004 王女救出
本日、2本目の投稿です。
なんとか間に合いました。
明日は1本の投稿予定です。
しばらく進むと牢屋らしき場所が見えてきた。ただ、その前には見張り部屋があり、軍服を着た二人の男が向かい合うようにテーブルに座っていた。
男たちは、とくに会話をすることもなく、黙って資料らしきものに目を通している。ただ、やはり軍人なのだろう、その所作に隙がない。
視力を強化して奥の牢屋を確認するが、かなり暗く詳しい様子が見えなかった。次に聴力強化をすると、女の子がすすり泣く声が聞こえた。
……やはり、あの牢屋に王女が閉じ込められていると確信する。
急いで男たちを無力化して牢屋から王女を救出しないといけない。救出を優先して侵入したため、痕跡は残したままだ。
もし発見されれば、すぐにこの地下牢に人がなだれ込んでくる。
殺したくはないが、背に腹は代えられない。……俺は腰袋から拳大の鉄球を取り出す。右腕を強化して、こちら向きに座る男に狙いをつけて投擲した。
手首に魔力を集中して投げた鉄球は空気を裂き、男のこめかみに直撃する。ゴンと鈍い音をたて、白目を剥いて男は突っ伏した。
異変を感じたもう一人の男が資料から視線を上げると、テーブルに顔を伏せる男を起こそうとする。
素早く物陰から飛び出した俺は、気配を消して最速で男の背後に回り込み、肩車するように上に飛び乗る。
右足の脹脛を男の首にかけると、左足を右足首にかけて思いっ切り締める。変則の三角締めが決まり、やがて男は泡を吹いて倒れた。
意識を失った男が倒れると同時に飛び降り、男を支えるとそっと地面に置いた。
子供の腕力では敵わないと判断して、足で締めあげたのが良かったようだ。あまり抵抗もなく、あっさりと意識を刈り取ることができた。
倒した二人の脈を取り、生きていることに安堵する。俺は鉄球を回収して、牢屋の鍵を探すと、壁に大量の鍵がぶら下がっていた。
とりあえず、すべてを奪い取ると牢屋に向かう。目の前につくと奥の方に怯えるようにうずくまる人影が見えた。
すぐ牢屋の扉を開けるために、手当たり次第に鍵を突っ込んでいくと、すんなりと扉は開いた。
俺は他にも敵が潜んでいないかと警戒しながら、慎重に中へと進み、奥の方で膝を抱えて泣いている少女に声をかけた。
「我が国の王女が攫われ探しているのですが、あなたはフォルテ殿下ですか?」
その言葉にぴくりと肩を揺らした青髪の少女は顔を上げ、俺が少年だと分かると、驚きつつも答える。
「……いいえ、私はフォルテ殿下ではありません。フォルテ殿下にミューズネイト学園を案内するよう仰せつかい、一緒にいるところを攫われてしまいました。どうか、殿下を助けてください!」
懇願する少女を見ながら、己の迂闊さを悔いる。たしかに姫を護衛する者や世話をする者が近くにいてもおかしくなかった。
とりあえず、急いでこれからどうするか決めないと、人が来てしまう。
「わかりました、それでフォルテ殿下がどこにいるか御存じですか?」
「はい、同じ地下室に連れて来られたのは間違いありません。牢屋は別々になってしまいましたが、ここにいるはずです」
よかった――ここにいるなら急いで探せば、間に合うかもしれない。俺は青髪の少女を連れて牢屋を出ると、手分けして次々と牢屋の扉を開けていく。
しかし、なかなか見つけることができず、焦燥感に駆られる。残りは一つ。最後の牢屋に望みを込めて開けると、そこには黒髪の少女が目を閉じて座っていた。
「フォルテ殿下、ご無事ですか!? 怪我などされていませんでしょうか?」
青髪の少女――サラは黒髪の少女に駆け寄ると、悲痛な表情を浮かべて無事なのか尋ねた。そんな彼女に黒髪の少女――フォルテ殿下はそっと瞳を開き、静かに答えた。
「サラか? 大丈夫だ。怪我などしておらん。それで後ろにいるは誰だ?」
金色の瞳で射抜かれた俺は、思わずたじろぎそうになるのを耐えて、恭しく告げた。
「私はカインズ公爵家の四男、アークと申します。殿下が攫われたと聞いて、1人捜索しておりました」
床に片膝をつき臣下の礼をとる俺を、フォルテ殿下は冷めた目で見つめる。続けて、すっと立ち上がると、スタスタと牢屋から出て行った。
「お待ちください、フォルテ殿下。まだ、殿下を誘拐した賊がいるかもしれません。どうか、私が先行しますので、後をついて来てくれませんか?」
とっさに肩を掴んでしまう。殿下はじっとその手を睨みつけると、重く低い口調で告げる。
「………。わかった、では急ぎ、ここから連れ出せ」
「はっ、かしこまりました」
俺はすぐに手を離して、深々と頭を下げると、フォルテの前に出て進みだした。
◆
眼の前を歩く少年を観察する。銀色の髪は耳にかかる程度に切りそろえられて、初めて見る黒い瞳は神秘的だった。
目鼻立ちも整っており、銀色の髪と相まってアルスの身内だとすぐに悟る。
たしかカインズ公爵家の四男――用心深く先行するアークは、魔力量が少なく役人を目指していると聞いた。
だが、まさか単身で敵の屋敷に忍び込むほどの胆力を持っているとは……。それに後ろから見ただけだが、隙も無く足音も立てていない。
アークの動きを注意深く観察していると、地下室の出口に着く。私は床下から部屋に出ると、周囲を見渡す。
――なるほど、私を誘拐したのはシュバルツ帝国の人間だったか。あの国とは、そこまで関係は悪くなかったはずだが、何が目的なのか。
ふと、アークに視線を移すと、扉を少し開けて様子を覗っている。他に人がいないことを確認して、手招きをして部屋を出る。
幸いにも裏口まで誰にも会うことなく辿り着いた。
屋敷を抜け出すと、急いで人通りが多い場所を目指して、アークが私の手を取り走り出した。
ようやく安心できるところまで来ると、アークが手を握っていることに気づいて、さっと離す。
「大変申し訳ございませんでした、フォルテ殿下。緊急事態とはいえ、お許しもなく、御手に触れたことご容赦ください」
深々と頭を下げて私に謝罪した。人通りも多かったため臣下の礼は自重したようだ。私が問題がないと伝えると、アークはほっとして、わずかに微笑みを返した。
誘拐の恐怖を隠すように冷徹に見ていたはずの私が……気づけば頬が熱い。
――なに、その笑顔? めっちゃタイプなんですけど!
バトルの爽快感が合うなら、こちらもきっと。
方言一言で世界が変わる『クマモトという名の異世界』
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