下との戦い、俺が勝ったなら、サリアナ王女殿下に謝罪し、今後、迷惑をかけないと約束してください」
「ははは、良いだろう。ここで戦ってもいいが――。そうだな、お前も武闘大会に出場するのだろう? なら、そこで戦うぞ。俺と当たるまで、絶対に負けるなよ」
彼は自分が負けることなど、微塵も思っていないようだ。
ガリュウの提案を受けて、今後は迷惑をかけないと約束させるとサリアナに謝罪し、今度こそ頭を下げると、その場を後にした。
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